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斉藤壮馬「キッチン」を、私はこう味わう

斉藤壮馬さんの2ndフルアルバム「in bloom」(2020年12月23日発売)に収録されている「キッチン」について、「私はここが面白いと思った!」というところを語ります。

私がお話しするのは、考察とか解釈とか言えるものではなく、味わいポイント。
歌詞のテーマとか解釈とか考えてみようと思ったけど思いつく内容に統一性がないのよ。うーーん。
Twitterやブログで考察をされてる方へ拍手。

今回は、詞について考えました。私がアプローチできるのはここだと思うので……。

それと、実はテクスト論で考えたかったんだけれど、難しかった。
結局壮馬さんの発言に頼って、安心して考えた……(笑)
たくさん考えて纏めたらひとつの世界が出来上がるのかもしれないけど、各章につながりはなく点々と書いております。

先に反省点(懺悔?)をお知らせしておくのでご承知おきくださいね。

・サムネと発想は良いかもしれない

・でも、考察に無理がある。伝わりづらい。考えが浅い。

・私の書く文体に統一性がなくて読んでいて気持ち悪いかも

1 斉藤壮馬さんの言葉に救われることにした

ラジオとかpersonal spaceで、「作品が作り手を離れて世に出たら、自由に解釈されるもの」みたいな壮馬さんの発言があった気がする。
全然言葉が違うかもしれないけれど、こんな感じのニュアンスだったと思う。

「正解というものはなく、自由に味わった」という、ひとつのチャレンジングだけれども取りとめのない話としてこの記事を読んでいただきたい……。

「キッチン」の難しいところは、「よく分からない」ところ。
無理やり纏めようとしても纏まらないところ。

よく歌詞を聴くと、この曲の主人公はどうも様子がおかしいところがあると思うのでそこも面白いなと(笑)(Ani=Pass #10より抜粋)

って壮馬さんも言ってるし、やっぱりおかしいよね……ぶっ飛んでるっていうのも、共感しないわけがない。


2 吉本ばなな「キッチン」と類似点を見つけた(と思い込んでる)

ドライブ中に「キッチン」を聴いていたら、結構いい発想じゃない??(自画自賛)という思いつきがあった。

「この歌詞、ひとまとまりだと思っていた言葉たちが、文としてつながりがないぞ・・・・?そういえば、吉本ばななの「キッチン」も、一文やひとまとまりの言葉にちょっと違和感があったり不自然だったりしてたじゃん?これ、「キッチン」どうしでつながりがあるんじゃない!?!?」

と、私は夜のひとりドライブ中(仕事帰りなだけ)にワクワクきらきらしていたのだけれど、実際に考えたり、ノートにメモしたりしてみたら、そんなにパッキリはっきりするような発想ではなかった。(もしくは、私の脳みそが足りないだけ)

先に結論。

斉藤壮馬「キッチン」の、歌詞がどこで切れるか、どの言葉が係り受けの関係になっているのかが不明確な点と、吉本ばなな「キッチン」の、作品中の文の構造に違和感を感じさせたり、係り受けが分かりづらかったりする点に共通性を見つけた。

……というか、見つけられそうだった。


2−1 斉藤壮馬「キッチン」の場合

空の瓶が/お利口さんに並んだ/捨てるなら/まとめてから 旅に出る

「旅に出る」だけ浮いているように感じられる。「旅に出る」がなかったら、空の瓶をまとめてから捨てる、という意味が明らかになるんじゃない……?

考えたのは3通り。


1通り目。

「空の瓶が お利口さんに並んだ 捨てるなら まとめてから」と、「まとめてから 旅に出る」の2文が1文に重なった説。

「まとめてから」というワード思い浮かべてたら「荷物をまとめて旅に出る」的なフレーズ連想しちゃって、この曲の主人公が鼻歌に乗せちゃった、みたいな。

この曲、私の中では、遅めに起床した主人公が、晴天の休日に鼻歌歌いながらキッチンで過ごす時間を描いたもの、というイメージ。


2通り目。

「まとめてから 旅に出る」と「捨てるなら 旅に出る」という2文が1文になった説。

「まとめてから旅に出る」は「捨てる空の瓶をまとめた後で、自分は旅に出る」という意味。

「捨てるなら旅に出る」は、瓶側の視点で、「捨てられるなら、旅に出てやる」みたいな意味。もしくは、主人公側の視点で、「捨てるという投げやりな言葉ではなくて、旅に出るという面白い見方をしよう」という意味。


3通り目。

もしかしたら、「旅に出る」のところはメロディーだけが先にあって、流れるように歌えて、流れるように聴こえる、何か意味を持つ音(言葉)を入れただけ……??

そしたら浮いていても、まあいっか……と思ってしまう。

神さまのレシピを盗んで/桃源郷 オーケストラ 神秘で/なんだかもう シンフォニー

この言葉たち、つながりの薄い関係って感じで咀嚼できない。

神さまのレシピを盗んで、何なのか?どうするのか?って考えたくなってしまうけれど、受けるところがない。無理やり考えてみた。

・神さまのレシピを盗んで桃源郷(神さまのレシピは俗世離れしていた、びっくり、みたいな)

・神さまのレシピを盗んでオーケストラ(神さまのレシピでも盗んでオーケストラやっちゃお、とか。神さまのレシピというすごい物を手に入れたら、キッチンに立っているただの人間の主人公にだって多くの人を指揮できちゃうのよ、みたいな)

・神さまのレシピを盗んで神秘で(神さまのレシピを見てみたら神秘的だった的な)

「シンフォニー」のようなダイナミックな状況じゃん、面白いじゃん、っていうまとめが最後の「なんだかもう シンフォニー」。


2−2 吉本ばなな「キッチン」の場合

浮いてる言葉が存在したり、普通とは違う言葉の使い方をしたりして不思議な文があるような……と思って抜き出してみたけれど、読み手によっては違和感なく読めてしまうかも。

今回底本にしたのは、新潮文庫 吉本ばなな『キッチン』(第32版 平成26年4月30日発行)。手元にあったので。

現在手に入るものとページ番号のずれがわからないけれど、ページ番号も記しておく。

本当に疲れ果てた時、私はよくうっとりと思う。(P.7)

「うっとりと思う」という言い方はなかなかされないような気がする。

「音楽にうっとりと聴き惚れる」とか、「優美な香りにうっとりする」とか、そういう使い方は日常的にされているけれど、思考動詞を修飾することはなかなかないのでは。

いつか死ぬ時がきたら、台所で息絶えたい。ひとり寒いところでも、誰かがいてあたたかいところでも、私はおびえずにちゃんと見つめたい。

いきなり出てきた「見つめたい」という言葉。この言葉が浮いてる。何を見つめるのか、一切記述なし。「死」を見つめるのかな?と推測したくなるけど。「キッチン」はおばあちゃんが亡くなってからのお話だから。。。

 引っ越しは手間だ。パワーだ。(P.9)

引っ越し=手間というのは分かるにしても、引っ越し=パワーというのはなかなか理解できない。この「パワーだ」をどう消化したらいいんだろう。

「パワーが要る」という省略を読み取るのが妥当?もしくは、引っ越し=パワーというのをニュアンスだけ感じ取って、言葉で詳しく考えないのが正解?

私は、元気がないし、日夜台所で寝ていたら体のふしぶしが痛くて、このどうでもよく思える頭をしゃんとさせて、家を見に行くなんて!荷物を運ぶなんて!電話を引くなんて!

この一文、流すように読んでいたら気づかないかもしれないけれど、不自然な流れをしていると思う。文の始めは体の状態の説明をしているのに、文の真ん中を過ぎると、感情をぶつけるだけになっている。

悪く言えば、魔がさしたというのでしょう。(P.11)

ここまで常体で語られていたのに、いきなり敬体が使われた。そして、この後すぐに常体に戻る。他の文体から浮く一文。

世の中に、この私に近い血の者はいないし、どこへ行ってなにをするのも可能だなんてとても豪快だった。(P.16)

「豪快」という言葉がこのように使われるのもなかなかないのでは。「豪快な食べっぷり」とか「豪快に笑う」とか、何かを修飾するときに使われることが多いと思う。でも、こんな豪快な(?)使い方されたら気持ちいいかもね……(笑)


2−3 「キッチン」に共通するところのまとめ

・係る言葉、受ける言葉が不明確な言葉が現れること

・自然なフレーズの流れで出てくる、不自然な一単語

「キッチン」って不思議なことが起こる、不思議なことを思いつく場所なのかなあ……。

私が考えた共通点が具体的な言葉とか場面ではないので伝わりづらいと思う。もっとわかりやすく説明できたら、と思うのだけど、そこはスキルもアイディアも不足しているので……ごめんなさい。でも私はとりあえず、「こんな感じだよ」って文字にできたので、すっきりとまではいかないけど、ほっとしてる……。


3 「世界を救う」という規模の大きなワード

世界を救うのは/たぶんわたしじゃない

「キッチン」の中で繰り返し登場するこの言葉。

「キッチン」という生活感溢れる場所から、いきなり規模が大きなワードが出てきた。

キッチン=家の中で世界とのつながりを持てる場所(各地の産物、輸入製品などが様々存在するから)

というように連想されて、ぼや〜っと、「救う」というアクションと結びつけたのかしら。

主人公が寝ているときに見た夢をまだ覚えていて、そのことを考えて出てきたフレーズとも考えていいかな……。


4 「あー」 「ああ」 「あああ」の書き分け

同じ発音なのに歌詞見たら書き分けられている感嘆詞。

これ、書き分けているのに意味あるかな?と思うけれど、せっかく書き分けられているんだから、無理やり意味をつけてみよう……というチャレンジ。

・「あー」 → 何もないところからの発想

あー 今日は/オムレツでも作るか
あー 今日は/なに食べようかな そんで

・「ああ」 → 見える物に対する気づき

ああ そうだ/アボカド もう限界だわ
ああ ナツメグ 入れすぎてしまったかも!

・「あああ」 → 考えていたことをど忘れしたときの嘆き

あああ 今日は/なに食べようとしてたっけ

5 おわりに

「キッチン」は壮馬さんがアルバム制作の中で一番苦労せず歌詞を書いた曲、ということで、無理に考えるのがそもそも難しいのでは……という反省(笑)

「夢と現実、妄想と現実の境目が分からない曲が多い」というAni=Pass #10のインタビューでの言葉に救われたことにして(これはなんでもありな夢かもしれない的な)、私の自由な味わいをどうぞ。(?)

こんな記事でも、考えながら書いて、大学のレポートかしらって感じ。

書き終えてみると、試しにやってみる気持ちで書いた、書き分けの部分が一番まともな気がしちゃうな。

飛ばし飛ばしでも読んでくださった方、ありがとうございました。