見出し画像

【本編11】発行当日(月曜日)

 月曜日の18時、業務時間が終わり、メルマガの発行準備を開始しました。誤字脱字はないか、宛先に漏れはないか、何回も何回もチェックし、コーヒーを飲み、深呼吸をし、発行した後の読者の反応を想像し、一連のプロセスをもう一度繰り返し、何回か躊躇し、そして祈るように送信ボタンを押しました。
 19時に私のメルマガは、自組織の100名、リーダーシップ研修の卒業生、社長以下全役員、全事業部の企画ラインなど、500名を超える読者のもとに飛んでいきました。

 残業時間帯ではあったのですが、私のオフィスには大半の人が残っていました。もちろん、彼らのところにもメルマガは飛んでいます。

 誰かが何か反応してくれることを心の中で期待していました。あるいはよその担当の人でもいい、親しいリーダーシップ研修卒業生でもいい、経営企画部でもいい、役員でもいい。どこかの誰かから「よくやった!」という返信がくることを待っていました。

 仕事も手につかず、そわそわしながら。しかし、誰からの反応もないまま時間は過ぎていったのです。私の中の高揚した気持ちがだんだん萎えていきました。期待が失望へと変わっていきました。

 22時、もう待つことはやめることにしました。パソコンの電源を落とし、帰宅の途につきました。

 帰りの電車の中で、私は自分のしたことを冷静に考えてみました。40過ぎたおじさんサラリーマンが、なんて能天気なメルマガを発行してしまったのだろうか。全社運動会で恥をかいたことを思い出し、自分を勇気付けようとも思いましたが、あれは新入社員時代の出来事だし、今とは状況は違うと思ってしまいました。そして、能天気なオヤジのメールは、明確な証跡として多くの社員のメールボックスに残っているのです。猛烈な勢いで恥ずかしさが湧き上がってきました。いったい自分はなんてことをしてしまったのだ。私の思考はどんどんどんどん悪い方へ悪い方へと落ち込んでいきました。やがては、もう会社を辞めるしかないのではと思い詰めるところまでいきました。そして、電車が進むに連れてだんだん胃が痛くなっていきました。立っていることすら苦しくなってきた私は、途中駅で下車し、タクシーで家に帰りました。


 最悪の夜でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?