ここが変です日本の糖尿病治療:その2「低血糖によって予後が悪くなることを知っていますか?」

「低血糖の状態」がいかに危険かはその1で紹介しました。この回では低血糖を繰り返すとどうなるかについてお話しさせて頂きます。

研究1まず有名なアコードスタディからでしょうか。

グループA:心臓疾患のある糖尿病患者さんHbA1c7.5%ぐらい→そのまま治療してHbA1c7.5%ぐらいにしました。

グループB:心臓疾患のある糖尿病患者さんHbA1c7.5%ぐらい→治療を強化してHbA1c6.4%ぐらいにしました。

この研究は55歳以上の患者さんにおいて、どちらかのグループの「死亡者数」が別のグループより著しく増加したため「危険」と判断され途中で強制的に中止させられました。どちらの「死亡者数」が増加したのででしょうか?

答えはグループBです。AグループとBグループで細く解析したところ大きな違いは重症「低血糖」の回数にありました。他にたいした違いがないため、「低血糖」が原因であった可能性が高いと考えられています。

研究2 65歳で低血糖が2回以上あるとフレイル(足の筋力低下などにより寝たきりになりやすい状態)になる確率が約2倍になりますし、死亡する確率は1.6倍になるといものです。(出典:J Diabetes Complications 2019 Nov21 107492)

研究3 出典は忘れましたが重症低血糖で「認知症になる確率が正常の人の3倍になる」というものです。

心筋梗塞や脳梗塞はほとんどHbA1cの数字と発症率に相関関係(「血糖値が高いこと」と「合併症が増加すること」に単純に関係があること:血糖値が高いから合併症が増加するかどうかは証明さていません。合併症が増加するタイプは初めから血糖値が高くなる可能性も残っているのです。)がありません、あってもちょびっとです。一番HbA1cと合併症で相関関係が強いのが「網膜症」です。網膜症の発症率は約15%で6人〜7人に1人となります。そのうち「健康診断を行なっていて、糖尿病になってからきちんと通院している人」が重症になって失明する確率は著しく低いと考えます。網膜症が進行した場合、インスリンの治療が推奨されますが、低血糖を生じた方が網膜症が悪くなる印象です。(研修医の頃は上の先生の指示通りのインスリンを使用しましたが、低血糖になる人の方が網膜症が悪くなる傾向がありました。私流に変えて低血糖にならない程度にインスリンを使用しても網膜症は1人も悪化していません。)したがって、低血糖になるとフレイルになる確率が約2倍になりますし、死亡する確率は1.6倍になりますし、認知症になる確率が3倍になるわけですから、低血糖の方がずっと予後が悪くなると思います。また、低血糖にならない様に血糖値を調節することは可能で私はそうしています。4000人ぐらい診察して来ましたが「健康診断を行なっていて、糖尿病になってからきちんと通院している人」が失明した経験は0%です。当然低血糖の救急搬送者も0%です。

誤解のない様に書きますがこれは「だから甘いものを食べても良い」と言っている訳ではなく、「だからいい加減に治療しても良い」と言っている訳ではありません。「治療はきちんと行うが、使う薬の量が多すぎてはいけない」ということです。これはほとんど「医師」に対しての啓蒙が必要であるということです。もしこの記事を読まれた方が患者さんで主治医との関係が良い人はこの記事を読んでもらっても構いません。納得がいかない医師がいれば同サイト内(私流「糖尿病学」:有料ですが)を主治医の先生が自分で購読して頂ければ納得してくれるかも知れません。低血糖を生じない様に心がけるのは「医師」の「意識改革」にかかっているのです。くれぐれも低血糖には気をつけて治療を継続して下さい。

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