ここが変です日本の糖尿病治療:その3「HbA1cは平均です。平均を過信すると危険です。」

HbA1cは簡単に言えば平均値だけを見ています。これで全てを管理するのは難しいと考えます。網膜症では1日の最高血糖と最低血糖の差が多いほど「悪化」する傾向があることはすでに証明されています。これも踏まえて例をあげて説明します。

Aさん1日4回とった血糖値が 150、250、150、250だとします。

Bさん1日4回とった血糖値が 50、350、50、50だとします。

Aさんの血糖値の平均は200です。最高血糖と最低血糖の差は100になります。

Bさんの血糖値の平均は125です。最高血糖と最低血糖の差は300になります。

もうお分かりですね。平均値はAさんの方が高いですが網膜症は少なくなります。Bさんは平均値は低いのに網膜症になりやすくなります。また、その2で紹介した様にHbA1c7.5%→6.4%に治療を強化して「低血糖頻度が上昇したグループ」の死亡者数が急増した報告でも、治療の強化の「し過ぎ」でBさんの様になっていた可能性もあります。Bさんは網膜症になりやすく、さらに死亡する確率が高いかもしれません。

Bさんはわざと極端にして分かりやすくしましたが、治療し過ぎで低血糖のになる時間が多ければHbA1cは間違いなく低下します。しかしそれが最善と言えるでしょうか?現在の日本のガイドラインではHbA1cが低ければ良いというものになっています。ガイドラインの影響で欧米の医師より低血糖に対して「理由のない寛容さ」を持っています。「低血糖」がいかに危険で予後を悪くするかはその1、その2で説明して来ました。私流で治療すれば網膜症も悪化して困るという経験はしていません。逆に内服薬でHbA1cが7.0%未満で網膜症が進行する患者さんの治療方針をすぐに変えた事が何回もあります。治療薬を変更しました。全ての症例で変更後HbA1cは7.0%を超えましたが網膜症は改善していきました。

現在、糖尿病はランセットという世界的な論文において細かく分類すると「500」ぐらいに分類できるのではないかと考察されています。私はこの意見に賛成です。薬の効き具合や血糖値が上昇しやすいステロイド剤を使用した後の血糖値の上昇の仕方など「1人も同じ病態がないかも知れない」と思うぐらいです。種類が違うものが1つの病気として取り扱われているのでいろいろ矛盾も出て来ます。

絶対値が70mg/dl以下だけを「低血糖」と呼んで良いのでしょうか?「血圧」や「体温」や「貧血時の症状」なども個体差が大きい事がわかっています。体の中にデジタルのセンサーがある訳ではありませんので、絶対値の意味は個人によって異なるはずです。体のセンサーは「今ある状態」から「どの程度変化したか」のセンサーしかありません。(半定量のものもあると思いますがデジタルの様に絶対値を感知するものはありません)しかも体は状況に対応する能力を持っています。呼吸器疾患でゆっくり低酸素になれば「異常に血中酸素濃度が低くても」スタスタ普通に行動できる患者さんはいくらでもいます。血糖値も状況に応じて変化するものなので「絶対値」を「絶対的なもの」と考えると間違えると思います。例えば血糖値が500mg/dlの人は250mg/dlになれば非糖尿病者に比べるとまだまだ高い値ですが、その患者さんはブドウ糖の血中濃度が短期間に50%になった訳です。ゆっくり血糖値を下げればそれこそ適応することも可能です。しかし、急に血糖値が半分になったら「低血糖」と体が認識して「低血糖様症状」もしくは「治療以前より調子が悪い」と訴えてくることもあるはずです。その場合少し血糖値を高めで経過をみた方が良い印象です。血糖値の「絶対値」を「相対的」にとらえる事が必要なのです。

誤解のない様に書きますがこれは「だから甘いものを食べても良い」と言っている訳ではなく、「だからいい加減に治療しても良い」と言っている訳ではありません。「治療はきちんと行うが、使う薬の量が多すぎてはいけない」ということです。これはほとんど「医師」に対しての啓蒙が必要であるということです。もしこの記事を読まれた方が患者さんで主治医との関係が良い人はこの記事を読んでもらっても構いません。納得がいかない医師がいれば同サイト内(私流「糖尿病学」:有料ですが)を主治医の先生が自分で購読して頂ければ納得してくれるかも知れません。低血糖を生じない様に心がけるのは「医師」の「意識改革」にかかっているのです。くれぐれもHbA1cが高いからといって、「過剰な薬」で低血糖にならない様に気をつけて治療を継続して下さい。

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