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暗号資産の税務:所得税・法人税の取り扱いについて

今回は、暗号資産(仮想通貨)に関する所得税と法人税の取り扱いについて、国税庁が公開しているFAQを基に、できるだけわかりやすく解説していきます。


1. 暗号資産の売却時の課税

暗号資産を売却して利益が出た場合、その利益に対して課税されます。

例:太郎さんが以下の取引を行った場合

4月2日:1BTCを100万円で購入
4月20日:0.5BTCを70万円で売却

計算式:
700,000円 - (1,000,000円 ÷ 1BTC) × 0.5BTC = 200,000円
[売却額] [1BTC当たりの取得価額] [売却数量] [所得金額]

解説:
1. 売却額:70万円
2. 取得価額:100万円 ÷ 1BTC = 100万円/BTC
3. 売却した0.5BTCの取得原価:100万円/BTC × 0.5BTC = 50万円
4. 所得金額:売却額(70万円) - 取得原価(50万円) = 20万円

この場合、太郎さんの課税対象となる所得金額は20万円です。

2. 暗号資産での商品購入時の課税

暗号資産で商品を購入した場合も、暗号資産を売却したとみなされ、課税対象となります。

例:花子さんが以下の取引を行った場合

5月1日:2ETHを40万円で購入
9月15日:0.5ETHで10万円相当のバッグを購入(購入時の1ETHの価格は25万円)

計算式:
100,000円 - (400,000円 ÷ 2ETH) × 0.5ETH = 50,000円
[商品価額] [1ETH当たりの取得価額] [支払数量] [所得金額]

解説:
1. 商品価額(=ETHの譲渡価額):10万円
2. 取得価額:40万円 ÷ 2ETH = 20万円/ETH
3. 支払った0.5ETHの取得原価:20万円/ETH × 0.5ETH = 10万円
4. 所得金額:商品価額(10万円) - 取得原価(5万円) = 5万円

この場合、花子さんの課税対象となる所得金額は5万円です。

3. 暗号資産同士の交換時の課税

異なる種類の暗号資産を交換した場合も、一方の暗号資産を売却し、もう一方を購入したとみなされ、課税対象となります。

例:次郎さんが以下の取引を行った場合

6月10日:1BTCを120万円で購入
10月5日:0.1BTCを2,000XRPと交換(交換時の1XRPの価格は80円)

計算式:
(80円 × 2,000XRP) - (1,200,000円 ÷ 1BTC) × 0.1BTC = 40,000円
[XRPの購入価額] [1BTC当たりの取得価額] [交換数量] [所得金額]

解説:
1. XRPの購入価額(=BTCの譲渡価額):80円 × 2,000XRP = 16万円
2. BTCの取得価額:120万円 ÷ 1BTC = 120万円/BTC
3. 交換した0.1BTCの取得原価:120万円/BTC × 0.1BTC = 12万円
4. 所得金額:XRPの購入価額(16万円) - BTCの取得原価(12万円) = 4万円

この場合、次郎さんの課税対象となる所得金額は4万円です。

4. 暗号資産の取得価額の計算方法

暗号資産の取得価額は、取得方法によって異なります:

a) 購入した場合:購入価格(手数料含む)
b) 贈与や遺贈で取得した場合:取得時の時価
c) 相続で取得した場合:被相続人の死亡時の評価額
d) その他(マイニングなど):取得時の時価

5. 暗号資産の分裂(ハードフォーク)時の取り扱い

暗号資産が分裂(ハードフォーク)して新しい暗号資産を取得した場合、取得時点では課税対象となりません。新しい暗号資産の取得価額は0円とみなされ、売却時に全額が課税対象となります。

6. マイニング等で取得した暗号資産の取り扱い

マイニングやステーキング、レンディングなどで暗号資産を取得した場合、取得時の時価が所得として課税対象となります。

7. 非居住者・外国法人の暗号資産取引

日本に住んでいない個人(非居住者)や外国法人が日本の暗号資産取引所で取引を行っても、原則として日本での申告は不要です。

8. 暗号資産取引の所得区分

個人の場合、暗号資産取引による所得は原則として「雑所得」に区分されます。ただし、以下の場合は異なる取り扱いとなります:

年間の取引額が300万円を超え、帳簿がある場合:「事業所得」
年間の取引額が300万円を超え、帳簿がない場合:「雑所得(業務)」
事業の一環として行っている場合:「事業所得」

9. 暗号資産取引の必要経費

暗号資産取引の所得計算上、以下のものが必要経費として認められます:

暗号資産の譲渡原価
売却時の手数料
取引に直接必要なインターネット利用料やパソコン購入費(一部)

10. 暗号資産の譲渡原価の計算方法

継続的に取引を行う場合、譲渡原価の計算には「総平均法」または「移動平均法」を用います。どちらの方法を使うかは、最初に暗号資産を取得した年の確定申告期限までに税務署に届け出る必要があります。

11. 暗号資産取引での損失の取り扱い

暗号資産取引で損失が出た場合、他の所得と損益通算することはできません。

12. 暗号資産の証拠金取引・信用取引

暗号資産の証拠金取引や信用取引による所得も、通常の暗号資産取引と同様に課税されます。

13. 法人の暗号資産取引

法人が暗号資産取引を行った場合、原則として取引日(約定日)の属する事業年度の益金または損金として計上します。また、期末時点で保有する暗号資産は、時価評価を行い、評価損益を計上する必要があります。

まとめ

暗号資産の取引による所得は、基本的に以下の公式で計算できます:

所得金額 = 譲渡価額 - 取得価額

ここで重要なのは、暗号資産を法定通貨(円など)に換金した場合だけでなく、商品の購入や他の暗号資産との交換でも課税対象となる点です。また、取得価額の計算方法(総平均法や移動平均法)によって結果が変わる可能性もあるので注意が必要です。


総平均法と移動平均法

1. 総平均法:
総平均法は、保有する全ての同種の暗号資産の取得価額の合計を、保有する暗号資産の総数量で割って、1単位当たりの平均取得価額を算出する方法です。

計算式:
平均取得価額 = 取得価額の合計 ÷ 総数量

例:
3月に1BTCを100万円で購入
6月に2BTCを300万円で購入
平均取得価額 = (100万円 + 300万円) ÷ (1BTC + 2BTC) = 133.33万円/BTC

2. 移動平均法:
移動平均法は、新たに暗号資産を取得するたびに、その時点での平均取得価額を計算する方法です。

計算式:
新平均取得価額 = (既存の数量 × 旧平均取得価額 + 新規取得数量 × 新規取得価額) ÷ (既存の数量 + 新規取得数量)

例:
3月に1BTCを100万円で購入
6月に2BTCを300万円で購入
6月時点の平均取得価額 = (1BTC × 100万円 + 2BTC × 150万円) ÷ (1BTC + 2BTC) = 133.33万円/BTC

両方法の特徴:
- 総平均法:計算が比較的簡単ですが、取引の度に全体の平均を再計算する必要があります。
- 移動平均法:新規取得時のみ計算すればよいので、取引頻度が高い場合に便利です。

どちらの方法を選択するかは、最初に暗号資産を取得した年の確定申告期限までに税務署に届け出る必要があります。一度選択した方法は、原則として継続して使用する必要があります。


暗号資産取引に関する税務は複雑で、個人と法人で異なる部分もあります。取引を行う際は、適切に記録を残し、必要に応じて税理士等の専門家に相談することをおすすめします。また、税制は変更される可能性があるので、最新の情報を確認することも大切です。

これらの計算を正確に行い、適切に申告することが重要です。取引履歴を細かく記録しておくことで、確定申告の際の作業が楽になりますし、税務調査にも対応しやすくなります。不安な点がある場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

暗号資産取引を行う際は、このような税務上の取り扱いを理解し、適切に申告を行うことが重要です。不明な点がある場合は、税務署や税理士に相談してください。


日本の仮想通貨業界団体が金融庁に提出した税制改正要望書の内容と、その背景にある業界の思惑を報じています。

主な要望は、仮想通貨取引の所得に対する申告分離課税の導入、損失の繰越控除、デリバティブ取引の同等扱いなどです。これらの要望は、海外での仮想通貨ETFの解禁を背景に、日本でも将来的にETFを解禁する際の布石となることを意図しています。

業界は、現行の総合課税制度下で仮想通貨ETFが解禁された場合、既存の取引が減少する可能性を懸念しています。そのため、ETF解禁前に税制改正を実現したいという思惑があります。

また、米国のトランプ前大統領が仮想通貨推進の姿勢を示していることから、日本も税制改正を通じて国際競争力を高める必要性が指摘されています。

1. 業界団体の税制改正要望:
- JVCEAとJCBAが金融庁に要望書を提出
- JBAも同様の内容の要望書を提出

2. 主な要望内容:
- 仮想通貨取引の所得に対する申告分離課税(20%)の導入
- 損失の3年間繰越控除
- 仮想通貨デリバティブも同様の扱いに

3. 現行の税制:
- 仮想通貨取引の所得は総合課税(最大55%)
- 一律で雑所得扱い

4. 要望の背景:
- 海外での仮想通貨ETFの相次ぐ解禁
- 日本での仮想通貨ETF解禁への布石

5. 業界の懸念:
- 現行税制下での仮想通貨ETF解禁による既存取引の減少

6. 国際競争力:
- 米国の仮想通貨推進姿勢との対比
- 日本の競争力向上の必要性


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