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ヴァサラ幕間記5

バッタとアシュラ②

 バッタには、追いたい背中がひとつ増えた。
しかも今度は追うことができる背中だ。バッタは文字通り、空いた時間にはアシュラの背中を探した。

 急に自分の周りをチョロチョロし出した一隊員を、アシュラは追い払うことはしなかった。最初はチラリと一瞥していただけのものが、次第に今日はいるなと確認するように、その内稽古をつけてくれたりもするようになった。
 新芽が芽吹く春、太陽が照りつける夏、落ち葉敷く秋、枯れ木寒々しい冬。季節が巡り、バッタの地位も上がって行く。

 アシュラの元で副隊長になったバッタは以前よりずっと忙しくなった。けれど今でも時間が空けば姿を探し、業務報告という名の雑談をする。最近は林で手を合わせていることが多いので、バッタも林に行くことが多くなった。
 今日も歩いていく後ろ姿を見つけ、バッタは駆け寄って話しかける。
「アシュラさんッ!」
歩速を緩めないのはいつものこと。ついて行きながら会話を続ける。
「今から任務ッスかぁ!?今日も“龍〟が如く、ビシバシやっちゃってくださいYO!」
「…えッ!?💦マジッスか!?」
「ああ〜!まぁでも大丈夫ッスYO!」
雲間から差す陽光が、一瞬2人を照らす。
「隊員の面倒はオレがきっちり見ときますんで!」
任せてくださいとばかりに胸を叩くバッタを見たかどうかは分からないが、去り際の背中はじゃあ任せたぞと言っている。
「…HI!いってらっしゃ〜いッ!!」
それにちゃんと応えられるように、歩いてゆく背中に声をかけ、大きく手を振った。
何であいつだけいつも会話成立出来んのと言われるが、逆に何で成立できないのか不思議だ。
「やっぱり背中で語る漢はちげェNA!⭐︎」
バッタにとって、アシュラの背中は結構饒舌なのだ。

 あの時命を救ってくれた黒い背中。隊員全ての最後の砦であるそれは大きくて遠い。けれど同時に、よく語り、時に抱えきれない気持ちが溢れる、暖かくて近いものであることをバッタは知っている。
 隊長でさえも殺され、行方不明になる中、その背中がまだあること、側にいられることが嬉しい。アシュラが誰かを探す時、いつでも一番に目にとまる自分でありたいと思う。
 
「大丈夫」
  今まで何度も伝えてきた平凡な言葉。そこに重なるいくつもの気持ちはきっとアシュラに届いていると信じている。
 ヴァサラの背中を追うことを諦めたわけじゃない。でもいざという時に、自分はきっとこの背中を守ってしまうのだろう。

 大丈夫。
 あなたのどんな時でも、誰よりもわかることができる。

  そんな根拠のない自信が、バッタにはあるのだ。

 
  
   

  



 

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