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第十五話

 そういや昼間の写真、星陽写ってるし弥幸にも送っとこ。
 後は寝るだけという時間になってふと思い出した満月がモフモフ写真を弥幸に送った所、速攻返信が来た。どうせいつ見るか分かんないし返信もないだろうなと思い、説明なしで写真だけを送ったのだが、この速さで返信が来るのは意外だ。
 写真が可愛いすぎてコメントせずにはいれなかったんだな、わかるぞ。そして送った俺に感謝しろ。
思いながら見たメッセージは
“星陽そこにいる?“
と写真に対する返信としては妙だ。しかも直後に電話までかかって来た。
「星陽まだ帰って来てないんだけど。お前何か知ってる?」
電話に出ると、一瞬も待てないとばかりに弥幸が早口で言う。
「お前が知らねーのに俺が知ってるわけねーだろ。何?喧嘩でもしたわけ?」
「いや全然。家帰った時いなかったから部活かなと思って、そのまま寝てて。今起きてもまだいないんだよ」
時間は夜の11時過ぎだ。それはさすがにおかしい。
「こう言う時どうすりゃ良いんだ。警察に連絡?捜索願いってどうやって出すんだ?」
今まで見たことがないほど弥幸が焦っている。
 千聖のことで一度とは言わず出そうとしたことがある満月は、近所の警察署に身分証と印鑑を持っていけば良いだけだとは知っていた。だが、そう言うとすぐに出かけそうな勢いだ。星陽は成人男性なのだし、まず一緒に探してみてからでも良いんじゃないだろうか。とりあえずそっちへ行くと言おうとした時、キャッチが入った。見ると千聖からだ。
 いつもならもう寝てる時間なのにどうしたと、弥幸には悪いが急いでそちらに出る。
「どうした、具合悪いのか?」
速攻で救急車を呼ぶくらいの気持ちで出たが、
「あ、ううん大丈夫。ごめんこんな夜遅く」
と千聖は元気そうだ。
「…えっと、星陽が今ウチ来て話してて。家帰りたくないみたいだから今日は泊まってもらおうと思うんだけど。話聞いてると僕も腹が立つもんだから、満月も一緒に話聞いてほしいなと思って」
 …俺はどうすれば?
家帰りたくないとか言ってんだから、原因は弥幸なのだろう。なら弥幸に居場所を知らせない方が良いのだが、何も言わなければ捜索願を出してしまいそうだ。
 キャッチのわずかな時間に対応を考えた満月は、弥幸に告げた。
「良い知らせと悪い知らせがある。星陽は今千聖のところにいる。無事だから安心しろ。ただ家に帰りたくないみたいで、今日は泊まっていく」
こっちでちゃんと預かっとくからくれぐれも迎えに来るなよと何度も念押しし、満月は千聖の家に向かった。

 ホテルから逃げた星陽は電車には乗ったものの、大学に戻る気には、ましてや家に帰る気になどなれなかった。なので賑やかそうな駅で降り、歩き回って疲れたらファストフード店で休むことを繰り返していたが、最終的にはマンガ喫茶に辿り着いていた。
 けれどマンガを読もうがゲームをしようが、頭に隙間ができれば今日の光景が蘇ってしまう。星陽だって子どもじゃない。仕事でしなければならないのなら、自分以外の人間と弥幸がキスするのはすごく嫌だが我慢する。でもあの時の弥幸は、自分とするときと同じような雰囲気だったのだ。何がと言われると難しいが、友人への顔とは全然違った。
 だから来てほしくなさそうだったのかと思うと、悔しいとか腹立たしいとか悲しいとか寂しいとか、その全部が混じったようなグチャグチャの気持ちになる。
 弥幸は俺のものだと思ってたのに。
 ああいう顔する相手は俺だけだと思ってたのに。
そんな、心を行き交う自分の言葉に泣きそうになる。
 顔見えなかったけど、あいつどういうヤツなんだろう。社会人だし大人なんだろうな。俺子どもだしさ。全然違うんだろうな。
 考えれば考えるほど勝てる気がしない。大人びた弥幸の横にいるのは社会人の方がお似合いな気がした。
 そう思い出すと自分の悪い所が一つ一つ全部気になって来る。駄々こねるし、わがままだし、気を遣わず好きなこと言ってしまってるし、生活も時間も遊びも全部自分に合わさせてしまっている。
 そりゃ、こんなヤツより大人で落ち着いてて優しい相手の方が弥幸もいいよな。
 今まで浮気された話を聞くと、そんなヤツとは別れればいいのにと思っていた。でも実際自分の身に起こってみると、そんな簡単な話ではないことがよく分かる。
 俺振られんのかな…。
 付き合い出してもう3年になろうとしてるのに、付き合い出した頃と同じかそれ以上、弥幸のことが大好きだ。浮気してても良い。最悪自分が二番手でも良い。でも別れたくない。
「もっと色々ちゃんとするから…一緒にいてくれよ…」
心の声が口からこぼれてしまうと涙が滲んできた。
 その涙をゴシゴシと拭く。
「ここにいても暗くなるだけだし金もかかるしな!」
強いて元気良く言い、きっかけになったのだから報告義務があるよなと、千聖に会いに行くことにしたのだった。


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第十六話〜弥幸✖️星陽

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