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ヴァサラ幕間記6

ジンと「アレ」①

 “え、そうなの⁉︎“
ジンが聞きとがめたのは、いつものようにパンテラのパーティーモードから逃げている途中だった。平地を逃げているんじゃ埒が明かないと、最近は木や屋根など高さを使って逃げていたのだが、兵舎の屋根にいるときに、中から出てきた隊員同士が話しているのが聞こえて来たのだ。
「悪いな急に抜けて」
「残念だけどな。仕方ないよ。お前ん家じいちゃんも働き手だったもんな」
「今でもまだ信じられないよ。あの元気なじいちゃんが、まさか餅を喉に詰まらせて死ぬとはな。まあ田舎で畑耕しながら、嫁さんでももらって暮らすわ」
「考えようによっちゃ良いのかもな。戦場でいつ死ぬかわからない生活よりも」
ナップサックを肩にかけている隊員と平服の隊員は、話しながらそのまま歩いて行く。ナップサックの方が家庭の事情で軍を辞めるらしいのだが、ジンが気になったのはそこではない。
 “餅って喉に詰まって死ぬの?“
ジンの脳裏に、幸せそうに団子を食うヒジリの姿が過ぎった。
 ヒジリのじいちゃんヤバくね?

 ヴァサラ軍の主食は団子である。主流は団子3つが串に刺さったものだ。食事といえば団子を食い、間食といえば団子を食い、訓練といえば団子を食い、任務といえば団子を食う。毎日の食卓がこれほど団子で溢れているのに、近隣には外食用に団子屋なるものまであるくらいだ。

 確かに、ジンも団子には不満はあったのだ。
 何げに団子って食べにくいよな。
という点について。
「大体、絶対3口いるからね。一番食べにくい最後の一個を食べようとしてる瞬間に敵襲あった場合、これ食べて行くかどうか選択厳しいことあるじゃん? で、食べなかった時、団子一個しかついてない、ほぼ串のみのこれ持ち歩かなきゃいけないの嫌じゃね?それに食べた後。この串なんでこんなに先端鋭利なの?服のどこに入れてても、何か刺さって来るんですけど」
 長い独り言の末ジンは1人叫んだ。
「でも安心してくれ、ヒジリのじいちゃん!俺にはアテがあるからな!任せとけ!」
 誰も頼んでいないことを勝手に任されながら、ジンはアテを探しに出た。

 ジンのアテとは、以前見た「アレ」である。アレなら、ヒジリも、毎食命をかけずにすむに違いないのだ。アレが何か聞くのに一番早い相手はわかっていたが、できれば今そこには行きたくない。
 料理に詳しそうなのは…
「ルトんとこの、マルル副隊長か」
「2人は今仕事でいないぞっ」
ジンの呟きに間髪入れず答えが返って来てギョッと振り向くと、錠付きの鎖がやたらとたくさん巻かれた、頑丈そうな巨大な鞄を引きずって来るヒルヒルがいた。
「お前それ何?」
「おお、これか!森で受け取って来てくれってロポポ副隊長に言われてなっ。覆面の人たちから受け取って来たんだよ!」
 うわ、こいつ怪しい物の運び屋させられてる。
内心思うジンだったが、関わりたくなかったので
「…おお、お疲れ。じゃルトは?」
と話を逸らすと
「ルトはあっちにいたぞ!」
と来た方を指差す。
 こいつと会うのも今日が最後かもしれねえ…
ジンは鞄を引きずって去ってゆくヒルヒルをしっかり見送ってから、その場を発った。

( ⇨ジンと「アレ」②に続く)


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