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Expression of Concernって?

この記事はOpen and Reproducible Science Advent Calendar 2021の10日目のやつです。アドカレが開始して一週間ほど「見」をキープしてたら並びが異常なことになってて何だかいたたまれない気持ちになり,予定外に用意しました。

Expression of Concern (EoC; 懸念表明) とは,正誤表や撤回と同じように,出版された論文の状態を訂正する主要な手段の一つです。懸念を示す主体はジャーナル,読者,著者など様々ですが,とにかくなんかやっべえゾ?的な、「あれれ〜(略」(画像も略) 的なタグを対象論文に付与する役目を持っています。ふわっとした言い方ですいませんが,扱うヤバ度の範囲が非常に広いため,明確に定義もできませんし,使う人次第でもあるし,ジャーナルによってはその表明の仕方が新規記事であったりバッジであったりEditor’s Noteであったりと様々でして,そもそもがふわっとしてるのです。国内誌でもこの制度はあるのでしょうか?

具体的にどんなのがあるかというと,先日出された結構ビッグなEoCが記憶に新しいです。その後にもっとビッグなことが彼に起きましたがまあそれは別の話。このPsych Sciのやつは新規記事を出すタイプですね。なおNature系はだいたいEditor’s Noteタイプのようです ()。

EoCにとって重要なのが事後査読 (PPPR) です。出版された論文に対し,第三者が本文だけでなくコードやデータや場合によっては実験時の様子まで後から詳しくチェックしておかしな点を見つけ出しています。これがなかったら,おかしいかどうかすら誰も疑いもしないまま,何らかの間違いに乗っかった議論が続いていくことになり極めて無駄が大きく不健全です (だけどPPPRを行う場が国内には皆無ですよね (: _ ;)・・・)。ほぼほぼ2名の査読者によって行われている事前査読の方で間違いが100%検出できていればいいのですが,それを信じるのはなかなかの危険行為です。そもそもオープン査読がほぼほぼ皆無なので,査読で何が検討されたのかすら第三者には知るすべがありません。この辺,さすがにそろそろ変えていきませんか?

で,ちょい前にひっそりと,このEoCについて論文を出してました。

といっても大したことは全然言ってなくて,EoCの期間が長いと著者は生殺し状態だし読者は引用していいかわからん等でみんなツラいから早めに対処しようぜとか (4年以上EoC状態ってのもあります),EoCも含めちゃんときっちり引用したほうがいいのでEoCもDOI付きで出版しようぜとか,そもそもEoCの出た日とかの書誌情報が間違いまくってるのでそこは正確なの記載しようぜとか,マジで普通のことを言ってます。

どっちかというと内容よりもなぜテイシェイラダシルバさんと出してるのかですね。これは私もよく分かりませんw 以前からRetraction Watchのコメ欄でご活躍されてるのはよく見てたのですが,メールでやり取りしていて何か急にそういう話になりました。驚いたのは香川にご在住だったことです。国際共同研究のときは常に時差が問題になるのですが,このときはやりやすかったです。ただし,一日の活動開始される時間帯はめっちゃ早い。

この論文は某雑誌に投稿し,アクセプトされた後,著者校正の段階で急に「取り下げさせられ」ました。なんでリジェクトじゃなくこちらへ取り下げるよう強硬に要求してきたか考えてたんですが,多分さすがにアクセプト後にリジェクトはできないってことなんでしょうね。まあ結果としては掲載拒否という事実は変わりませんが,いずれにせよ明確な説明なしでこれやるのは本当に凄すぎる。今はこのチーフエディターの所属する大学や国の出版者コミュニティに対し苦情や調査要求を何通か出しています。

その後,論文は今の雑誌にポータブル査読 (前の雑誌での査読結果を添えるやり方) で投稿し,きちんと出版されました。安心感が段違いだった。いや,アクセプトされた後にまで権力者の気が変わって落とされるような雑誌はマジで論外ですね。雑誌に対してEoCを出したりできないんだろうか。

最後にどうでもいい話ですが,査読者に修正させられたので論文中には最小限でしか記載していませんけど,EoC状態のことを我々は辺獄と呼んでいます。いや単にそれだけですw

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