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口呼吸時の注意に注意!

執筆者:吉村直人(九州大学)

う〜みよぉ〜,おれのう〜みよぉ〜

加山雄三のこの歌詞のように,僕は海が大好きです。海好きが高じてダイビングのライセンスを取って趣味にしてしまうほどです。ダイビングやシュノーケリングは水中という未知の世界を楽しむことが出来る素晴らしいレクリエーションではありますが,楽しむ上で器材による制約も生まれます。その中でも大きな制約の一つは,呼吸経路になります。水中で呼吸を行うための器具であるシュノーケルやレギュレーターは口からしか吸気出来ず,口呼吸を余儀なくされます。しかしそのような状況で我々の認知機能はどのように影響を受けるのか,今まで検討されて来ませんでした。
今回僕が刊行したのは,口呼吸状態だと見つけにくいターゲットを探す効率が下がることを示した論文です。
Yoshimura, N., Yonemitsu, F., Marmolejo-Ramos, F., Ariga, A., & Yamada, Y. (2019). Task difficulty modulates the disrupting effects of oral respiration on visual search performance. Journal of Cognition, 2(1), 21. DOI: http://doi.org/10.5334/joc.77

今回の研究では,シンクロ選手が使う鼻栓や医療用テープを使って呼吸の経路を操作しました。参加者は鼻栓をつけた口呼吸しかできない状態,口にテープを貼り付けて鼻呼吸しかできない状態,何もつけず自由に呼吸できる状態の3つの条件のもとで,視覚探索課題を行いました。今回使った視覚探索課題とは,円状に配置された何本もの垂直の棒の中から傾いた棒(ターゲット)を見つけてもらうというものでした。このとき,ターゲットを4º,5º,あるいは6º傾けることで棒を見つける難易度を操作しました。ちなみに4ºは探すのちょっと難しいです(下図)。

実験の結果,口呼吸を行っている状態の時は,他の呼吸を行っている状態よりも,4ºのターゲットを探すことがより遅くなったのです。これは見つけにくいターゲットを探すときに重要な視覚的注意機能が阻害されたためと考えられます。

呼吸に関する先行研究は呼息・吸息の効果を見たものが多かったのですが(例えば最近だと千葉大学のこれ:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000361.000015177.html),本研究は呼吸の経路(口鼻)の違いが認知的機能に影響を与えたことを示す数少ない研究の一つになります。そのため,呼吸経路が制限される作業潜水士の安全規則の改良などの一助になると考えています。

また,水中だけでなく陸上であっても鼻が詰まったりして呼吸経路が制限される場面があると思います。そんなときは,車の運転など,より気をつけた方がいいかもしれないですね。いつかドライブシミュレーターで実験してみたいです。

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