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『(秘)色情めす市場 4Kデジタル復元版』の衝撃

 日活ロマンポルノの最高傑作が、奇跡のような美しい映像と音で甦った。
 昨年開催された第78回ヴェネツィア国際映画祭のクラシック部門に田中登監督の『(秘)色情めす市場 4Kデジタル復元版』が選出された。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って発表開催が延期となっていたが、同映画祭と主催団体を共にするクラシック作品専門の映画祭「CLASSICI FUORI MOSTRA2022」で上映が決定し、そのワールドプレミアが5月12日に迫っている。
https://www.labiennale.org/it/agenda/classici-fuori-mostra-maruhi-shikij%C3%B4-mesu-ichiba-mercato-segreto-di-donne-amore

 『(秘)色情めす市場』は、大阪の飛田を舞台に、娼婦の芹明香が一癖も二癖もある男女たちを横目に、誰にも頼らず、たくましく生きていく姿を描いている。彼女は呟く――「ウチな、なんや、逆らいたいんや」。
 彼女の母も体を売って暮らしており、時には一人の客を取り合うこともある。そんな彼女にとって精薄の弟と、指名手配写真に似た男だけが心を許せる存在だ。猥雑な環境から浮き立つように歩く芹明香のクールな存在感には誰もが魅せられてしまうだろう。

 脚本のいど・あきおによると、企画当初は日活ロマンポルノとATGの提携という話もあったというが、カラーが売りのロマンポルノでありながら、本編の大半がモノクロという作りからして異色作を生み出す機運が高まっていたのだろうか。そうした熱気は脚本も、監督も、撮影(安藤庄平)も、脇に至る配役も(絵沢萠子、花柳幻舟、夢村四郎の素晴らしさときたら、演じることを超えて、飛田に根を降ろした人々のように見えてしまう!)、これ以上ないほど一体化していることからも明らかだが、田中監督も、「芹君が何気なくギラギラした日だまりの中を歩くカットにしても、(略)カメラマンと僕の感覚が、針の音ひとつまで一致しちゃってる」(『ズームアップ SELF』78年10月号)と語るように、普通に撮るだけでは生まれないような神々しいショットに満ちている。

 日活が所蔵する35mmマスターネガを基にデジタル復元された本作を、五反田から竹芝に移転して新装開店となったIMAGICAの試写室でひと足先に見せてもらったが、これまでフィルム、ビデオ、DVD、Blu-rayと全てのメディアで観てきた――画質にもそこまで不満を感じていなかった――だけに、どれほどのものかと思っていたが、今まで観ていたのは何だったのかと思うほど細部のディテールがつぶさに目に飛び込んでくる。さらに劇中に響く音にも新たな発見が多く、まるで初めて観たときのような興奮を憶えた。
 ロマンポルノはアフレコが基本だが、田中監督によれば、「録音技師が全部現場に張り付いていた」(『映画監督 田中登の世界』シンコーミュージック・エンタテイメント)というだけあって、臨場感のある現場音が多く盛り込まれており、それらの音が粒立って響いてくる。 
 映像が鮮明になったことで、こんなものが映っていたのかと気付かされる点も多かったが、最も印象が変化したのはカラーパートだ。これまではモノクロパートの美しさに比べると、沈んだ色合いに思えていたが、鮮明な色で細部が見えるようになって生気がみなぎり、本作がなぜパートカラーという手法を選択したのかが初めて理解できたように思えた。通天閣の上から下界を見下ろすショットに映し出される家々のディテールや大阪平野が広がる遠景もくっきりと見渡すことが出来るようになり、神の視点をいっそうこの場面で感じることになった。

 今のところ、国内での上映は未定だが、日活はロマンポルノの新作3本を現在製作中なので、公開の際にはぜひ本作の〈4Kデジタル復元版〉も上映してほしい。ただし、IMAGICAの最高の映写と音響をほこる試写室で観てしまったので、相応の劇場で観ないと満足できそうにない。ここはひとつ、4Kプロジェクターと音響設備を一新した新文芸坐の大スクリーンで封切ってはくれないだろうか。



作品タイトル:㊙色情めす市場
配給:日活
コピーライト:©日活



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