私の世界にビビがいた頃

世界は重さに満ちていて
犬は地面上を歩いているし
鳥は空気上に乗っているし
私は共通認識を探りあぐねている

私の世界にビビがきた
暗い教室の独身の私に
これまた真っ黒の顔をした少年が
目の前で首を傾げた

私の世界にビビがいた頃
暑い夏の空気は 私の上にのしかかり
冷たい冬の冷気は私の意識を浮上させ
地面を踏み締め 体を預けて直方体になった

私の世界にビビがいた頃
嫌に長い夏 オレンジの光は
確かにブラウン管のチューブと繋がっていて
飽きもせずてくてく歩いていた

私の世界にビビがいた頃
だれもがポケモンをやっていて
時々ドラクエをやっていて
でもビビの話がしたかった

私の世界にビビがいた頃
チラシの裏っけに たくさん色を塗っていた
Z会の端っこに奇妙な生き物を住まわせた
誰にも読ませない漫画をこっそり描いた

私の世界にビビがいた頃
不真面目に英語をやっていて
ときどき真面目に歌を読んで
世界はどっと明瞭になった

私の世界にビビがいた頃
内申書で落ち込んで
でも学力テストで頑張って
山の辺監獄で 一人社会と戦った

私の世界にビビがいた頃
なんとか進学にかぎつけた
あの頃は年30日で不登校だった
まったく酷い世界だぜ

私の世界にビビがいた頃
好きな子と仲良くなれない
周りの席は私の髪型を笑う
アメリ見ろよって思ってた

私の世界にビビがいた頃
絵のちっちゃい教科書の模写させられた
キャンバスの上のセザンヌもどきは
いくら見ても酷くて泣きそうだった

私の世界にビビがいたころ
合わせるすべを学んでいった
私のおさげ真似してんのださっていわれても
黙ってニコニコする妥協を覚えた

ビビはゆっくり消えていったのに
それに気づかないふりをした
絵を続ける努力もできたのに
私は数学ドリルに逃げ込んでいった

私の世界からビビが消えて
お腹の音が響くことに怯え
生理が悪臭を振り撒くことを嫌悪し
お弁当は炭水化物と少しの蛋白質になった

私の世界からビビが消えて
電車で肘を鳴らしながら
ノートにびっしり単語を並べ
友達と悲鳴を押し殺しながら長い電車に乗った

私の世界からビビが消えて
もう長い月日が経った
そろそろ長いこと退屈しすぎている
こんな世界やめても仲間と共存できると思ってるんだ

私の世界からビビが消えて久しいが
そろそろビビを呼べそうな気もしてて
ノートの端っこに
こっそり立方体を並べている

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