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不穏なお誕生日会


先日、友達のお誕生日会があった。
(これを執筆したのは5月)

その異様な空気といったら今でも忘れられない。

一緒に上京して同じ大学に入学した子。
同じ高校ではなく、音楽業界の顔見知り的な存在だったのであまり親しかったわけでもなく。
ただ「同じ地域の子」として他の友達より少し共に過ごす時間が多いくらいだった。

ただ、その子はとてつもなく可愛いキャラだった。
というより、可愛い。
化粧が上手で、愛嬌があって、リアクションが多くて、性格が良くて。所謂theモテ女。
同じキャンパスでは既に話題になっていて、それを本人も自覚しているみたいだった。

私は自己顕示欲にまみれているのにも関わらず自我を主張せずに大人しく可愛い子ぶっている彼女の事が好きではなかったが、仲良いかどうか聞かれる度、一応周りの雰囲気に合わせるために、好きだよ〜!と言ったことは何回かある。

その子をAとする。

Aが、自分の誕生日の週に、「今年の誕生日、誰も祝ってくれる人が居ないからお祝いして〜✨」とぼさいた。

仲良い友達が居る中でこれを口に出すAも相当なのだが、もちろん同期の男性は可愛い女の子にそんなこと言われたら俺が‼️ってなるだろう。
まぁ同期の中でも賑やか系の皆んなに親切な男が「じゃあみんなでAをお祝いしよう!」と言った。せっかくお祝いするなら大勢で祝おうと。

悪夢の始まりである。

程なくして、とある授業LINE(そのグループLINEに同期が入っている)に一件の質問箱が設置された。

『Aさんお誕生日会』

まだ新学期が始まって1ヶ月。授業でしか話さない人も大勢いる。
選択肢には行くか、行かないか、そのどちらかのボタンしかなくて、とりあえず行くに押しておいた。
Aと話したことない友達は、貴方が行くなら私も行く。とのことだったので、行くボタンを押していたが、押した直後に「気まずいな、行くの迷う」と言っていた。

当日。
なぜか授業を取っている人がほぼほぼ来た。
皆、予定が入っていないのに断れないと言っていた。

キャンパスの食堂から少し離れた一角にあるスペースで、Aさんを取り囲うように大きな丸テーブルに背もたれなしの椅子が並べてあった。

テーブルの上には、Aを支持するA親衛隊が買ってきたしなびたマクドナルドのポテトとナゲットと、ジュースとおしぼりだけだった。
ケーキを提案したみたいだが、そこまでお金が集まらなかったのもあり、この寂しいテーブルとなってしまったらしい。

初めに乾杯をし、インスタ用の写真を撮る時間があった。

途中、何度か話を振ったが、盛り上がらなかった。
友達たちがコンビニで飲み物を買い出しにいく、と言い出したので、その場の雰囲気に耐えられなかった私はついて行くことにした。
というのは建前で、ただその中に好きな人が居たから行っただけである。

コンビニに入って、また2局に分かれた。

A親衛隊はアイスやらポテチやら買っていたが、それに興味がない私や友達、好きな人はお酒やつまみコーナーを眺めていただけだった。
好きな人と元々仲良い友人が突然、花火あるからしたい!と言い出したので、花火をすることになった。勿論このような話になる前に親衛隊は帰っているのである。

もちろん、この花火をするために公園に向かっている途中も、花火をしている時も、ずっと大学ではお誕生日会が催されていたのである。今思えば何をしていたのか、気になるところではあった。

手持ち花火。

これが私の好きな人と初めて遊んだ時間だった。
今ではその好きな人は好きではないのだが、控えめに花火を持つ姿にキュンとした。

とある友達が、Aって実は⚫️の事が好きなんだよ、知ってた?と皆の前で言い放った。
その⚫️というのは、私の好きな人だった。

元々そうだろうなと勘づいていたので驚きはしなかったが、好きな人本人の前でそれ言うんか、と少しイラッときた。
それを言われて動じなくへぇ。そうなんだ。と言いそれまでの会話を無かったことにする好きな人に、
そういうところが好きだよ、と言いたくなった。
好きな人は、興味を持つくらいで好きにはならない、と言っていたが、興味を持つうちに好きになるのではないかと私は心配した。

2時間くらいひとしきり花火ではしゃいだ後、やばい、さすがに戻ろう、と友達が言い大学に戻ることにした。

戻ってみると、A親衛隊とAはとても仲良さげに盛り上がっていた。
私もコンビニに行かなければA親衛隊となっていたのだろうか。

どんな顔でAの居る環境に居座ればいいのか分からず戸惑っていると、Aが今日はきてくれてありがとう、とハグをしてきた。
これも彼女の計算なのだろうか。
細い彼女の腰に手を回そうと考えたが、やめた。

これコンビニで買ってきた、と言って好きな人が眺めていたスルメを渡した。
とてつも長いコンビニ滞在時間でスルメ一袋だけである。我ながら薄情すぎる。ただ、これが私の気持ちなんだよ、と渡す手に気持ちを込めた。

帰りの電車で、花火を撮るふりして好きな人を写した写真をみて、謎の満足感と、優越感に浸った。
誕生日会を楽しんだというよりは花火を楽しんだのだが、その日は濃くて、今思い出しても花火の匂いが忘れないくらいには楽しかった。






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