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高卒で入社した会社を辞めるRTA①

学生時代からある程度明るい性格として周りに接してきた。
入社式でもその明るさを社長に気に入られ、同じく明るく元気を気に入られた同期の男の子(以下:同期くん)と新入社員代表として挨拶をした。


入社してすぐに他の会社との研修があった。今思うと不思議な研修だったなとおもうけど研修中に点数が加算されていく研修だった。
合計2日間の研修を終え、各々の合計得点が発表されそれが各会社へ報告される。
男性部門一位は一緒に代表挨拶をした同期くん、女性部門の一位は私だった。


次に会社へ訪れた時は、配属される支店が発表された。
新入社員30名ほどが入り、私は同期くんと同期ちゃんと同じ支店に配属が決まった。
まず、一位を取ったことを褒めてもらったことがうれしかった。配属先の店長にも、男女ともに一位の子の配属が決まって喜ばしいと言われ、同期ちゃんには申し訳なかったけれど三人で頑張りますとやる気に満ち溢れていた。


入社した会社は電装部品の商社で、配属された支店は商社の中でも売上が一位の支店だった。
とにかくやる気に溢れ、はやく会社の一員と認められたいと思っていた。


同期くんは営業職、同期ちゃんと私は事務職として直属の上司が決まった。
この支店では既に事務員が2グループに分かれており、経理を担当するお局グループと営業職を補佐するグループがあった。
そしてそのグループは果てしなく仲が悪かった。お局グループには同期ちゃんが、営業補佐グループには私が配置された。
※お局(以下:たぬき)補佐グループ長(以下:きつね)とする。


配属され、グループに挨拶したときに、きつねから「研修総合一位の子なんだってね。期待しているからね」と言われて嬉しかった。
今ではこの言葉が完全に嫌味だと分かるし、それが分からなかった私はあほだな、と思う。


誕生日の関係で入社前に免許が取れなかったので、出勤には最寄りの駅まで自転車で行き、そこからバスで会社の近くの駅まで行き、そこから30分かけてまた自転車で会社へ向かった。
まず始めに振られた仕事は納品書の入力だった。パソコンはIBMを使用していた。
この納品書を入力して、ときつねに言われて入力方法を尋ねたらきつねときつねグループ(他二名)に笑われた。

「研修一位の子なら聞かなくても出来るでしょ」

言うまでもないが新卒が外部で受けてくる研修など社会人としてのマナーや電話の取り方くらいで実際私もそうだった。業務内容のことに関しては一切指導を受けていない。
それを説明してもきつねたちは「でも研修一位なんでしょ?」と教えてくれる気配は一切なかった。
仕方なく画面の通りに入力していくも、納品書のどこをどういう風に入力すればいいのか分からず、ましてや触ったことのないIBMに戸惑いかなり時間が掛かった。
当然と言えば当然なのかもしれないが、配属一日目、私はミスをした。
きつねと一緒に課長に呼ばれ、「ここミスしてるよ」と指摘されたとき、突然隣できつねが泣き出した。

「私が指導するって言ってるのに、褒゜めさんが勝手に入力し始めたんです」

しくしくと泣いているきつねを慰め、課長は私を𠮟りつけた。
翌日、私は毎朝開催される朝礼でショールーム全員の前で勝手な行動をとり申し訳ありませんでした、と謝罪をさせられた。


配属されて一週間が経つ頃に、配送されてきた荷物を受領し、営業の棚に振り分ける仕事が追加された。
この時、私と同期ちゃんで一緒にこなすのか別日ずつ担当するかでたぬきときつねで話し合われ、私が週4で担当し、同期ちゃんは週1での担当と決まった。なぜ私の方が多く担当するのか謎だったが、たぬきときつねの決めたことに従うしかなかった。
各営業はアルファベット一文字で分けられ、届いた部品に書かれている客先名や担当者名を確認しアルファベットが書かれた棚に置いていく。
この各営業に割り振られたアルファベットも研修一位の子は教えなくても分かるという理由で教えてもらえず、たまに部品を取りに来る営業さんに聞いては覚えていった。


配属先は3階立てで、2階にオフィスがあり、倉庫は3階にあった。
荷物がきたら1階まで取りに行き、3階まで運んで仕分けをする。エレベーターはあったが、私は使うのを許可されていなかった。
時には30kgほどの荷物が何個も届き、きつねにエレベーターを使わしてほしいと頼んだが許可されずきつねグループの他二人(以下:きつね①、きつね②)が二人で私の背中にその荷物を乗せ、私は荷物をおんぶする形で3階の倉庫まで何度も往復し荷物を運んだ。きつねたちは大喜びで私の姿を動画で撮っていた。
営業さんがオフィスにいたり、現場から帰ってきたときとタイミングが合うと、きつねたちは優しかった。あんなに大笑いして私のことを動画で撮っていたのに、誰かひとり営業さんがいあわせると、重いよね大変だね手伝うよと猫なで声で仕事を手伝ってくれた。


荷物を仕分けし終わったらオフィスに戻り納品書を入力する。入力を始めるとまた荷物が届き1階まで取りに行く。3階まで運び仕分けをしてから2階に戻り納品書を入力する。
仕分けするスピードが遅くオフィスに戻るのが遅くなる為納品書を入力する時間がなく、どんどん仕事が溜まっていく。
仕事がこなせなかったことを、翌日の朝礼で全員の前で謝罪する。


配属されて二週間。きつねから「褒゜めさん、今のところ何も役に立ってないよ。」と言われた。
その翌日から、他の人が出勤してくる1時間前に出勤しオフィス全体の掃除をすることを命じられた。早く来て掃除をし、営業たちが来る頃には一旦ロッカーへ隠れ、その後女性社員たちと同じ時間帯に出勤してきたようにオフィスへ行き、タイムカードを押した。
家を出る時が一時間はやくなり、仕事が追い付かないので残業をする。新入社員、しかも入社三週間目なので残業などつけられず、定時で勝手にタイムカードを切られた。
朝7時に出社し、夜の8時過ぎに会社を出て9時過ぎに家に着いた。自動車学校へ通える時間がなく、免許はなかなかとれないままでいた。


入社四週目。この頃に電話を出る業務が増えた。電話に出た回数をカウントし、一日の終わりにきつねに報告する。
私のノルマは一日に50本の電話に出ることだった。同期ちゃんは一日20本のノルマだったが、明るい褒゜めさんと大人しい同期ちゃんが同じノルマなんておかしいというたぬきときつねの意見だった。
私は荷物の振り分けの仕事でデスクを空けることが多かったので、制服のポケットに子機を入れて持ち歩いた。階段を上ってる最中だろうが電話に出た。商社だったので、電話はたくさんかかってきた。


余談だが、お昼時間はたぬき、きつねグループのお弁当を温め、食堂へ置き、全員分の飲み物を揃えて私は階段下の掃除道具を置く場所で食べるように言われていた。
お昼が終わるころにオフィスへ戻り、食堂に放置されたままのお弁当箱を全て洗うまでが私の仕事だった。一緒にご飯を食べることを許された同期ちゃんが羨ましくもあり、全員分のお弁当箱を洗う自分がとても惨めだった。
食事はどんどんおいしくなくなり、喉を通らなくなっていたが体力がもたないために無理矢理喉奥へ流し込んだ。


入社一ヵ月が経つ頃に、味覚はほとんど感じなくなっていた。
私が元気で働けるように、とお弁当に好きなおかずを入れ続けてくれる母の気持ちが嬉しくて、会社でいじめを受けているとは言えなかった。仕事を覚えるのが遅いしやることも多くてといろんな理由を付けて両親に話した。
それでも両親は日に日に元気がなくなり、帰宅しては泣いている私を心配し、辞めてもいいと言ってくれていたが、高卒で入社一ヵ月で辞めるのが怖かった。


自分の仕事のできなさ、情けなさ、惨めさ色々なことで頭がいっぱいになりながら、私は明日も朝礼で「皆様にご迷惑をかけ申し訳ありません」と謝罪をする。

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