見出し画像

ex.回線

    去年自分が書いた小説を読んだら、割と文字をそのまま受け取れることができて、一年経つと、自分の手から離れていくから大体剥離されて別ものになって、じめっとしなくなる気がした。時間を置けば人に読んでもらうことに抵抗感がなくなった気がしてよかったなあって思って、途端に、もう早く読んでほしくて推敲なんかしてらんないんだよって笑っていた人の文章が好きだってことを思って、くやしい。文章のひとつひとつを直したり、そっと下書きに保存したりするたびに、あなたの鮮烈な呼吸を見て、嫌気が差す。さっき流した血をそのまま流せる人が、そこに集まるガラクタが好きだった。待ちきれないって笑ってた顔が楽しそうで、たぶん神技みたいに速いタイピングが目に浮かんだ。温度のないツイートをいくつ集めても星は見えない。ずっとむなしい草原が広がるだけ。
    あなたのツイートって、なんか血の味がしない/彼女はそう言って伝票を掻っ攫って、もう戻ってこなかった。サビついてもう媚びりついた鉄、噛みしめたときのつーんって思わず目つぶっちゃうみたいなそういう濃い血。足りないから黒ずむくらい消し直して頭が痛くなって重いが足りない毎週出し忘れている酒缶の底。底辺にこびりついた跡だけがまだ味がするの、そう言って彼女は終わったガムを噛んでいた。噛みしめるみたいに唇を痛めながら。
    SNSの無敵さが嫌い。きみはなんにでもなれるよ、と簡単にのたまってしまう先生みたいなところが嫌い。学生のとき、今しかないと言われるのがすごく嫌だった。学生じゃなくなってそう言いたい気持ちが分かるようになっちゃったけれど。ひと昔前だったなら簡単に諦めていた程度の熱で、ほんものぶっているところがとても嫌いだなと思う。
    かみしのさんの日記をふたつ読んだ。書くことで幸せになる。ツイートや短歌とは違う、とても読みやすい文章で淡々としている文だなといつも思う。Gateballersの聴いていなかった曲を聴いた。ノイズの音が耳に残っていい。
    整列されたインスタグラム/きみの持ち物が全部嫌い。つまんない。持ってて当然マストアイテムばっかりで、わたしのことを喜ばせようとして買ったプレゼント、きしょい。ごめんね。わたしのことはリアルタイムでしか見られないのに探ってる、昨日何してたとか、数年前の思い出とか、もう過ぎ去った全部。概要欄で分かってた内容ばっかりの会話に、もう疲れている。
    ブログを読んだ。ふるえるゆびという人と、中田満帆さんの文がとても良かった。携帯電話の機能が半減して使いにくくなった。ヘッドホンも片方しか聞こえなくなってしまったし、買い替えなきゃなと思った。インターネットらしい文が好きなのにインターネットは好きじゃないなあと思う。利便性を享受したい。ばつ印を押して、いくつかのアプリを消した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?