人生で最も価値のある220円

私の母方の祖母は猫が大好きだった。
幼少期は勝手に家に連れ込んでは父親(曽祖父、かなりの癇癪持ち)に殴られる生活をしていたらしいし、私の母が子どもの頃から猫は絶えず一緒にいて、最後の猫がいなくなった後高齢で病気もあるからと諦めるまでの間祖母は猫と暮らしていた。一番長く一緒にいた猫がシャム猫だったので、特にシャム猫が好きだったらしい。

そんな祖母が猫を新たに飼うことを諦めてから5年以上経った一昨年くらいのこと。
私は徘徊癖があるので(部屋の中をぐるぐる歩いる事もある)その日も祖母宅に向かいがてら適当に地元をふらついて中古屋に入り、なんかめぼしいものを探していた時にシャム猫のリアルなぬいぐるみが目に留まった。
大きさも雰囲気も本物に似ていて、よく出来たぬいぐるみ。
中古屋の価格設定は220円。
猫ならまぁうちに本物がいるしな…と思い一旦は店を後にしたが、これから向かう祖母がシャム猫が大好きだという事を思い出し、Uターン。もしダメなら家に置けば良いし…と思って買ったそのぬいぐるみは、亡くなるまでずっとそばにいた祖母の親友になった。
猫がいない事を寂しく思っていた祖母は猫のぬいぐるみに一番長く一緒にいた猫の名前をつけ「まるで生き返ったみたい」と頭を撫でてやり寝る前には話しかけてから眠りにつくようになった。心なしか以前よりも元気になったような気がしていた。

そして昨年春、祖母は救急車で運ばれて入院した。救急病棟には私物を持ち込めず、猫はお留守番をしていた。最初は「2週間で退院出来ると思います」なんて言われて本人も会話出来ていたのに、急激に体調が悪くなりそのまま寝たきりに。長く過ごす場所として救急病棟は向いてないので、療養型の病院に転院が決まった。
その病院に移ってからやっと猫のぬいぐるみと再会出来た。弱って殆ど意思疎通のはかれない祖母のそばにはいつも猫がいて、時折お見舞いに行った親族が猫を介して話しかけるとその時だけは嬉しそうに手を振った。そして最期の時も見守る親族一同の中に猫はいて、子どものように号泣する伯父と母を眺めていたっけ。火葬場に運ばれる時まで、猫はそばにいた。火葬場の規定でぬいぐるみは連れて行ってもらえないので火葬場までの付き合いにはなったが、祖母とあの猫のぬいぐるみは紛れもなく親友だったのだと思う。

まだまだ人生初心者だが、多分自分の一生の中でここまで価値のあるお金はもう使えないのかもしれない。誰かに親友と出会ってもらうのはきっととても難しい事なんだけれど、確かに祖母とあのぬいぐるみは親友だったのだ。

趣味の範疇から出ない程度だがものを作る者として「誰かの親友になれるようなもの」を作りたいな、という夢ができた。いつか出来ると良いな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?