ありがとうピコンピコン
あのピコンピコンに耐えるのが苦手。
ゲームでも、日常生活でも。
敵からのダメージ。
ゲージが点滅し、心拍数の下がり過ぎを知らせる警告音のようなピコンピコン。
(各自で抑揚をつけて読んでください。せーの)
ピコンピコン。
はー、一刻も早く、回復せねば。
はー、このターンを攻撃に使う方が賢いのかもしれない。
そんな駆け引きしている場合ではない。
私にとっては、ピコンピコンから抜け出すのが最優先事項なのだから。
こうして、ピコンピコンに滅法(めっぽう)弱い私は、友達や兄弟姉妹がするゲームを見る専になっていった。
今のは、ゲームの話だけれど、日常生活にも、このピコンピコンがやってくることがある。
例えば、車のエンプティーランプ。
シャンプーがワンプッシュで、もとの半分くらいの量しか出なくなるとき。
制汗スプレーが、カスカス音(おん)を混ぜながら、明らかに密度の薄いシューを出すとき。
心の中で、あの、ピコンピコンが鳴り出す。
一刻も早く、ストックを補充せねば。
私は落ち着かない。
急には無くならないのは、理解できる。
長年の付き合いにより、あと何日、何回、何プッシュぐらい保(も)つのか、大体分かる。
でも、このピコンピコンに私が耐えられない。
人類を大別すると、ピコンピコンに耐えられる人と、耐えられない人の2種類だとさえ思っている。
私は後者なんだけれど、ピコンピコンに感謝しようと思うことがあった。
最後のワンプッシュまでしっかり出てくる系に出会ってしまったのだ。
しかも、そいつは、どういう仕組みか、使うたびに底が上がってきて、いつも上の方まで液があるかのように見せつけてくるんだから。
何も知らない私が最後のワンプッシュをし終わってしまったときの、喪失感を分かってくれるかい。
次のプッシュ、急に出ない。
なんとも切ない。
イメージは、急に0になってピー。
このピーを聞いたとき、ピコンピコンのありがたさが身に沁みた。
止(とど)めの一撃になることに気づいたときにはゲームオーバー。
髪を濡らして、半開きの目で、プッシュしたシャンプーの先から感じる、押し出された空気。
切ないよねえ。
その切なさから守ってくれているんだね、ピコンピコン。
ピコンピコンに感謝しよう。
この先も好きにはなれないと思うけれど。
ありがとう、ピコンピコン。