どうでもいいを忘れない

ふわあ、と耳に残っている声。

この前の帰り道。
あぜ道を2列になって走る自転車とすれ違った。

私も自転車通勤なので、その2人が話している声がよく聞こえた。

日が暮れて、冷たい空気の中を、帰るためペダルを漕ぐ。
なのに、帰り着いてしまわないように、ジグザグに、ふらふらする2人。

中学生の部活帰りと見た。

また少しフラつきながら、反対方向からやってくる私をよけるのに、ほんのちょっとだけ端による。

ちょうど、その2人と私が横並びになるか、ならないかのところで、1人が言った。


今、お前だから言うんだけどな


私の耳はもう、2人と一緒に進んでいこうとしているのに、その声の続きは、かすかに聞こえるかどうかの所まで離れてしまっていた。


ふわあ、と耳に飛び込んできた言葉。


きっと、すぐに気にならなくなるだろう。
歯に挟まって、どの歯と、どの歯の間かも分かっているのに、取れないアイツみたいに。

その内、人知れず、きれいに無くなっているんだろうな。


ファスナーの先に、さらに引っ張りやすく、掴みやすく付けられたアイツが取れてしまったのも、忘れてたな。

ぼーっとすると視界に入り込んできた、天井のシミに見向きもしなくなったのは、いつからだろう。

無くなったって、むしろスッキリする。

そんなやつらが存在したことを、なぜか愛おしく思ってしまう。

どうでもいいこと。
無くなったって悲しむ人もいない。

自分と重ねてしまうのかもしれない。

どうでもいいけど、無くなっちゃったね、と何かの拍子に、思い出してくれたらいいな。


私は、ちゃんと思い出せるだろうか。
どうでもいい、奴らのことを。
ふわあ、と耳に残った、あの声を。


#雑記 #帰り道