僕は

今日は、僕の話をしよう。
影がうすい僕のお話だ。
大きくならなくて、小さいまま。
こっそりしてる。

影が薄いのは今に始まったことじゃない。

僕は3人きょうだいの末っ子で、幼稚園児のころ、お迎えが来なくって、勝手に歩いて帰ったことがある。
歩いて帰ったのに、かけられた言葉が「ごめんね」でも「おかえり」でもなくて、「どうして、そこにいるの」って。自分でも分からないよ。
自分がどうしてここにいるのかなんて。

小学校にあがって、野球部に入ると、試合に行った先のグラウンドに取り残された。誰も僕が帰りの車に乗っていないのに気がつかなかったらしい。
僕はグラウンド裏の飼育小屋にいたんだ。うさぎに夢中になってた。
あのね、うさぎが上あごと、下あごを食べにくそうに、ずらすんだよ。そして、もぐもぐする。あの大きな黒い目を、真っ直ぐ、すえて。僕は、吸い込まれた。もぐもぐもぐもぐ。

僕は、日に日に薄くなる。
僕が、あんまり濃くなると、どうも、生きていきにくい。

それは、僕が悪いわけでも、他の誰かが悪いわけでもなくて。僕が、そう感じたんだから。だから、それが全てというだけで。

僕は、賢くならなかったけど、自分が忘れたくないことぐらいは覚えてられた。

今日も小さく息をする。

こっそり隠れて、薄くて小さくて、でも消えることのない僕は、私と一緒に、もう1人の僕を探しているのかなあ。

たまには、僕の話も聞いてよね。


僕は、ノンフィクションで書いたつもりだけど、僕の存在が、そもそもフィクションだと言われると…。

僕は影が薄いから、しかたない。
また言われるかな。
「どうして、そこにいるの」って。

また僕は何も言い返せないで、固まっちゃうよ。


僕は、今日、ここにいても、いいですか。





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