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地元が被災したことをVRChatで知った。

地元が被災したことを、VRChatで知った。「変な時間に目が覚めちゃったな」とVRChatにインしたのが、9月6日の午前4時過ぎ。いつものように溜まり場ワールドにjoinし、挨拶しようとするとフレンドから「mokushiさん大丈夫ですか?今北海道大変なことになってますよ!」と声を掛けられた。

僕は北海道で生まれ、高校まで札幌で過ごした。今は上京し、都心で一人暮らしを続けている。介護の関係もあって、親族は全員実家のある札幌周辺に固まって暮らしている。つまり僕以外の親族は、みんな被災している。一時的にライフラインは途切れ緊張した日々を過ごしたものの、親族に限って言えば大きな被害は無く、彼らは日常を取り戻しつつある。

すぐに両親に電話すると、まずは深夜に電話をかけてきたことに驚いていた。「こっちは大丈夫。物も壊れてないし、周りにも連絡とれたから安心して。電話かけてくれてありがとう。まだ起きてたの?ちゃんとご飯食べてる?」と何故か途中からこっちが心配される状況で、笑ってしまった。安心しきった僕はいつものようにVRChatでふざけあい、疲れたので二度寝した。
目が覚めてtwitterを見ていると、さっきの地震に名前がついていた。
「北海道胆振東部地震」
死者41人。負傷者681人。住家の全壊82棟、半壊97棟、一部破損380棟、被害程度確認中566棟。(2018年9月16日10時30分現在)北海道観測史上、最大深度7を記録した未曾有の大震災だった。

鰯高校甲子園とゾーニング出来ない大震災

僕は意識の低い、時事問題に疎いダメ人間である。上京以来TVは買ったことがないし、新聞も断り続けた。たまに見るネットニュースが唯一の社会との接点で、VRChatをやるまでツイッターも登録だけして使ったことが無かった。外界を遮断し、引きこもりのような生活を続けている。現実からは逃げたかった。

得られる情報は、拡散力の高い情報だ。しかしそれは重要な情報ではなく、「ネタ」としての面白さが優先される。政治汚職、芸能人のスキャンダル、SNSの炎上等々……。嫌気が差して我慢できなくなると、近所の図書館にいって時事問題や気になる事件の資料を集め、勉強をはじめる。それで社会を分かった気になって、自尊心を守る。僕は別にダメだけど馬鹿じゃないと確かめる。でも、決定的に欠けている。僕は、「見たい社会」だけを見ている。

電話した次の日の朝、母親からメールが届いていた。「深夜に心配してくれてありがとう。こっちは大丈夫だよ。安心してください」「良かった。とりあえず余震もあると思うから気を付けて」いつもの母親らしい文面に、僕は何も気づかなかった。そして当然のようにVRChatにインした。ここ半年はVRChatにどっぷりとはまり、食べるのも寝るのも作業するのもすべてVRChatに入りながら生活していた。

当時は「鰯高校甲子園」というゲーム企画を進めていて、ゲームクリアするまで寝るな!とフレンド達とゲーム配信を24時間続け、12時間睡眠し、30時間またゲーム配信をするというアホなことをしていた。今になって思うと、たぶんハイになっていたんだと思う。その間は何も考えなくていい。

配信URLを告知するためにだけにtwitterを開くと、バズッたツイートが回ってきていた。震災の影響で任天堂ダイレクトが延期したことに腹を立てたユーザーが、被災者に暴言を吐いて炎上したとかで、ネタなのかなんなのか考えるのもめんどくさくなるような感じで嫌気が差した。

体力の限界がきて、配信を終わろうとしていたところ、VRChatのフレンドからコメントが届いていた。いつもふざけている気心の知れたフレンドだ。
「mokushiさん!今停電してネットも繋がらない状態でなんとかスマホから配信を見てる状態なのに、寝るなんて許されると思っているんですか!シツボウシマシタ。寝ます。」そこではじめて、VRChatのフレンドに被災者がいることを、そして具体的な被災情報を知った。「え?今停電してんの?」

外界との情報を遮断し、可愛らしい素敵なアバター達に囲まれた空間が歪んだ。現実。確かにしばらく見ていないフレンドもいる。

冷静になってネットで調べてみると、北海道全域で交通網が麻痺し、食料は街から消えていた。大規模停電、一部地域では断水もしているらしい。

母親は僕に心配させないように、具体的な被災情報を隠していたのだ。

VRChatワールド「Iburi-toubu EarthQuake」

それからは嫌でも震災の情報が目に入った。ネットで見れる動画や画像、取材記事。一度見ると止まらなくなった。再度両親や親せきに連絡を取り、安否と現状を執拗に確認した。

twitter経由で、胆振東部地震のがけ崩れ現場を再現したワールドが作られていることを知ったのは、被災して10日後のことだった。

僕がインした時、そのワールドには誰も居なかった。特に何も考えもせず、publicでそのワールドに入った。

目の前一杯に、文字情報が広がる。「北海道胆振東部地震」
きちんと見ないといけない。いつものようにふざけた楽しい空気感ではいられない圧力を感じる。少し周りを見渡すと、白いボックスが設置してある。

スイッチを押すとミラーが現れる。
自分のアバターと、被災地のフォトグラメトリモデルが写る。

滑稽な絵だけど、笑えなかった。
目の前に広がっている3dデータは、一見すると良くできたジオラマのようで、事前にマスコミの動画や画像で見ていた印象とは全く違う風景だった。
具体的な被害箇所や、分かりやすい導入、そういったものは一切無しに、足元から視界の先まで北海道厚真町が広がっている。とりあえず、厚真町市役場と書かれている場所に行ってみた。

国土地理院航空写真を元に作成されたテクスチャは精巧で、険しい山間の大きな畑に囲まれた、小さな家の集合体だとはっきりとわかる。
ようやく見つけたスペースに、なんとか居住空間を確保したという感じだった。何気なしにスクリーンショットを撮っていたが、特に何が写っていたわけでは無かった。

役場から続く道に沿って歩いてみた。ふっと道が途切れた。

一瞬で被災地の映像がフラッシュバックした。土砂に飲み込まれた家、救出作業する人たち、被災者へのインタビュー。想像力が止まらなくなって、気持ち悪くなって目をそらした。

周りは低く黒い壁で囲われていて、青空が覆っている。
これはunityのplaneに黒い色のマテリアルをのっけたもので、青空に見えるのはunityのskyboxにフリーでアセット配布されているものを適応したもの。この青空はどこかで見た。ワールドが明るく見えるのはdirection lightを設置していて、アバターの影が写らないということは、きちんとベイクしてワールド全体を軽量化してある証拠。

ここはVRChatのワールドだ。下を向けば「自分の足」が見える。

生き延びた人にしか会えない

気分を落ち着かせていると、知らないアバターがワールドにインしてきた。
僕も向こうも、お互い何も知らない。
一度目が合ったが、何かしゃべりかける雰囲気では無かった。

可愛い女の子のアバターは、僕と同じように下を向きながら道に沿って歩き、所々固まってはワールドをウロウロしていた。

気まずかった。

かと言って、この場からどこか違うワールドに移動することも出来なかった。いっそ楽になろうと、無意識に体が前に出て話しかけようとしていた。
焦りながら話題を選定するために思考する。「あの人は何でこのワールドに入ってきたのだろう」「もしかしたら、被災者かもしれない。知り合いが亡くなっているかもしれない」そう考えると、目の前の可愛い女の子が怖くなった。目の前のアバターは、人間だとはっきりと意識した。人間だから怖い。生きている。

そんな事ははじめから分かっていたはずなのに、VRChat内で寝食を共にし、一日中一緒にいるフレンド達とは別の生き物に感じた。フラッシュバックする被災映像と、目の前を動く生き物見て、やっとひとつの確信を得た。

僕らは、あの震災から生き延びたんだ。

VRChatがある場所

結局その子とはコミュニケーション出来ずに、他のワールドに移って行ってしまった。僕はこのワールドから動けずにいた。その間にも、ぽつりぽつりと何人か来ていたが、同じような行動をして、すぐに帰っていった。日本人だとユーザー名からわかる人は多かったが、コミュニケーションをとることはなかった。長い時間が経って、もう一度ちゃんと見ようと覚悟を決めたとき、英語のスラングが聞こえた。3人組の一人は大きなハンマーを持っていて、厚幌ダムを爆炎と共に叩いていた。3人はこのワールドがどんな意図をもっているか理解できていないようだった。

VRChatのいつもの光景だった。仕方がなかった。Publicのワールドで出会う人たちはほとんどが外国人で、日本人に出会うことは少ない。一応ワールドには英語表記があるが、何が現実に起こったのか知らないだろう。この震災自体がフィクションの設定だと捉えられる可能性もある。

現実の僕は、冷や汗を垂らしながら、多分険しい表情をしている。でも向こうからみれば、よくできたジオラマワールドに可愛らしいアバターが佇んでいるだけだ。ワールドの意図に相応しい空気感は、外見からだと全く想像できない。

不思議と彼らには不謹慎だとか、怒りといった感情は沸いてこなかった。
ただ、残念だ、仕方ないという感情が強かった。

一通りハンマーを打ち下ろすと、3人組はポータルを開けて別のワールドに移っていった。僕はなんで、この姿でずっとここに居るんだろう。

思えば、やってきた人たちは誰もアバターを変えることはなかった。ワールドの意味を理解している人もいただろう。現実では厳かな場所に相応しい服装があるように、この場に相応しい姿はあるのだろうか。そうすればさっきの3人組も、察することが出来たのだろうか。

Twitterでは、VoxelKeiさんがこのワールドを訪れた時の動画がバズっていた。https://twitter.com/VoxelKei/status/1041536011992391681

可愛らしいアバターが、現実世界で起こった震災を眺めている。カメラをつかむ度に表情が変わってしまって、笑顔になったり悲しい表情になったりする。仮想世界で生きる普段の僕らの姿だ。

アバターはもう、滑稽には見えなくなっていた。このワールドに入った時の、ミラーに写った自分のアバターを見た印象とはまるで変わっていた。

彼らも生きた人間で、彼らとはVRChatで繋がっている。モニター越しで一方的に見ている世界では無く、同時に向こうからもこちらを見ている。変に取り繕ったりせず普段の姿で、仮想世界に逃げ込んで、周りから廃人と呼ばるこの姿で、現実の出来事に触れる。

現実と「ここ」を確かに同時に存在させること。
僕みたいな人間には、それが大切だと感じた。

ポータルよりも強力な転送

向こうからフレンドが寄って来る。もしかしたら僕に会いに来てくれたかも知れない。挨拶もそこそこに、僕はべらべらとしゃべりだした。感じたこと、考えたこと。止まらなくなった。

震災はVRChatで直接起こったことではない。ワールドを作らなければ、ここから現実の「北海道胆振東部地震」にはアクセス出来ない。VRChatのポータルはまだ不十分だ、現実には干渉できない。ポータルよりも強力な転送が必要だ。

現実と「ここ」を確かに同時に存在させること。どの世界に浸っていても、それを切り裂くように起こってしまった事実は「裂け目」として残り続ける。あちらとこちらを繋ぐ「裂け目」だ。

だったら、どの世界からでも、その「裂け目」に触れられるようにしないといけない。仮想世界を現実と同等か、それ以上に感じている僕らならば。

だから僕はこの感想を残す。VRChatの楽しく魅力的な日々を綴ったTwitterに、確かにあった「裂け目」を残して、こちらからも現実を見れるようにする。

VRChatワールド「Iburi-toubu EarthQuake」
製作者さんに、公開した意図と経緯をインタビューさせていただきました。
https://note.mu/mokushi/n/n50c1f19873c8

ワールド原案・3dデータ制作 でちでち(@takaoyome3)さん
ワールド制作         番匠カンナ(@Banjo_Kanna )さん
VRChat https://vrchat.net/


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