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「理工系の学部・大学院に女子学生が増えないのはなぜか」についての私見

転職したり子供が生まれたり家庭がいろいろあったりと、なかなかnoteで長文を書く気になりませんでした。
研究者がなぜ嫌われるかシリーズは、「企業の研究所はどうあるべきか」という内容を加えて引き続き書いていきたいと思います。

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注意:長文です。5000文字ぐらいあります。暇な時にどうぞ。

今日は、もう何度も何度もtwitterで言及している話「理工学系に女子が少ない」という問題について書こうと思います。

なぜ女性が理工学系に少ないかは議論百出で、twitterでも時々激論が交わされますが、僕の個人的なスタンスを最初に列挙しておきます。


  • a: 女性が両親や教師から理工系に進学しないよう圧力を受けることは「主因」ではないと考える。

  • b: aの例が皆無ではないことは承知しているし、皆無になって欲しいとは思う。

  • c: 大きな要因はもっと別のところにあると考えている。

  • d: 女性の理工系進学、製造業進出が増えてほしいと割と本気で思っている。


ということを前提に、僕の以下の個人的な経験から私見を述べます。

  • 企業の研究者として11年(社会人博士)

  • 大学、国の研究機関も在籍経験あり

  • 自分自身は工学部電子工学科という女子1割以下の空間で修士まで6年間

  • 学部・修士・博士・企業(2社)・国研すべてのキャリアで女性の同僚あり

  • 学生時代は小学生・中学生・高校1年生対象の塾講師を4年間経験

  • 製造業のリクルーターとして大学訪問・説明会を10年間毎年借り出された

  • 新卒向け1次面接官も何度か経験あり

世間を広く調査したわけではないのであしからず。


なぜ女性は理工系に進学しないか

自分自身が高校生の時、学習塾で教えた子どもたち、実際に大学や企業で出会った人たちが観測範囲でしかありませんが、「女の子は理系(工学系)に進学すべきではない!」と親や教師から強く言われたという人には会ったことがありません。

「自分は理工学の道を志していたのに、周りから否定的圧力を受けて断念した」という例は(皆無ではないにしろ)あまり多くないと思っています。
その手の話は各所でされていますし、進路については女子のほうが自由に選ばせてもらっているという話もありますので、ここではその話はこれ以上しません。

個人的にもっと深刻な原因とみているのが、女子が「自発的」かつ「自分の意志」で理工学系を敬遠している(それもイメージや思い込みによって)ということが挙げられます。

すなわち、「他に選択肢がたくさんある中で、理工学系への進学は選択の順位としては相当下位(下手すると最下位)である」という方が多くの人に当てはまると思います。

これについて、もう少し詳しく私見を書いていきます。


そもそも女の子は科学技術(工学)に興味を持っていない


そもそもの話になってしまいますが、数学、物理学、化学、情報学といった分野に興味をもつ女子は少ないです。日本では教育の過程で科学技術に興味をもつ機会が非常に乏しいと感じます(男女とも)。

では男子はどうして科学少年になるのでしょうか。僕自身そうでしたが、やはり男の子はシンカリオン、ガンダム、エヴァンゲリオン、スターウォーズ、攻殻機動隊。「男の子ってこういうの好きだからね」と言ってしまえばそれまでですが、科学と技術と宇宙は男の子の憧れという文化的背景があるため、学校教育でことさら取り上げなくても勝手に興味をもつケースが多いと思います。

そういう「科学少年」たちが、いわば「自発的な興味を持って」進学している例は多いように思います。もちろん、僕の友人にもたくさんいました。工学部で友達を作るなら、ガンダムの話が鉄板です。

一方女子はそういう「自然発生」した「科学少女」の存在が希薄です。僕自身、本気で1人も出会ったことがないので、おそらくここですでに差がついているものと思われます。「リケジョ」などと称して一時期流行らせようとしましたが、もともと興味を持ちにくいこともあり、あまり広がりを見せませんでした。

女子としては、何の制限を受けることもなくのびのびと育ったとしても、科学少女にはそもそもなりにくいと思われます。小学生に「なりたい職業」を聞いても、科学者やエンジニアが女子の上位にのぼることはまずありません。そもそも「なりたい」と思っている女子がいないのです。

学校教育で科学技術に興味を持ってもらおうとしている企画を目撃したことはありますが、ガチの科学少年だった僕からすれば、あまり面白くありません。子供相手なんだからもう少しエンタメ要素を入れてみてはどうかと思いますし、女の子も興味を持てる工夫をすべきでしょう。

まずボソボソしゃべるオッサンを出すのをやめろ(辛辣)


数学・物理の忌避


中学2〜3年から高校生にかけて、興味のない子は数学や理科を忌避し始めます。学習塾の講師をしていたときに、この傾向を実際に体験しました。

抽象的な内容が入ってくると数学も理科も難しくなります。特に、内容に興味を持てない子供は、思考を放棄して暗記だけで対応しようとする子が多くみられます。

男女問わず落ちこぼれる子はいますが、特に顕著だったのが、小中と成績のよい優等生的な女子です。このタイプは暗記でねじ伏せるスタイルが多くみられ、抽象度が増す段階で数学や理科がガクッと落ちる子もみられました。女子はもともと数学や理科に興味を持っていない場合も多く、一度挫折するとモチベーションを上げるのは困難です。

解き方を丸暗記するという強引な方法で高校進学まではなんとかなる子もいますが、進学後にそれをやるかというと、できればやりたくないと思うのが自然です。そもそも興味がなく、必要性も感じていないので、回避できるなら金輪際関わり合いになりたくはないでしょう。

高校生になると理科系は選択制であることが多く、生物を選ぶと物理を回避できたり、数学をそもそも選ばない(2年生以降)ということも可能です。

生物は暗記で対応できる(成績がある程度稼げる)ことが多いため、どうしても理系科目を選ばざるを得ないならばこちらが選ばれます。それすらも自分の希望進路の入試科目に存在しない場合は、なんとか単位だけ取ってあとは放棄されます。

もともと真面目で暗記は得意、英語や国語などの文系科目はまだ理系よりは興味が持てることもあり、親や教師も「偏差値が高い」ということを重要視しますので、わざわざ周囲の評価を下げてまで理数系をやる理由はなおのことありません。

このようなプロセスで「優秀なのに理数科目をやらない女子」の一丁あがりとなります。僕の私見ですが、巷で噂される数学などの能力で男女差があるわけではなく、

  1. そもそも興味がない

  2. 「イヤイヤ暗記」で対処できないから成績は上がらない

  3. 避けようと思えば避けても大学には行ける(そちらのほうが有利)

  4. 将来自分の人生で使うこともないし、やらなくていい

という意識により、モチベーションが地の底まで低いことが主因ではないかと思っています。嫌うことでますます「成績」は稼ぎづらくなり、ますます嫌いになり忌避するという負のループに陥ります。

一度できなくなると、よほどのインセンティブか興味がない限り、相当の努力をして遅れを取り戻す理由が見当たらなくなります。




理工系学部の男子の比率が非常に高い


僕は「男子の比率が高い」というのは決して「内部(あるいは門戸)で女性が不当な扱いを受けている」というわけではないと考えています。

よく聞く説として「女性の理工系分野への進出は社会的な抑圧によって妨げられている」という説をここでは採用しません。
(皆無とはいいませんが、世の中ゼロイチで成り立っているわけではありません。それは主因とは考えにくい、としておきます。)

むしろ、先に述べた、興味を持たない現象理数系科目忌避現象が先にあり、その「結果」として女子が少なくなっているのです。

学部学科によっては、女子が1割に満たないところも少なくないですし、工学部だけ別キャンパスだったり、理工系しか学部をもたないような大学すらあります。

そんな男の割合が異様に高い場所に、進んで進学しようという気にならない。というのは無理もないことかと思います。


キャリアプランが想像できない(あるいはイメージが非常に悪い)


これに追い打ちをかけるのが、キャリアの想像がつかないという事態です。

先程書いた「(大学入試を含めて)将来自分の人生で使うこともない」という意識は、「興味がない」と並んで理数系科目忌避を生み出す要因だと思っています。

そもそも抽象度が高く難しい数学や物理学をやろうというのは、何か強い興味や目標がないと難しいものです。女子の場合、そのような将来の見通しに対して、「理工学系の大学を出て一体何の仕事をするのか」ということはイメージしにくいでしょう。

理工系の大学に進学したら、そのあと就職はどうなるでしょうか。
(おそらくイメージがつかない高校生が大半だと思いますが)イメージしたとして、メーカーに就職し、作業着を着て、周囲の大半がオジサンの職場で、時には力仕事もあり、それでいていま自分が苦手とする抽象的な数学や物理と格闘しながら「何か」を作っていく。という職場を想像するのではないかと思います。

残念ながらそのイメージは一部で当たっていますが、誤解でもあります(これは次回に譲ります)。

実際、業種によっては男性比率は非常に高く、技術者ともなれば部署に女性は自分一人、身近な同期は全員男、という事態も大いにありえます(実際僕の数年後に入社した世代はそうでした)。

「電」とか「工」とかいう漢字が放つイメージがもう「男」「おじさん」であり、現場が実際にそうなってしまっていることもままあります。もちろんそうではない製造業の現場もあり、業種や職種により千差万別です。

男子であれば、「手に職をつける」という意識からこうした業界を目指すこともあるでしょうが、女性の場合は考えにくいと思います。

そんな「おじさんたちに囲まれるハッピー工場ライフ」のイメージしかないような、女性の活躍が想像できないような「理工学」に進学しようとは思わないわけで、それは無理もないことだと思います。

あまつさえ難解で暗記で成績を稼げない数学や物理を無理にやらなくても、文系科目だけだって大学にも進学できる。

具体的に将来やりたいことはいまないけど、大学に入ってから考えればいいし、数学や物理を使う仕事に就く自分は全く想像できない・・・という思考になるのは自然です。

ちなみに、女子が理系を目指さないことはないわけで、実際に薬科系、医・歯科系、デザイン工学系、生命科学などは比較的女性が多いです。

僕は「女性は数学や物理が苦手だから」という説には反対で、どっちかというと「業界イメージの問題」「働いている姿を想像(イメージ)できるか」といった要因が強いと思っています。やはり「電」とか「工」とか「機械」とか「物理」という漢字が放つイメージが女性を遠ざけていることは大いにある。というのが僕の感想です。

面白いことに、前職で就活イベントに行く時、自社の業種を「精密機械」にすると女子が集まらず、「精密医療機器」にすると集まるという現象がありました。医療機器は数ある事業のひとつでしかありませんでしたが、「医療」の文字はなぜか女子を引き寄せることが人事の間では常識になっていました。それに「機械」より「機器」の方がマイルドらしく、比較的女子が集まりやすくなります。

女子学生を集めたい時には意図的に医療機器の看板を掲げ、女性社員と若手の男性社員を連れて行っていました(後者が僕だったこともあります)。
イメージなんてそんなもんですが、イメージって大事。


友達がいない(もしくはできない恐れがある)


これはツイッターで言及していただき、そういえばその通りだなと思ったことです。

女子は友達同士で群れがちです。仲がいいグループで行動することが多く(まぁ男子も友人のグループは作りますが)、何をするにも友人の動向が気になります。

そんななかで、自分一人だけが、周囲の誰も選択していないような特異な進路を選ぼうと思ったら、選択する科目も友人とは別、予備校のクラスも別、一緒に勉強をすることも相談することもできなくなります。

やはり受験期に孤独になるのは避けたいもので、どうしても強い興味やキャリアプランがあるようなケースでない限り、自分だけが違う選択をしようとは思わないでしょう。

進学後も問題はつきまといます。男子の比率が非常に高いため、下手したら同じ学科に数人しか女子がいない、ある講座を受講したら女子が1人しかいない(工学部ではよく見かける光景です)なんて事態にもなりかねません。
さすがに友人を作るのも難しいとなれば、キャンパスライフも楽しくないでしょうし、勉強や研究も楽しく進められるか不安になるでしょう。

僕も学ぶ上で友人や先輩後輩がいてよかったと思いますし、孤立すると大学に行く値打ちは半減してしまいます。特に理工系は講義を受けるだけでなく、実験や研究をするわけで、仲間がいるに越したことはありません。

男子が多いので女子が入りにくい。という状況は改善することが難しい問題でもありますが、志望する人(=仲間)が少しずつでも増えていけば徐々に解消すると思われます。

実際、僕の妻は美容師ですが、一世を風靡したカリスマ美容師ブームの後、美容師専門学校では徐々に男子の比率が増え、現在では半々か、店舗によっては男子優勢になる場合すらあるそうです。理工系の進学先も、このような現象を起こせば女子比率が増えると思います。うまく言葉にするのが難しいですが、要は「みんな行ってる」みたいな既成事実が必要になります。





以上、おもいつくままに書きましたが、次回は「理工系の女性を増やすにはどうしたらよいか」という話を書きます。


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