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Organize my thoughts

中学生になる少し前に、母は私を塾に通わせ始めた。野猿娘の将来を憂いたのか、きっかけはよく分からないが、私も反抗せずに通い始めた。そこは近所の塾ではなく、少し遠い場所にある集団塾だった。

椅子に座って授業を受けるのは楽しくはなかったが、つまらない時はいかにも先生の話を聞いていますという顔をして、妄想に耽っていたので苦痛ではなかった。20人ほどの生徒が一つの教室で授業を受け、私の席は中間ぐらいにあった。

その頃、私は視力が落ち始めていた。教室の黒板はかろうじて見えていたのだが、ときどき見えずらく感じていた。それでも教室の照明は明るく、先生も大きな文字で書いてくれていたので、困ることはなかった。

ある日授業を受けながら、私は以前、友達が遠くをよく見る方法を教えてくれたことを思い出した。手をぐーの形に形にし、中を少し隙間を開け覗くと目が悪くても遠くが見えるらしい。私はそれをさっそくやってみることにした。両手をぐーにし、隙間を開けて黒板を見ると、確かに文字が見やすくなって、友達の言っていた通りだと私は感心していた。

「〇〇さん、何やってるの?」

夢中になって黒板を見ていると、先生が声をかけてきた。私は、友達から遠くがよく見える方法を教えてもらい、試してますと言った。ちょっと得意げな顔をしていたのかもしれない。先生は笑いを噛み殺したような顔で、よく見えるの?と聞くので、元気にはい!と答えた。

先生はそうか、とまた笑いを噛み殺したような顔をして、授業を続けた。

こうやって振り返ってみると、きっと先生はアホな生徒が紛れ込んだものだと思ったに違いない。他の生徒はくすりとも笑わなかった。みんな真面目な子ばかりだったと思う。

野猿が恥というものを知るのは、まだまだ先の話だった。

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