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桃太郎ったら④

猿くんに犬くん、おまけにキジくんにまで
助っ人を断られてしまった桃太郎。
仕方なく一人ぼっちで、恐る恐る鬼ヶ島へとやって来ました。

桃太郎  「あ〜あ、みんなひどいよな。チャッカリきび団子だけ食っちゃったさ。
それにしても、鬼ヶ島ってもっと怪しい所かと思ったけど、何だか過ごしやすそうな所だなぁ。鬼なんてどこにいるんだろう」
兄鬼「こんにちは〜」
弟鬼「こんにちは」
桃太郎「うわっ、鬼だ!」
兄鬼「はい、鬼で〜す。鬼ヶ島へようこそ〜」
桃太郎「え、え、え、お、お、お、鬼?」
弟鬼「鬼です、間違いなく鬼です、正真正銘の鬼です」
桃太郎「あ、あ、あの・・・」
兄鬼「うふふ・・・可愛い、震えてる〜」
桃太郎「ほ、ほ、本当に鬼・・・鬼、ですか?」
弟鬼「だから鬼だって言ってるだろうが!」
兄鬼「こーら、怖い顔しないの。人間の坊や、怖がらないでいいのよ」

そうは言われても、震えが止まらない桃太郎。

桃太郎「あの、ここ、本当に鬼ヶ島なんですか?」
兄鬼「だからさっきから言ってるでしょうが!」
弟鬼「兄さん、顔!」
兄鬼「あら、私としたことが、ごめんなさ〜い」
弟鬼「ここは鬼ヶ島」
兄鬼「そして私たちは、鬼ブラザーズで〜す」
弟鬼「です。で、君は?」
桃太郎「僕は、桃太郎です」
兄鬼「ああ、桃ちゃんね」
弟鬼「で、今日は何しに来たんだい?」
桃太郎「鬼たい・・・」
弟鬼「鬼退治?」
桃太郎「いや、あのう・・・鬼は大事にしましょうって」
兄鬼「そうよねえ、なかなかいい子じゃない」
桃太郎「そうだ、これどうぞ、きび団子てす」
弟鬼「きび団子?旨そうじゃん・・・うまい!」
兄鬼「どれどれ・・・あら、美味しい!」
桃太郎「良かったぁ、おばあのじゃなくて」
弟鬼「婆ちゃんが作ったのかい?」
桃太郎「じゃなくて、おじいが作ってくれました」
兄鬼「本当に美味しい」
弟鬼「なあ、これ鬼ヶ島名物の団子にできないかな」
兄鬼「コラボってヤツね、名案じゃない。ねえ桃ちゃん、紹介してくんないかしら、そのお爺ちゃま」
弟鬼「うまく行ったら、ここもお客が増えて人間とも仲良くなれるかもな」
桃太郎「え、仲良く?」
弟鬼「時々『鬼退治だあ』なんてとぼけた人間が来るんだけど、時代遅れなんだよなあ」
兄鬼「そうなのよ、桃ちゃんみたいに、鬼は大事にしなくちゃねえ」
桃太郎「ははは・・・そうですよね〜」
兄鬼「さ、そうと決まれば」
桃太郎「決まったんだ」
弟鬼「会いに行こう、爺さんに」
桃太郎「いやいや、ますおいらが、おじいとおばあに説明します。じゃないとビックリして、ひっくりかえっちゃうから」
兄鬼「ま、そうよねえ。あんたの顔が怖いからね」
弟鬼「お互い様だろうが、鬼なんだから」

てなわけで、何だか奇妙なみやげ話を持って帰ってきた桃太郎。

桃太郎「かくかくしかじか・・・って訳でさ、おじい、お願い!」
おばあ「何であたしじゃなくて爺さんなのさ」
桃太郎「それは、その」
おじい「まあまあ、二人で作ればいいじゃろう」
桃太郎「いや、これは、これだけは、おじいにお願いしなくちゃいけないんだ」
おばあ「あたしの団子じゃダメっちゅうことかい」
桃太郎「うん、おばあは包んだり、計算とかそっちを頼むよ」
おばあ「爺さん一人じゃ頼りないじゃろうが」
桃太郎「でも、おばあのきび団子は、そのう・・・評判が」
おばあ「評判?評判がなんなのさ」
桃太郎「評判が、悪い」
おばあ「聞こえないよ、もっと大きな声で!」
桃太郎「おばあのきび団子、評判が悪い、不味いんだ、とてつもなく不味いんだよ。だから」
おじい「桃太郎・・・」
おばあ「爺さん、何を笑うとるんじゃ!」
おじい「婆さんや、ここはわしに任せとくれって」
おばあ「そりゃ、あたしゃ楽できるからいいけどさ」
おじい「そうじゃそうじゃ、婆さんには経理っちゅうのをしっかりと頼むよ。わしゃ数字がからっきし弱くていかんのじゃ」
おばあ「わかったわかったよ。それにしても、とんだ鬼退治だったね」
桃太郎「成敗だけが鬼退治じゃないってことさ」
おじい「ほはう、何だか急に大人になったのう、桃太郎。そうじゃ、みんな仲良くってことじゃ」
桃太郎「鬼退治じゃなくて、『鬼大事』ってことだね」
おじい、おばあ「桃太郎ったら・・・」

そして、三人はせっせときび団子を作り、鬼ブラザーズはせっせときび団子を売り、きび団子はすっかり鬼ヶ島の名物になりました。
そしてみんな、鬼も人間も、仲良く暮らしましたとさ。

めでたし、めでたし



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