二本と三本、生と死
エルデンリング、楽しいですね。たまに楽しくないときもありますけど。複数ボスとか。
2+3=5
エルデンリングのシナリオには褪せ人のみなさんも必ず疑問に思ったであろう点があると思います。すなわち、「二本指って誰だよ?」という点です。
エンヤおばあちゃんの話やその他の情報をつなぎ合わせると、二本指とは「大いなる意志」から指示を仰ぎ、それを褪せ人やデミゴッドに伝達する現場指揮官の役割を果たしているように考えられます。でもどうして「二本」なのでしょう?人間の指は基本五本でワンセットですし、指様の側面には肉をちぎり取ったような痛々しい跡があります。この二点を踏まえると、「二本指」と「三本指」はもともと同一だったのではないでしょうか。
ここで言及される「大きなひとつ」とは二本指と三本指が合体した「五本指(便宜上こう呼びます)」のことであり、大いなる意志はあるときこれを二本指と三本指に分割しようと画策しました。この企みは成功し、分かたれた三本指は地下に幽閉され、黄金樹を焼く炎は巨人たちの山嶺に封じられ、二本指を中核とする黄金律が完成したのです。ここで注目したいのが三本指にも巨人たちにも「黄金樹を滅ぼす炎」という特性が共通していることです。
こう言い換えてみましょう。「二本指とは生であり、三本指はそこから切り離された死・滅亡の概念である」と。滅びの炎を封印し、運命の死を秘匿したことで長寿と繁栄を謳歌した黄金律は、しかしラニとライカードの反逆によってゴッドウィンが弑されたことでふたたび死と向き合うことになりました。
最初はパー
では五本指の律はどのようなものだったのでしょう。誰が五本指の元に暮らしていたのでしょう?その答えはおそらくファルム・アズラや各地にみられる獣人たちです。
チンクエディアが獣の神殿の裏手に落ちていること、獣の神殿とファルム・アズラの建築様式が類似していること、また付近に「ファルム大橋」という地名があることからして、おそらく往時のファルム・アズラは獣の神殿から先に位置していたと考えられます。
このテキストが示しているように、大いなる意志は最初に獣たちに「五本指」と知性を授けたようです。その後どのような心変わりがあったのかは知る由もありませんが、とにかく五本指の律は放棄されて二本指の時代が到来しました。古竜とローデイル騎士が戦争になっていること、各地で亜人たちを卑しい身分の者として扱っているところからして、二本指はどうやら五本指とは相容れなかったようです。
焚樹・坑商
さて、王都の地下に埋められた三本指ですが、しばらくは完全に無力な状態だったと思われます。そんな三本指が再点火するきっかけになった事件があります。これです。
狂い火の封印の付近に放浪商人シリーズが配置されていることからも、狂える三本指と彼らの関係は深いことが推察できます。生き埋めの原因となった異教の嫌疑ですが、実際に信仰していたとも、迫害されて濡れ衣を着せられたとも考えられます。
このテキストを根拠とすれば彼らは狂い火を崇拝しており、危険視されて抹殺されたことになります。各地の放浪商人と敵対すると狂い火系の祈祷を使用してくることも整合性が取れます。しかしもう少し気になるものを見つけました。
シャブリリが狂い病の起源だとされています。矛盾のないように時系列を整理しましょう。
シャブリリ、狂える三本指に密通
↓
放浪商人の一族を讒言で生き埋めに
↓
放浪商人、絶望から狂い火を召喚
↓
狭間の地に拡散
ヴァイクを言葉巧みに誘導して指紋ベタベタにした可能性のある男ですから、このような悪事に走っていても不思議ではありません。村人からネズミや騎士に至るまで狂い火に爛れている村もありますし。
二本指デリンキック
狂い火が世界に何をもたらすかといえば、それは「均一化」です。すべてを再び「大きなひとつ」に戻し、分割されて産まれることのないようにしようというのです。
もちろん二本指の以前、五本指の時代から苦痛や絶望は存在したものでしょうが、狂える三本指は五本指すらぶっちぎってゼロに戻そうとしています。すべてのものが溶け合った、差異も壁も存在しない空間。どうにも聞き覚えがあります。
「スープ仮説」をご存知でしょうか。生物が産まれる前、原始地球の海には有機物質がスープのように混じりあって存在しており、それが生命体の原材料になった、というもので、1924年にソ連のオパーリンという研究者が提唱しました。もちろん異論はあるものの、現在でも広く知られている仮説です。
こう考えてみましょう。「五本指、獣たちより前、世界にはなにもなく、混沌のスープだけがあった。そこから命が産まれ、知性を獲得し、律のもとに文明を作るようになった。時代は下り、黄金律が世界を支配すると、狂い火が世界を溶かし尽くす。そうして混沌のスープに戻り、また繰り返す。」黄金樹の根元ではなく、炎に溶かされてスープに戻る。これこそが本当の「産まれ直し」だったのです。どうでしょう。
坩堝ーン
ドロドロに溶けて混ざりあった、と言うともうひとつ引っかかる単語がありますね。「坩堝」です。辞書で引いてみると、
とあります。ここから考えたのは、「坩堝=混沌のスープ」ではないかということです。坩堝の騎士たちは「シルリア」や「オルドビス」など、古生物学で用いられる時代区分から名前を引用していることが分かります。
黄金樹の原初はより混沌としていて、ありのままの生命に近かったようです。死のルーンを封印した黄金律の世が「生命」から遠ざかるとはなんとも皮肉な話です。メメントモリは大事。
死なぬだけの長生、まさにこの一言に表される状態でしょう。歪みが顕在化するのもむべなるかな。
ここからは想像の域を出ない仮説ですが、坩堝の騎士たちは「混沌のスープ」の生命らしさを色濃く受け継いだ存在なのではないでしょうか。ヒト以外の生物が混ざりあってグチャグチャ、ゆえにヒトの世では蔑まれたものの、それこそが生命の本来の形態だった。そして蛮地から来たゴッドフレイは彼らの実力を買い、自身お付きの騎士に叙した。実際黄金律は巨人や獣人やヒトならざる者と頻繁に戦を構えていますし、ヒト族至上主義的側面があったと考えられます。
※追記(2022/4/22)
フロムって「死なないだけで生きてるとは言えない」みたいなモチーフが好きだなと以前から思っていましたが、もしかしてこのモチーフと樹木の生態を重ね合わせたものが黄金樹じゃないですかね?葉や花をつけることはあるものの基本的には動かずに永い時を過ごす樹木と、いわゆる「惰性の生」的なモチーフは共通点がありますし。木に対して恨みでもあるんでしょうか。
結局なに?
二本指と三本指はもともとひとつだったよ
五本指の時代は獣の文明だったよ
狂い火は世界を原材料までリセットするよ
溶けた世界から新しい生命が誕生するよ
坩堝の騎士は生命の原初を継承してるよ
黄金律はどうも綺麗じゃなさそうだよ
ゴッドフレイ万歳!
あとがき
発見の興奮と勢いに任せて書き殴った散文ではありますが、ご笑覧いただけると幸いです。他の大部分の世界観、たとえば月と星の律にはまったくノータッチなのでそちらにも考えが及べば文章に起こしたいと思います。ちなみに未クリアです。ありがとうございました。
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