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【掌編小説】白いワンピースの微笑

山根あきらさんの企画「白いワンピース」に参加させて頂きます。

 美和子は、可愛そうな女だった。令和の時代だというのに、自由を許されず、両親から搾取され続けている。二十代で仕事をしているというのに、給料は全額、親にむしり取られ、彼女が手にするのは僅か月に五千円なのだという。中学生の小遣いでもあるまいし・・・・・・。気の毒になった。

 僕が彼女と知り合ったのは、趣味の掲示板だった。その掲示板で意気投合した僕たちは、DMを送り合う仲になった。そして、彼女の職場と、僕の住んでいる場所が意外にも同じ市であることが判明した。彼女と縁があるように感じた僕は、気の毒な彼女を、救い出すことを心に決めた。

 或る日、僕は彼女の仕事終わりを、職場の近くで待っていた。
「美和子さん? ではないでしょうか? 僕は掲示板で知り合った涼介です」
「リョウスケ さん?」
 微笑んだ彼女の頬は赤くなって、とてもかわいらしかった。
 僕は、彼女を食事に誘った。少し奮発をして、イタリアンのフルコースの店に案内した。
「私、こんな素敵なお店に来たの初めてで・・・」
 恥じらう彼女にとても好感をもった。料理を一緒に食べながら、彼女の身の上話を聞いた。彼女の両親は再婚同士のようで、彼女の母親は、義理の父親との間に生まれた弟ばかりに愛情を注いだのだという。義理の父親というのは、気に入らないことがあると彼女にすぐに手を上げているらしく、彼女は袖をめくって昨日できたばかりだというアザを見せてくれた。
「もう、あなたを家に帰らせるなんてことはできません」
 彼女に、僕の家で一緒に暮らすことを申し出ると、彼女は目にうっすらと涙を浮かべながら頷いた。彼女はその日から、僕と暮らし始めた。彼女は次第に仕事に行き渋るようになり、僕の家で家事をして過ごすようになった。

 翌週の日曜日に、僕は彼女を買い物に誘った。数あるショップの中で、彼女が選んだのは、エレガントなワンピースを揃えた店だった。店員さんに色々と相談しながら試着を何度か繰り返している様子を、僕は満たされた気持ちで眺めていた。
「私、これに決めました」
 彼女が、試着室から微笑んで見せてくれたのは白いワンピースだった。
「まるで花嫁衣装のようで、お似合いです」
 僕が言った言葉に、彼女は頬を朱色に染めた。その様子を見て、僕は彼女にプロポーズをしようと心の中で誓った。

 翌日から僕は、三日間の県外出張が入っていた。彼女に僕の部屋の合い鍵を預けて、新幹線の駅へ向かった。



 三日後に、自宅に戻ると、部屋の明かりは消えたままで、心配して急いでドアを開け中に入った。

 すると、寝室のベッドの上で白いワンピースを着たまま動かなくなっている彼女を見付けた。彼女の口角は少しだけ上がり、微笑しているかのように見えた。

 ベッドサイドのテーブルの上に彼女の書き残した手紙と、服毒したらしい薬の瓶が置いてあった。


リョウスケさんへ

あたなと出会えたことは嬉しくもあり、絶望でもありました。
私をモノのように扱っていた両親から逃れることができたのは本当に嬉しいことでした。職場と自宅を往復することしかなかった人生の中で、初めて、外の世界を見ることができたこと感謝しています。

でもだんだんと私が感じていた不安は大きくなりました。
両親というカゴからせっかっく逃れることができたと安堵したのも束の間、
今度は、リョウスケさんのカゴに入れられてしまったことに気付きました。

あなたが喜ぶのは、「私が自分よりも劣っていると実感したとき」だと気付いてしまったのです。だから、私は仕事を辞めざるを得ませんでした。
仕事で私が充実した出来事を話すとあなたの表情は曇り、仕事で失敗した話をするとあなたの表情はパッと光が差したかのように明るむのです。
あなたと白いワンピースを買いに行った時、私は既に死に装束を探していたのです。これで私は、ようやく本当に自由になることができます。
ありがとう。そしてサヨウナラ・・・・・・。



ミステリーが良いとのことで初チャレンジです。ミステリーになっているかどうかは「謎」のまま・・・・・・。

ミステリーのお話だからこういう結末ですが、
命を断つことは回避してほしいです。

和田大貴さんの御紹介されていた曲を引用させて頂きました。
冒頭の「冬の部分」の雰囲気がちょうどイメージにぴったりだったもので・・・・・・。