「手柄」をシェアする

男に物を買わせる、というのは、
「相手に手柄を立てさせる」ということなのでしょう。
私はその頃、とても若く、
「自分で頑張れば自分の力でなんでもできる、
人に頼ったりしない」
と気負いこんでいたように思います。(中略)
「甘える」ということは、
一見、相手に負担を負わせるようで、
実は、「手柄」や「役割」を
相手に分けるという意味を持っています。
すべて他人の世話になって生きたい、
と思う人が少ないように、
私たちは他者に対して
「意味のある存在」「力を持った存在」でありたいのです。(中略)
甘えることによって、
相手にそうした存在意義を与えることができるのです。

石井ゆかり『愛する力。』

筆者が以前上司から「もっと男にバンバン、アクセサリーとかバッグとか買わせるようじゃなきゃダメだ。色気がないんだよ」と言われた話で始まる、「手柄」をシェアする、と題された文章の一部。

甘えを受け入れてもらった経験がないために甘える自信がないタイプ(仮にAとする)とはまた別の、頑張りすぎて甘えるという発想のないタイプ(同じくBとする)の話である。甘えたいという気持ちがある分Aの方が可哀想にも見えるが、Bにしても一生弱気にならないという保証はない。そもそも、甘えても受け入れられないと自分が頑張るしかなくなるし、何でも自分でしていると、周囲の人は手を貸してやろうという発想がなくなる。両者は別々のタイプのようで底の方でつながっており、「結果」はおそらく一緒であろう。

とにかく、この文章で、Aの人は多少なりとも勇気を、Bの人は発想の転換を得られるのではないか。                   (2016.10)

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