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「甘えるのが仕事」の猫でさえ

モネ「俺が死んだら代わりを連れて来てくれよ なるべくわがままなやつがいい」
平蔵「おまいさんまだ子猫だろうが」
モネ「あの二人心配でさ~」

深谷かほる「夜廻り猫15」

『夜廻り猫』は、「泣く子はいねが~」と夜廻りをする猫、遠藤平蔵(もしくはその弟分)が、「心で泣いて」いる人に声をかけ、話をきいたり一緒にものを食べたりする8コママンガである。

妻「お父さーん モネがお風呂入りたがってる」
夫「え~今いいとこ・・」
妻「お父さんでないと怒るからー」
夫「しょーがないなあ」

モネ「熱いのイヤ 水はイヤ ひのきの香りがいい」
モネ「あ そこそこもっと 耳はイヤ」
夫「まったくわがままなんだから」 

(同書)

えらいわがままな猫だな、と思いながら読んでいると、平蔵は「おまいさん猫のくせによく働いておるな」という。どういうことだろう。するとモネは「お母さんとお父さん好きなんだ」と答え、自分の後にわがままな猫を世話してやってくれというのである。

好きな人のために一生懸命わがままを言う、って何? 好きな人のためにこそわがままをこらえるんじゃないの、といいたくなった。甘えるのは悪いことではない、相手を喜ばせることにもなる、ということを知り、理解したつもりでいたが、頭でしかわかってなかったらしい。

だいたい、わがままを受け入れてもらったことより、叩かれたり怒られたりしたことの方が圧倒的に多いのである。受け入れられた回数が拒否された回数を上回るまで、とは言わないが、甘えて嬉しそうにされた、少なくとも受け入れてもらえた記憶が、もう少し必要なのかもしれない。猫でも野良猫となると、飼い主となった者が愛情をかけてもなかなか甘えるようにならないという。保護されるまでの年月の長さ、その間の人との関わり、猫の性格、などによって違うらしい。とすると、この「猫」を「人」に置き換えても同じではないか。

甘えられない人は、そのことで自信をなくし、自信をなくすからよけい甘えられなくなる。しかし、猫ですら、甘えるという仕事を覚えるには飼い主を必要とする。甘えられないのは本人の落ち度ではなく、よい飼い主に巡り会えなかったからだと考えれば、そんな所で自信をなくす必要はない。よい相手が現れた時にその人を信頼するだけである。

学生の時、自分の学科が「猫以下の○○」と言われていたことを久しぶりに思い出した。猫の手も借りたい、というが、○○科の学生は猫ほども役に立たない、という意味である。もっともそれは人間の仕事をさせる場合の話で、猫の仕事で比較すれば、飼い猫に引けを取らない子もいた。私はもちろん、野良猫レベルである。
(2018. 5)

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