魔が差す

心を揺さぶられると魔が差す

もかこの手帖

先日職場でお昼を食べながら、朝見たドラマの一場面、ある男がわけのあった相手に10年ぶりに偶然会うところを思い出してぼんやりしていた。台詞は「ごぶさたしております」だけなのに、かなしそうな目だったな・・・と涙ぐんでいると、よりによって苦手なN女史がノックと同時に乱入、ボスが彼女に依頼した件について、叫ぶように苦情を言い始めた。幸い私に対する苦情ではなく、言うだけ言って帰って行こうとしたその時。何を血迷ったか、私の口は「来月のパーティの案内は届いてますか」という言葉を発したのである。

彼女が出ていった後も、しばらくは何が起こったのかわからなかった。すぐにキレて騒ぐトラブルメーカーとして名高く、その上意地悪な彼女になど絶対来てほしくない。にもかかわらず、ひきとめて出席を促すようなことを言ったのだ。これで来る気になられたらどうしよう!!とひとしきり悶々とした後、ああ、こういうのを「魔が差した」というのだ、と静かにため息をついた。

魔が差したという話を聞くことはあっても体験したことはなく、男の人がそう言うのを聞いても、二人で会ってる時点で可能性はあったはずだし、要は言い訳じゃないの、と思っていた。しかし。何かに心を揺さぶられている時であれば、嫌いな相手が文句を言いに来たのを呼び止めてパーティに誘うことすらあるのだ。

普段のその人からは考えられない、魔でも差さないとしてくれないような言動を望むなら、感情を揺さぶってみるのがいいかもしれない。思惑どおり魔が差したとしても期待どおりの言動が出てくるとは限らないし、それ以前にどうすれば目の前にいる人の心を揺さぶることができるのか、という問題は残されたままであるが。(2017.2) 

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