言葉を知るということ

日本ではあまり馴染みがないけれど、西洋ではピアノでも何でも、プロ顔負けの技術をもちながら趣味として楽しんでいるアマチュアがたくさんいて、ディレッタント、趣味人と呼ばれているの。あなたもディレッタントになりなさい。

ピアノの先生の言葉

私はピアノが好きだったがその道に進むことはできなかった。妹を音大に行かせるので二人は行かせられない、と親に言われたからである。先生にやめることを伝えた日、理由をきかれて「妹が……」と言ったきり後が続かなくなった。何とか親の言葉を伝えると、「あなたが行った方がいいのにね」と仰った後何度もうなずき、ディレッタントという言葉を教えて下さった。

その言葉を知らなかったら、「音大に行きたかったのに」と思い続けたかもしれな
い。もちろんその後の人生が順調であれば、そんなことはないだろう。目的地にスムーズに到着した時には、道を間違えた、とも、あそこで反対側に曲がっていれば、などとも思わないように。しかし私は道に迷い続けた。

ディレッタントという言葉は、未練に引きずり込まれないようにするための呪文のようなものとなった。のみならず、一つの言葉を知っていることが身を守る場合もある、ということを教えてくれた。

ピアノ弾きになれなくても趣味人になればいい。ピアノで幸いであった。たとえば医学部に行けなかったので趣味で医者を、なんて許されないのだから。 (2017. 5)

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