女同士のけんか

「男相手の喧嘩はあえて逃げ道を作ってやるのがいいの。でもね、女が女をやり込める時は一太刀で息の根止めないと駄目なのよ。女同士の言い合いほど見栄えの悪くて面倒なもんはないからね。相手がひと言でも抗弁するようならこっちの負け、ってくらいの構えでのぞまなくっちゃ」

木内昇『浮世女房洒落日記』

神田の小間物屋の女房、お葛の日記を現代語に直したという設定。「洒落」日記としたのは化粧法やおしゃれについての記述が多い(小間物屋の売れ筋は化粧水)からであろう。
ある日、仲良しのお恒と買い物に言ったお葛は、共通の知り合いお佳が、着物を汚されたといって店の人を怒鳴りつけているのを見かける。お恒はお佳に近づくと「あら、このくらい染み抜きすりゃあ元に戻るわよ」などと明るく言って彼女の口を封じた。見事な言い方だった、と感心するお葛に対するお恒の返事がこれである。

そういえば、母が昔似たようなことを言っていた。お嫁さんに怒鳴るだけでは足りず手を上げる、あれでは誰がいってもつとまらない、といわれるお姑さんの話をしていた時のことである。「あのお袋さんを蹴り飛ばすくらいの者でないと(嫁としてやっていけない)」と言い出したのである。蹴り飛ばすって、と笑ったが、今思えばあれも、一気に口を封じる以外手がない、ということだったのかもしれない。(2017.1)

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