【書評】谷山雅計『広告コピーってこう書くんだ!読本』

著書の谷山氏は以下のような広告コピーを生み出している。

東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、資生堂/TSUBAKI「日本の女性は、美しい。」、新潮文庫「Yonda?」、日本テレビ「日テレ営業中」

私は「ガス・パッ・チョ!」は知らないが、他のコピーは頭への定着度が高く、やはりいいコピーなんだと思う。そのような著者が、広告コピーの作り方についてエッセー調に語ったのが本書。実例たっぷりで読んでいるだけで楽しい。また、コピーライターとして短い言葉に神経を研ぎ澄ませることに慣れた人の文章は、読んだときに感じるスムーズ感が違う。気軽に読めるので、是非読んでみて欲しい。

このような「プロ」が書いた本のいいところは、別に広告コピーライターになりたいわけではなくても何らかの有意義な「気付き」を得られること。私の頭にフィットしたのは2点。

「なんかいいよね」禁止。

いい映画をみたあとで、一緒に見た人に、「なんかいいよね」。後で友達に「あの映画さあ、なんかかっこいいんだよ」。その夜、パスタを食べながら「これ、なんかおいしくない?」

そんな感想しか言えないようじゃ、コピーなんてとうてい書けないぞ、ということ。これ、コピー云々の話に留まらない。人生をこのように生きてしまっている人は多い。なぜ、自分はこの映画が好きなのか。なぜ寿司をおいしいと思うのか。言語化しなければ伝えることはできないのに、あいまいなまま済ませてしまっている。だから周りの人はあなたの考え方についてよく分からない。パスタが好きらしいよ。以上。でもあなたはもっと深いことを考えているはず。それを言語化してみよう。

常識・コピー・芸術

大変分かり易い例で、芸術とは何かを定義している。この定義を知っただけでも読んだよかった、と思わせる。もちろん芸術の定義は人それぞれ・千差万別・有象無象。この定義が正しいわけでも間違っているわけでもないが、一つの軸が得られた、という点で、読んでよかった。ついでにコピーとは何かも定義してる。

「この豆腐は、白いんですよ」と言えば、「常識」。そりゃそうでしょう。見ればわかりますから。だれでも知っていること。

「この豆腐の白さはね、現代の不安を象徴しているんですよ」と言えば、「芸術」。はあ? そんなのわかんない、という反応を呼ぶ。でも一部の人には雷に打たれたように刺さる。ほとんどの人にとってはピンとこない。へー、そうなんだ、そうかもね、という程度が関の山。

「豆腐はね、すごく栄養があって、"畑のステーキ"みたいなものなんだよ」「コピー」。知っているけど潜在意識の下に眠っているものを言語化して目の前に提示する。暗黙知に働きかける。


あなたもあなたなりの気づきを得られるはず。

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