小説「オチルマケル」削除ネタ0010
0010 【閑話】エレンの日記
私の名前はエレン・トワーレ・ボルヌィーツ。
ボルヌィーツ辺境伯の6歳になる末娘です。
私にはルロン・ビー・ボルヌィーツ父様、ジェシカ・ユリ・ボルヌィーツ母様、バン・リット・ボルヌィーツ兄様、メアリー・メイ・ボルヌィーツ姉様、そして、すぐ上のユキオ・ウィナー・カツ・ボルヌィーツ兄様がいます。
私の家族はそれぞれ個性豊かで、特にユキ兄様は私の憧れです。
バン兄様は、大らかな感じの優しい人で、いつもニコニコとしています。私が困った時には、いつも助けてくれます。
メアリー姉様は、少し強気の、いえ、活発な姉様です。
ただ、ユキ兄様だけ『変』なのです。
ユキ兄様はバン兄様よりも年下のはずなのに、何故か大人っぽいのです。
その証拠に、女中さんを見る目が興味津々です。
ユキ兄様は変な本を毎日、読んでいます。
見せてもらったのですが、見たことのない文字が並んでいて、私の頭では理解できません。
何が書いてあるのと聞くと、魔法の本だよと言うので、たまに読み聞かせてもらっています。
だって、私もボルヌィーツ家の人間、魔法の一つもできなかったらどうする?と思っていますので…。
でも、父様から聞いた話では命名の儀式で、
「この娘は魔力が絶大だ。将来は魔法騎士になりなさい。」
と言っていたそうです。
ですので、私にも魔法は使えるはずなんですけど…。
ユキ兄様は学校が嫌なのか、いつもつまらなそうな顔をしています。
そして空に向かって、何かを言いながら、手を上げています。
あれは、元気になるおまじないなのかもしれません。
そんなユキ兄様は、毎日のように私に魔法を教えてくれます。
ユキ兄様の教え方はとても丁寧で、分かりやすいです。
ただ、ユキ兄様が教えてくれる魔法と父様たちが教えてくれる魔法は全然違うのです。
ある時、父様に「どうして違うの?」と聞いた時がありました。
すると父様は、
「ユキは偉いお師匠様から魔法を教えてもらっているんだよ。エレンも魔法に興味があるのなら、ユキに教えてもらいなさい。」
と、にっこり笑顔で言ってくれました。
でも、ユキ兄様の教える魔法は難しいのです。
ならばと、ユキ兄様は文字表を作ってくれました。
これで、この文字の勉強が出来るからと言って。
よくよく聞くと、この文字はエルフさんが使う文字らしいのです。
エルフさんって、どんな人?と聞くと、ユキ兄様は
「妖精さんだよ。とても長生きなんだよ。」
と言ってくれました。
ユキ兄様は他にも精霊さんが居ると言っていて、精霊さんは契約をすれば友達になってくれるのだと教えてくれました。
その文字の発音を解りやすくするために歌も作ってくれました。
時々、兄様と一緒に歌っていると、知らないうちに家族全員で歌っています。
その時間が私は大好きです。
今日は母様が、女中と一緒にお菓子作りをするそうです。
お菓子を作るにも魔力が必要なんだそうです。
ですので、今日は私も母様の手伝いをします。
一生懸命、魔力を注ごうとしているのですが、上手く出来ません。
う〜っと唸っている私を母様は、女中さんと微笑みながら、見ていてくれています。
結局、私には何もできませんでしたけど。
ユキ兄様に魔力の注ぎ方を教えてもらいました。
兄様の説明はとても分かりやすかったです。
兄様はコップに水を注ぎ、私に飲むように言いました。
私は言われた通りに水を飲むと、水が魔力で、飲んだ水の感触が魔力の流れだと言いました。
解らないと言うと、兄様は両手を掴み魔力を流すと言いました。
私は目を瞑ると、両手から温かい物を感じることが出来ました。
兄様は、今度はエレンが流してごらんと言うので、兄様の手に魔力が流れるように想像していると、出来ているよと言ってくれました。
次の日に、母様が今日はクッキーを焼きましょうと女中さんと話しているので、私も手伝いをすると言い、台所でお菓子を作る手伝いをしました。
「今日こそは魔力を注いで見る。」とお菓子を目掛けて両手を出し、昨日の兄様に流した魔力の事を思い描いていると、皆がびっくりしていました。
魔力を注げたのです。それも、いっぱいの魔力を。
そのことをユキ兄様に話すと、兄様は喜んでくれて私の頭を優しく撫でてくれます。
この時が嬉しいので、魔法のお勉強を頑張ります!
ある時に、ユキ兄様がエルフさんの言葉で『我の器を広げ賜え、器に溢れんばかりの水を与え賜え』と毎日、唱えるようにと教えてくれました。
どうしてだろう?と聞くと、魔法がもっと上手くなるおまじないだよと言ってくれたので、毎日、唱えています。
ある日、私は一人でユキ兄様のためにお菓子を作ろうと思って、母様とキッチンにやってきました。
でも、温度調整?っていう難しい言葉が出てきます。
温度調整って何?と聞くと、一定の温度で作らないとおいしいお菓子が出来ないんだよと教えてもらいました。
普通は氷で冷やしながら作るのですが、上手く行きません。
せめて、この部屋全体が同じ温度に保たれればいいのに。
部屋の温度が一定に保てれば、もっと簡単になるのに。
そう思っていると、私の持っているボールを包むように青白い空間が出てきました。
母様に言うと、なにも見えないって言ってました。
どうやら、私にしか見えないようです。
その夜にランタンのガラスの中に燃えている炎を見て、気づいたのです。
私は慌てて、部屋に戻り『空間支配』と唱えました。
すると、私の手の上で青白い空間が見えたので『炎』と言うと、手の平の空間だけ、炎が舞っていました。
この魔法をもっと練習して、兄様に褒めてもらおうと思います。
それにしても、ユキ兄様はおかしいと思うのです。
今日も、20歳位の女中さんにお風呂に一緒に入ろうと甘えているのです。
女中さんもユキ兄様が可愛いから笑って一緒に風呂に入っているのですが、明らかに目がいやらしいと思います。私はちょっと心配です。
ユキ兄様って、年上の女の人が好きなのかしら?
でも、女中さんは20歳、ユキ兄様は7歳だから、すごく年上になります。
そのことをユキ兄様に言うと、
「男って者は、美しい人に魅力を感じるんだよ。」
と言いながら、顔を真っ赤にしてました。
今日から、ユキ兄様たちは『夏休み』というお楽しみな時間が始まるのだそうです。
朝早くから、ユキ兄様のお友達が家にやってきて、遊びに行ってしまいました。
私も一緒に遊びたかったです。でも、今日はお留守番です。
お昼に、父様のところにお客さんがやってきました。
そのお客さんは、お嬢様と一緒にやってきたようで、窓から見ていると、白いお洋服に白金色の長い髪に透き通るような白い肌、澄み切った緑色の瞳は、まるでお人形さんのようでした。
何故か、お友達のリリス姉様が怒ってましたけど、なにか失礼があったのでしょうか?
後で、兄様に聞いてみようと思います。
次の日も兄様は朝から遊びに行きました。
朝から夕方まで遊んでいるユキ兄様ですけど、剣の練習と勉強は毎日欠かさずしています。
休みたいと思わないのですか?と聞くと、兄様はニッコリと笑い、
「死にたくないからね。」
と言っていました。私はその言葉が何を意味するのか、まだ理解できませんでした。
それにしてもユキ兄様たちは、よく遊んでいます。
毎日のように泥だらけになり、時々、魚や獣を狩って、お土産にしてくれます。
今日は鳥でした。
話に聞くとリア様はナイフが得意なようで、一番上手にできるんだそうです。
この鳥も、リア様が狩ってくれたものなのだと言っていました。
夜になって、ユキ兄様が、みんなに見せたいものがあると庭に来てと言っていたので、全員が庭に集まりました。
「よく、見ててよ!」
兄様は両手を天に向かって上げ、何かの呪文を唱え、両手に現れた光は天高く飛び、その光は綺麗な色で爆発しました。
これは『花火』というものだそうです。
父様も王都で見たことがあると言っていました。
明日も見れるかな?兄様におねだりします。
次の日、夕方になって、兄様が普段と違う様子で帰ってきました。
今日は兄様が、こっそりと帰ってきました。
いつもは元気いっぱいなのに不思議です。
「兄様、お帰りなさいませ!」
いつものように出迎えると、びっくりした兄様は慌ててお風呂に入ってしまいました。
夜に父様が帰ってくると、鋭い目つきになり、
「血の匂いがする」
そう言いながら、各部屋を確認していきます。
そして、風呂場にある脱衣籠に入っている、ユキ兄様の衣装を見つけました。
見つかった衣装は、薄く血の色が付いており、
それが匂いの元になっていたようです。
父様はその衣装を持ち、兄様になにやら聞いています。
すると、兄様は湖でモンスターと出くわし、退治したのだとか…。
血で染まってしまったから、湖に入って洗ったのだそうです。
それにしても、体いっぱいが血に染まる程のモンスターって、どれ位大きいのでしょう?
兄様は、言い訳をしながらも、どこか苦しそうな顔と、それとは逆のスッキリとした顔をしています。
一体、何があったのでしょう?
それはともかく、兄様は父様にお願いして、剣の稽古をしているようです。
父様の稽古は、剣に魔力を乗せた実戦に近い方法で行われます。
父様は手加減をして、少しの魔力しか乗せていないようです。
でも、兄様と剣が交わった時に、兄様の剣が父様の剣を折ってしまいました。
余りの出来事に、父様はポカンとしていましたが、すぐに笑顔になり、兄様を褒めていました。
その後に、父様は折れた剣を持って泣いてましたけど…。
兄様は、明日も遊びに行くと言ってました。
たまには、私も連れてって欲しいものです。
お願いしてみようかしら?
あら、もうこんな時間。
女中さんが寝る時間だと言って来たので眠ることにします。
どうか、いい夢でありますように。
おやすみなさい。
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