小説「オチルマケル」ボツネタ0013
0077 ひとりぼっちのグリモ
アーデン村の一件を済ませたユキ一行は、険しい山に足を踏み入れた。
この山は木々が生えていない乾燥した山で、岩だらけの荒れ地が広がっている。
地面も乾燥し、所々にひび割れが見える。
時折吹き上げる風には砂埃が混じっていた。
山道を進むうちに、一行は古びた建物を見つけた。
建物は岩に覆われ、自然の一部のように見える。
「ここ、何か特別な場所みたいだ。探検してみよう。」
一行が建物に足を踏み入れると、内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っている。
天井までそびえる本棚が並び、古びた書物がびっしりと詰まっている。
床には埃が積もり、歩くたびに小さな雲が舞い上がる。
部屋の奥にはいくつかの白骨死体が散らばっている。
「ここ、本当に古い場所みたいだな。図書館なのかな?」
ロンが言った。
「その割には白骨死体が多いわね。」
リリスが若干、怯えた口調になった。
エレンが警戒しながら周囲を見回す。
「気をつけて。何かがここを守っているかもしれないわ。」
一行が探索を進めると、突然、本棚が激しく揺れ始め、本が飛び出して宙を舞い、部屋全体が生きているかのように動き出した。
本が嵐のように飛び交い、奇妙な音や声が響き渡る。
ユキたちは驚き、警戒しながら進んだ。
リリスは素早く魔法で自分を守り、
「何が起こっているの?」と叫ぶ。
エレンは冷静に空間を操作し、飛び交う本を避けるためにバリアを張りながら、
「落ち着いて、みんな!」と指示を出す。
シリカは身軽に本を避けながら、敵が現れるかどうかを警戒している。
「誰かがここを支配しているみたいだニャ。」
「誰かいるのか?」
クリスが叫んだ。
暗闇の向こうから身長100cmにも満たない小柄な体格の人物が姿を現わす。
やや痩せ型で猫背の姿をしている。
青白い皮膚に大きなぎょろっとした赤い目、尖った耳、皺だらけの顔に大きな鼻が特徴的だ。
乱れた白髪がまばらに残っており、ボロボロのローブをまとっている。
指が長く、爪も長く伸びている。
足元は裸足で汚れている。
彼は一行を追い払おうとしていたが、ユキたちに見つかり、攻撃されそうになると
「ごめんなさい!殺さないでください!」
と謝った。
「私はこの図書館の管理人のグリモです。ただの悪戯だったんだ。」
グリモは言い訳したが、クリスが「やっつけよう」と言うと、
グリモは怯え、「許してくれれば協力するから」と懇願した。
「まあまあ、本人も謝ってることだし、許してあげようよ。」
とユキが言うとクリスはユキが言うならと剣を鞘に戻した。
グリモは許してもらえた喜びと久しぶりに会話ができる嬉しさで、喜んで建物内を案内するという。
しかし、それが失敗だった。
「さて、皆さん。
ここは古代の図書館です。
かつて偉大な魔法使いたちが集めた知識の宝庫なんですよ。
見てください、これらの本棚は天井までそびえ立ち、何千冊もの書物が収められています。
この部屋には、古代の呪文書や失われた歴史、そして忘れ去られた秘術が詰まっています。
あちらの棚には、錬金術の秘伝書があり、こっちには古代の神々についての記述があります。
どれも貴重なもので、普通の人間には到底理解できないでしょう。
ああ、それから、この部屋の奥には、特に貴重な文献が保管されているんです。
そちらには封印がかけられていて、私がいなければ開けることはできません。
それから、図書館の中央には、魔法陣が描かれた床があります。
これはかつて、魔法使いたちが儀式を行うために使ったもので、今でも強力な魔力が宿っています。
もし興味があれば、後で見てみましょう。
そして、こっちの部屋には、古代の魔道具が展示されています。
これらはかつて、強力な魔法を発動するために使われたものですが、今ではそのほとんどが失われています。
皆さん、どうぞご自由に見て回ってください。
何か質問があれば、何でも聞いてくださいね!」
グリモの説明は長かった。
ユキ達は少しうんざりしながらも、彼の案内に従って図書館を探索し続けた。
エレンは最奥の部屋で古代の文献を見つけ、それを解析し始める。
すると、グリモがひょっこりと現れた。
「アザモールのことを調べているのですか?私が説明をしましょう。」
グリモが言った。
「アザモールは非常に強力で狡猾な悪魔です。
彼は長い間、暗黒の力を集め、様々な邪悪な計画を企ててきました。
アザモールは多くの手下を持ち、その一部はこの図書館を監視するために送り込まれているのです。
彼の目的は、古代の知識を独占し、それを利用して世界を支配することです。
ですから、彼の計画を阻止するためには、彼の弱点を見つけ出すことが非常に重要です。
この文献には、彼の弱点についての情報が記されています。
エレンさん、あなたの解析能力ならば、この文献の中に隠された秘密を見つけることができるでしょう。」
エレンはグリモの長話にうんざりしながらも、どうにかして彼をどこかに行かせる方法を考えていた。
「ええ、そうですね。
ありがとうございます、グリモさん。
ところで、図書館の他の部屋にも何か興味深いものがありますか?私たちに案内してくれると助かります。」
グリモは嬉しそうに目を輝かせた。
「もちろんです!他の部屋にもたくさんの興味深いものがありますよ!こちらへどうぞ!」
突然、悪魔の一団が建物を襲撃してきた。
「あの方のことを調べるな!」
と叫びながら襲い掛かるが、ユキたちはすぐに応戦した。
魔法の光と剣戟の音が響き渡る中、ユキたちはそれぞれの力を駆使して戦った。
リリスは火の魔法で悪魔たちを攻撃し、燃え上がる炎が本棚を照らし出した。
クリスは剣を振るい、正確な一撃で敵を斬り倒していく。
ロンは風と水の魔法で敵を翻弄し、エレンは空間を操って仲間たちを守った。
シリカは素早い動きで悪魔たちの攻撃をかわし、強力な体術で反撃した。
悪魔の一団も手強く、本棚が倒れ、書物が床に散らばる。
床がひび割れ、古びた家具が粉々に砕ける。
だが、ユキたちは一歩も引かず、戦い続けた。
ユキは光の魔法を発動し、強力な光線で悪魔たちを次々と消滅させた。
最終的に、悪魔の一団はユキたちの圧倒的な力の前に敗北し、撤退を余儀なくされた。
ユキが「あの方のことを詳しく教えてもらおうか」と言うと、悪魔たちは怯えた。
そこに、さっきまで隠れていたグリモが現れ、魔法で悪魔たちを消滅させた。
「すごいな、グリモ。あの悪魔たちは強いのか?それとも、君が強いのか?」
ユキが尋ねた。
グリモは少し照れくさそうに笑いながら答えた。
「ああ、そんな風に思っていただけるとは嬉しいです。
実は、あの悪魔たちはそれほど強くありません。
もちろん、普通の人間にとっては脅威ですが、私のような存在にとってはそれほど手強い相手ではありません。
というのも、私はかつてアザモールに仕えていた眷属でした。
長い間、彼の元で多くの魔法を学び、彼の命令に従ってきました。
しかし、私があまりにもミスばかりするため、ついに彼に見限られてこの地に飛ばされました。
だからこそ、彼のことを恐れることも、尊敬することもなく、ただ恨みを抱いているだけです。
ここで過ごす長い年月の間に、自分の力を磨き上げてきました。
それが今、皆さんに少しでも役立てることができて本当に嬉しいです。
ですから、あの悪魔たちを倒すことは私にとってそれほど難しいことではありませんでした。
でも、それは私が強いからではなく、彼らが私よりも弱かったからです。」
ユキは感心したように頷いた。
「なるほど、だからあんなに簡単に倒せたのか。ありがとう、グリモ。」
グリモは嬉しそうに笑った。「どういたしまして!私ができることなら何でもお手伝いしますので、何かあればいつでも言ってください。」
グリモはさらに話を続けた。
「ところで、アザモールのことをもっと知りたければ、最南端に住んでいるベリシア・ロザリンド・シャドウフェザーという方を訪ねるのが良いでしょう。
彼女はアザモールの過去と弱点について詳しく知っています。」
エレンはグリモの話を聞きながらも、何とかして彼をどこかに行かせる方法を考えていた。
はっきりと言って面倒くさいのである。
「そうですか、ベリシアですね。
それは非常に重要な情報です。
ありがとうございます、グリモさん。
でも、他の部屋にも何か面白いものがあるかもしれません。
案内してもらえますか?」
グリモは再び嬉しそうに目を輝かせた。
「もちろんです!他の部屋にもたくさんの興味深いものがありますよ!こちらへどうぞ!」
「やっぱり、いいです!」
と言い残してエレンは逃げてしまった。
一行はグリモの助言に従い、ベリシアの情報を得るために最南端を目指すことにした。グリモは一行に再度感謝し、また戻ってくることを約束した。
「アザモールの情報が手に入った!次はベリシアを訪ねよう。」ユキが言い、一行は次なる目的地へと向かった。