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焙煎するのは機械か人か

先日、信州にある本坊酒造株式会社の工場見学に行きました。
お酒のお好きな方には「マルス信州蒸溜所」といった方がピンとくるかもしれません。

素晴らしいところでした。
そして、とても印象的なことがありました。

ウィスキー作りの工程のなかで、ミドルカットと呼ばれる作業があります。

原料の麦芽と仕込み水を合わてモルト麦汁を作りますが、その時、おおむね3つの層に分かれています。

ウイスキーの原料として使うのは、ミドルと呼ばれるところ。
ヘッドと呼ばれるアルコール度数が高くて軽いところと、テールと呼ばれる度数が低くて重いところは除かれます。

その重要なポイントを判断するのは、機械ではなく、人、なのです。

マルスの工場は近代的でオートメーション化され、各種センサーがバッチリと目を光らせており、わずかな誤差でもすぐさまに検知されます。

そんなシステムにもかかわらず、肝心な工程はセンサーではなく人の感覚によるものでした。
ものすごく、責任重大です。

どんなに近代化されようとも、これから先もミドルカットの決定権は蒸留責任者(スチルマンを呼ばれます)が持っていることでしょう。

蒸留したものを木の樽に詰めて長い時間寝かし(その間蒸発もする)やっと商品になる。
とてもそろばんをはじいてできる仕事ではありません。

今仕込んでいるものが現金化されるのがずーっと先の話で、販売している在庫がなくなれば追加ができない。 
こんな事業は他ではちょっと考えられません。

私たちがウイスキーにロマンを感じるのは、このように、人の手による領域が大きく関わっており、それが長い年月をかけて魅力的なものに変わっていく、というところかもしれません。

マウンテンは、焙煎も同じことと考えています。

私たちは、五感で焙煎することを良しとしていますので、焼き上がりまでマシンの横に付きっ切りです。

何回もスプーンで確認したり匂いを確認したり、ダンパーやガスコックを動かしたりで、ずっと立ちっぱなしのままです。

もっと簡素化すれば体もラクなのですが、まったくそうする気は有りません。
さらに、もっと複雑な工程のほうが、いいものができるのではないかとさえ、考えているくらいです。

長く焙煎に携わっていると、温度計の数値やソフトでは出来ない要素がたくさんあることがわかります。

原料であるコーヒー生豆は絶えず変化します。(農作物なのであたりまえなんです)
季節もいつも変化します。
機械の状態も同じではありません。(定期的な掃除は必須。掃除前と掃除直後は別物くらい変わる)

これらの変化は、いつも作り手として製造に接しているからこそわかることです。
だからこそ、いつもと違うことに対応できるのです。

ウイスキーもコーヒーもいっしょだと考えます。

コーヒーの焙煎も、人が関わる事が重要だということを、もっと認識されるとうれしいです。

そうすると、今、ジャパニーズウイスキーが世界で認められているように、日本のコーヒーが世界に羽ばたけるのではないでしょうか。