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なりたかったもの

絵が描きたかった
でも私の描く絵は私の描きたいものではなくて
描いても描いても 描きたいものに辿りつけず
絵を鑑賞する人になった。

歌が歌いたかった
でも私の歌は真似事でしかなく
私の歌いたい歌は音楽にならなかった
私は歌を聴く人になった。

楽器を奏でたかった
でも奏でる音は稚拙で願った音にならず
奏でたい音楽は奏でた瞬間に消え去り違うものになり
私は楽器をも聴くほうになった。

写真で世界を切り取りたかった
でも切り取る世界は一瞬で その時の美しさは指の間からこぼれ落ち
胸を打つ光はいつの間にか画面から消えていった
私は撮っては忘れる人になった。

香りを愛でる世界をつくりたかった
光に陶酔する時間をつくりたかった
うっとりする手触りに記憶を辿りたかった
胸を締め付けるような柔らかく温かなものを抱きしめたかった

この一瞬のきらめきを 胸を打つ香りを 
そこにしかない思いやすれ違う人々を
留めることが出来ずに私達は歩いて行く
留めたいけれど 消えゆく美しさすら愛おしく
留めたいものが多すぎて呼吸(いき)をひそめ

そして何もしないままに
世界の美しさをただ見つめるだけのひとになった

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その贅沢さをその幸せを
噛みしめるでもなく味わうでもなく
ただ見送る そういう幸せを享受できるひとになった

なにものかになりたかった私は
なにものでもなく 豊かさを美しさをただ受け取る
だれよりも 幸せで恵まれた人間となれた

ありがとう 今の私こそ
長い長い間私の魂がなりたかった私なのだろう

サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。