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おなかの中が勝手に喋っている話

前にも書いたけれど「大腸憩室」というものをもっている。これ自体は病気ではなく老化現象のひとつとされている。問題は1〜3割のひとが憩室炎や出血を伴うこと、そして私はその3割のうちに入っている。まぁ普段は別に何にも感じないので忘れてしまうのだ。時々、本当に時々不調になり「あ、また炎症起こしてる」と気付く頃には発熱してベッドに倒れ込んでいる。

まぁ、内視鏡で内側からみたり、実際手術で触ったり見たりしてきたし、炎症を起こしたときの「腸の見た目」というのもわかるからだろうか。熱でうとうとしながら自分のおなかの中の様子を考え想像したりする。頭の中ではうるさいくらい私の大腸・小腸・腸間膜・腎臓なんかが人格をもったかのようにあーだこーだ議論している。

憩室内で、どういうわけか「細菌が増殖」して炎症という状態になる。普段のように流れ動いていれば問題はないのに、澱んだときにこういうことが起きるらしい。そのときはまだ、憩室周りの局所的な炎症だけ。

大腸「おっと、なんか腫れてる?痛まない程度にゆっくり動かそうか」
憩室「すいませんね、まだなんとかなる段階なんで、ええ、ゆっくり行っていただけると助かります」

でも炎症が強くなりその部分の腸壁が浮腫み始めると、腸蠕動(中のものを押し出す動き)で私が、そしてそこの腸自体が「痛み」を感じ始めるのだ。
ここですごいのは、イタイ、という感覚が周囲にあっという間に伝わることだ。

「痛いんだって」「どこだよ」「わかんないけど、どっか俺らの仲間内」
「痛いそうだよ」「ちょっと、急ブレーキかけとけよ」
「動いてちゃダメじゃん」「イタイって感覚ばっかり来るじゃん!」
「痛い痛い言うなよ、こっちの動きもぐちゃぐちゃになるだろうよ」
「と、とりあえず安静にさせておこうよ」
「んじゃ、全員動き止め!ストーーーップ!」

お腹全体が痛くてうずくまるくらいの時だ。お腹の中から大腸壁同志のそんな話が聞こえてきそうだ。面白いのはこの時の会話?は大腸同志であって、小腸はあんまりそこに参加しない。

「え、そうなの?まぁヤバそうなら言ってよ、とりあえずこっちは問題ないから動いてるよ」「ていうかさぁ、あんまりイタイ信号出さないでよ。小腸のなかにもびくつく奴らいるんだから・・・逆流しちまうよ?」

さすがは6m以上あるといわれる小腸。自分たちのキャパシティはそうそう越えることはないと知っている感ありありな余裕を見せている。

大腸も騙し騙し動き続けるが、どこかの時点で「え、ダメだよ、安静第一」「でもさ、ここで動かなかったら酷くなる一方じゃん」という喧嘩が始まる。大腸仲間同士のケンカは、イタイから動くな、となっていたはずの「暗黙の了解」を無視して取っ組み合いとなり、かなり厳しい痛みが私を襲う。

私「い、いたったったったたったた・・・・」
大腸「え、ちょっとヤバいよ、ご主人苦しんでるよ」
小腸「うわぁ止めてよ、大腸同士でそんなに痛みを作ったらこっちまで影響するんだから!!いててててて・・・・」

この時点で強い痛みが起きると小腸までが暴れだし、酷いと胃まで逆流現象を起こしそうになる。いわゆる「むかつき」「吐き気」だ。

そして私自身が「あ、これ憩室炎起こしてるかも」と気付くのはこの時点だったりするのだ。吐き気がきて初めて自分のおなかの中の不調に気付くって、どんだけ鈍感なの、って思うけれど。でもほら、ふつうに便秘だって痛いでしょう???

(そういえば最近気付いた、私はほとんど便秘にならないが、便秘かな、と思うときはよく考えると腸全体が動きが悪い。炎症が酷くなっていないだけで、実はあれは憩室炎を起こしかけているときなのかもしれない)

憩室炎は診断がつけば抗生剤で炎症を抑えることも出来るけれど、基本的には腸を休ませることで自然に良くなる。まぁ、大体数日は寝込むことになるんだけれど。

腸全体が痛みで麻痺したようになってしまうとどうせ食欲は起きないからモノは食べないでも平気。むしろそのほうが体は楽になる。
でもものすごく喉が渇く。そりゃそうだ、炎症が起きる部位っていうのはものすごく「浮腫む」から。腸全体が動きを止めるくらいのときって、炎症起こしている憩室周りだけじゃなく、大腸のかなりの部分で浮腫(むくみ)がひどくなっている。浮腫をおこすサイトカインが体内でめっちゃくちゃ出ているからなんだけれど、おかげで血管内は脱水気味。
腎臓が悲鳴をあげるのだ。

腎臓「水、水くれぇ〜!おい、小腸、お前ら動けるんだろ?水とれよ!」
小腸「そんなコト言ったって、一部は浮腫が出てるし、大体俺らのとなりに大腸がいるんだから、俺ら動いたらまたイタイ刺激でどうしようもなくなるだろうよ」
腎臓「お前らがイタイっていってもなぁ、こちとらご主人の命に直結するんだよ、いいから水の吸収くらいしろよ!」
小腸「あのさ、水の吸収は大腸の仕事で・・・・」
腎臓「んなことつべこべ言ってねぇで!大体その大腸がうごかねーんだろーよ、コレ幸いとさぼってんじゃねぇよ!」

くらいの喧嘩がきこえてくる。私はといえば、喧嘩は任せることにしてとにかく水だけ飲む。飲む。塩分も加えた方がいいけど熱で起きていられないからとにかく水を。

もうこの辺で私は真夏の暑さのなかで毛布を被ってガチガチ震えている。でも喉が渇くから時々水を飲む。泥のように眠る。熱で汗だくになって目覚める。でもシャワーを浴びる気にもならないからまた水を飲む。その繰り返し。この間、頭の中でずっと「おなかの中の喧嘩」が聞こえている。

浅い眠りで一日半ほど眠ったあとで、ふと目が覚める。お腹の中の喧嘩が大分収まっている。水を飲むためにキッチンまで立つ。おお、動くのも出来るじゃないか。水が美味しいぞ。
食欲はないけどお腹の酷い痛みはない。今だ、ヤクルトとヨーグルトで善玉菌をいれるんだ。
こうやって二日半ほどかけて、お腹の痛みから解放され、少しずつだが便意が戻って、浮腫みまくっている大腸がほんのちょっと通常運転にむけて試運転を始めるのがわかる。

そして今ここ。水分をとるのは全く問題ない。まだ尿意は少ないし、出てもえらく濃縮尿だから全然水が足りてないことはわかる。体重もいつもよりむしろ増えてる。多分あとまる1日もすれば炎症で大量に出まくったサイトカインがおちついて、サードスペース(と呼ばれる、通常そこに水分が貯まらないところに水が貯まる)の水が引いてきて、そうなったら体重も戻るし体全体が通常運転に戻る。お腹の痛みも部分的になってきて、「ああ、ここが悪さをしてたか」とわかるようになってきたし、この痛みもあと2日あれば引いていくだろう。

おなかの中のお喋りは、自分が熱なんかで弱って寝込んでいるときだけしか聞こえない。多分「そんなお喋り聞こえないよ」っていう方は健康で、それこそ体が上手く動いているときなんだ。
まぁこんなおなかの中がうるさいくらいに喋ってるなんて思う事自体、トシをとったってことなんだろうな。


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