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2019年 思わずのけぞった極私的アイドルソングBEST5+1

いまどき、アイドルにとって歌はオマケだなんて考えるひとはさすがにいないと思いますが、いまアイドルの歌がとんでもないことになっているのを知らないというひとなら、あるいは少なからずいるかもしれません。何を隠そう、数年前までの僕がそうでした。

では、なぜ? いまアイドルソングが「とんでもないこと」になっているのか。その要因を探るとき、次のようなふたつの事実に思い当たります。

1.アイドルソングは、いまや新しいサウンドの実験場となっているから。
2.アイドルソングは、いまや新しい音楽的才能の登竜門となっているから。

まず、最初に挙げた「新しいサウンドの実験場」としてのアイドルソングという点について、わかりやすい例としてこの曲を聴いてみましょう。

nuance(ヌュアンス)/ハーバームーン

イントロから思わず身を乗り出してしまうカッコよさではないですか? まさにここにあるのは、ネオソウル以降のジャズ×Hip Hop×エレクトロが融合した最新型サウンドへのアイドルからの回答と言えるでしょう。

その一方で、サビでは一転「歌謡曲」的なケレンが、思いがけない位相のねじれを生み出して効果的です。そしてまさに、その「位相のねじれ」こそがアイドルソングを聴く最大の面白さであり魅力ではないかと僕は考えます。

もちろん、いわゆる「沸き曲」の多くがそうであるように、アイドルにしか表現しえない世界をアイドルが歌うことでその存在価値をアピールするというのが本来の姿なのかもしれませんが、異種格闘技のような出会い頭の事故が思いがけず新たな音楽的な可能性を引っ張り出すこともある。そして、こうした振り幅の大きさが昨今のアイドルソングの隆盛につながっているのもまた事実なのです。

では、なぜ? とりわけアイドルソングの世界でこのような「実験」が行われるのか。理由はふたつあります。

1.アイドルソングとは、そもそも音楽のジャンルではないから。
2.アイドルソングとは、演者と制作者との完全分業制によって成立している世界だから。

わざわざ1.について説明する必要はないでしょう。それが音楽のジャンルを意味していないということは、逆に言えば音楽的には「なんでもあり」ということです。着物を身につけたひとが、扇子と手ぬぐいを持って座布団で何かを話せばそれが落語と呼ばれるように、きらびやかな衣裳を身にまとった可愛い女の子たちが歌って踊れば、少なくともその音楽性がなんであろうとアイドルと呼ばれるのです。音楽的な冒険の、それがひとつの隠れ蓑になっているというわけです。

また、日本のアイドル黎明期である1970年代、80年代からずっと、アイドルソングはフォーク、ディスコ、ニューミュージックなどその時代時代の音楽的トレンドをいち早く取り入れることで結果的に未知のサウンドに対するリスナーの耳を強引にこじ開けてきたという歴史があります。

これは、山下達郎に代表される日本の80年代のシティポップが、いまFuture FunkVaporwaveといった名の下、世界的に評価されている現象(たとえば、竹内まりやのPlastic Love現象のような)についてわかりやすい解説をほどこした動画なのですが、エポックメイキングな出来事として、それまでシティポップ(当時の日本では「ニューミュージック」と呼ばれていましたが)の世界で活躍していた職人的音楽家たちがアイドルソングの世界に参入するようになったことが指摘されています。

音楽とキャラクターが一体であることが求められるバンドとちがい、「アイドル」というキャラクターが前面に立つアイドルソングの世界だからこそ、作曲者はあくまでも裏方として職人的立場で大胆な遊びや果敢な挑戦ができるのです。こうした独特の制作スタイルから、

テクノポップ×アイドル=パフューム
ヘヴィメタル×アイドル=ベビーメタル

といった人気者が誕生したのはいうまでもありません。そしてまた、この両者にも共通することですが、

音楽的にはゴリゴリながら歌はその音楽スタイルに無理やり寄せない

ということがアイドルソングの世界では重要です。なぜなら、本格的なサウンドに、上手にそれらしく合わせてしまうと、それは時に誰かしらの拙い模倣に陥ってしまうリスクがあるのに対し、アイドルならではの溌剌とした活気やキラキラした輝き、儚さや切なさが加味されるとき、そこには思わぬ効果が生じ「位相のねじれ」が起こるからです。

それでは、ここまで書いてきたことを踏まえ、僕が2019年に出会ったアイドルソングの中から「位相のねじれ」という視点で思わずのけぞった極私的名曲をランキング形式で5曲紹介させていただきます。

なお、あらかじめ断っておきますと、僕はけっしてアイドルソングに精通した人間ではなく、ライブ現場も「フィロソフィーのダンス」専門ゆえ、ここに挙げた5曲もたまたまサブスクや知人の紹介を通して知った限られた楽曲のなかからセレクトしたに過ぎません。もし、あの曲が落ちてるぞーというのがありましたら教えていただけますと幸いです。

それでは、さっそく第5位から始めていきましょう。

第5位:でんぱ組inc./形而上学的、魔法

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2019年 思わずのけぞった極私的アイドルソングBEST5+1

岩間 洋介(Moi)

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2002年より2019年まで北欧フィンランドをコンセプトとするカフェ「moi」を経営していました。渋谷のBunkamura→荻窪、吉祥寺でのカフェ経営を経て、日本とフィンランドとをつなぎつつ自由な発想による〝居場所づくり〟を構想中。http://www.moicafe.com
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