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“夏眠”のすすめ

魚が陸での生活を想像できないのと同様、もう久しく北欧やフィンランドのことを考えられずにいる。

9月も下旬だというのにあまりにも暑すぎるのだ。

北欧といわれても、いまとなってはいつか聞いたおとぎ話、どこかにあるユートピアくらい現実感が薄い。



そんな今年の夏、東京の「真夏日」はすでに88日を数えるという。ほぼ3カ月「真夏日」というわけだ。

あらためてこの夏をふりかえって思うのは、《なにもしなかった》ということである。

夏休みもなかったし、仕事だけはしていたので十分すぎるくらい《労働》はしたが、いわゆる夏らしいこと、思い出になるような出来事はほとんどなかったと言っていい。

正直なところ、連日の暑さで身も心も削られてしまい無理を押してまで行きたいところも、買いたいものや食べたいものもないということが分かってしまった。ある意味、社会的に死んでいた。

もちろん、こんな“冬眠”ならぬ“夏眠”が可能なのは、仕事のついでに図書館で本を借り、映画館に行くかわりにプライムビデオで映画を、レコードを買いに行くかわりにアップルミュージックで音楽を観たり聴いたりできる時代だからこそだろう。



こうなったら、これからはより積極的に冬眠ならぬ《夏眠》を導入するというのもありかもしれない。

まずは梅雨明けまでにやりたいことを詳細にリストアップし、家でできるよう準備万端ととのえるのだ。夏眠中は極力どこにも行かないし、急用以外だれとも会わない。

どんぐりや栃の実のように、備蓄しておいた非常食を《夏眠》のあいだに消費するというのもいいだろう。

また、語学とか楽器の演奏、あるいはマッチ棒で姫路城を作るとか、二、三カ月集中して取り組めることを毎夏ひとつみつけて挑戦してみるのも悪くない。きっと退屈はしないはずだ。

そしてごくまれに真夏の日照りに出てみれば、そこでは思いがけない発見や出会いが待ち受けているかもしれない。ムーミン谷の冬みたいに。

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