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エレクトロニカは何を夢みたのか?①/イントロダクション及びエレクトロニカ概況

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エレクトロニカとは何だったのか?
未来の音を夢みたこのジャンルは定義が曖昧で掴みどころがなく、最盛期の頃もかなり混沌としていた。
90年代末から2000年代前半をピークにインディペンデントシーンを席巻したこのジャンルは、現在でも使用されるジャンル名ではあるものの、当時から定義が曖昧で世代や音楽体験によってイメージするサウンドは異なる。特に海外で認知されているエレクトロニカというジャンル名が示している範囲は、エレクトロニックミュージック全般を示している事も少なくない。いわゆるエレクトロニカの特徴であるグリッチサウンド指すとき多くはIDMと括られるが、これもオーセンティックなエレクトロニカの括りよりも指し示す範囲の幅がいくらか広い。このようにエレクトロニカとして紹介される音楽の多くは、2000年前後のシーンで起こっていた事とは少しかけ離れてしまっている。そもそもIDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)という名称自体も「頭の中で踊ってる」と揶揄する意味もあり、どちらかといえばネガティヴなニュアンスを含んでいた。
ネットで見かける記事やSNSを眺めていると、エレクトロと勘違いしているものもあれば、EDM以降のシンセウェーヴ辺りまでエレクトロニカとして紹介されているのを見かける。これらとかつてのエレクトロニカの音に対する姿勢や構造が全く異なるので、一緒くたにするべきではないのでは?と常々考えてきた。
1990年代後半から2004年までにリリースされたアルバムやレーベルを軸に振り返り、エレクトロニカからフォークトロニカまで、どのような音楽が奏でられていたのかを辿ることで炙り出していきたい。

エレクトロニカ(という呼称)の始まり

エレクトロニカという名称は1992年にワープレーベルからリリースされたコンピレーション「Artificial Intelligence」に対して使われたのが始まりと言われている。このアルバムで紹介されている曲はテクノの範疇に収まるサウンドで、2000年前後のエレクトロニカとは曲調は異なる。

それ以前の80年代に登場したシカゴのハウス、そこから派生したデトロイトのテクノが90年代に入ると、欧米や日本を中心に世界的な流行を迎えアンダーグラウンドカルチャーの中で発展していった。テクノ/ハウスが持ち合わせていたミニマルミュージックの要素は、音の無駄を省き徐々に先鋭化されていく。
所謂ポップ・ミュージックのようなドラマ性を排除し、ひたすら繰り返えされるフレーズとドラムの音色に変化をつけ、レコードからレコードへと繋がれて踊ることに特化していったテクノやハウス(ガラージュハウスのような歌物はまた少し異なるものの)は、エイフェックス・ツインやオウテカのように作家性を打ち出す人々も現れることで、曲単位の12インチカルチャーからアルバム単位での表現にシフトしていく。エレクトロニカはそのクラブカルチャーの延長線上にあり、ドラマ性はさらに排除され、和音や音階の配列よりも音響的な響き、音色のテクスチャーの表現が中心となっている。
まずはエレクトロニカの特徴となるものをいくつか挙げていきたい。

①テクノ/ハウス、現代音楽、ヒップホップ、ノイズ、ダブ、アンビエントなどの異なるジャンルが交差した結節点

エレクトロニカというジャンルはテクノ/ハウスから発展しつつも、ノイズやミニマルなどの現代音楽、ダブ、アンビエント、ヒップホップ、ポストロックなどが合流し交差した瞬間だった。騒がしさも静けさも表現したノイズの新たなスタイルでもあり、カールハインツ・シュトックハウゼンやスティーヴ・ライヒなどのミュージックコンクレート・ミニマル/現代音楽の側面も持ち合わせている。ディレイ(エコー)や超低音などダブの影響もあり、アンビエントの静けさも内包している。あらゆるクラブカルチャーのサウンドが、ノイズの表現の中で一同に会した瞬間であった。戦前から始まった電子音楽が色々な国や場所で花開き、一つのジャンルへと集結したムーブメントでもあった。ストリートカルチャーでもあり、ハイカルチャーでもある。
エレクトロニカ最盛期にはグリッチやクリックなどの音色は、TR-808のようなドラムマシーンの音色が一気に古く感じる新しさがあった。それまでのテクノ/ハウスとエレクトロニカの線引きはこの辺りにある。今ではTR-808などのハードウェアがリバイバルしたこともあり、この辺りのニュアンスは中々伝わりにくいかもしれない。

②ソフトウェアやPCの低価格化による表現の変化

それまでのTR-808やシンセサイザーなどのハードウェアは、90年代後半のマッキントッシュパワーブックやソフトウェアの低価格化が進んだことでそれらと取って代わり、表現の幅を押し広げていった。ソフトウェアで音の編集やノイズを生成したりと、ハードウェアの制約では出来なかった表現が可能になっていった。DAW(デスクトップオーディオワークステーション※PC上でレコーディングするためのソフト)の普及がDTM(デスクトップミュージック)の爆発的なブームを作ったことで、エレクトロニカのムーブメントが世界的に広がっていった一つの要因となっていった。

異なるジャンルだった電子音楽が一つに集まった事と、PC周辺が低価格化したことがエレクトロニカのベースになっていた。今ではコンパクトエフェクターでエレクトロニカのようなグリッチサウンドを作ることができたり、PCでリアルタイムにループや編集が可能になっている。しかし当時はPCの性能が低く、リアルタイムで編集することは困難で、一歩間違うとMacのOS9でソフトがクラッシュしフリーズする。2000年前後はそんな時代である。

グリッチサウンドとは?

エレクトロニカを特徴付けるサウンドとしてグリッチサウンドがある。音の作り方は様々で、オヴァルのようにCDの読み込み面にマジックで線を引き意図的にスキップ音を作り出してサンプリングするものもあれば、ソフトウェアからノイズを生成する場合もある。代表的なもので言えばグラニュラーシンセシスで、サンプリングした音を粒状(グラニュラー)に切り刻む事でグリッチサウンドを作り出すことができる。

エレクトロニカで見落とされがちなのがサンプリングで、いわゆるシンセサイザーの使用は控えめで(中にはメインに使用している人もいる)、サンプリングしたサウンドファイルを加工してノイズを生成しているのが音作りの肝となっている。

3大ソフトウェア

Max/MSP-Cycling '74

Reaktor-Native Instulments

Super Collider

エレクトロニカで主に使用されていたソフトはMax/MSP(現在はMax)とリアクター、そしてスーパーコライダーの3つ。パッチで組み上げるMaxとリアクターに対して、スーパーコライダーは言語で組み上げていく。ジムオルークも語っているように、感覚的に使えるMaxとリアクターに比べてスーパーコライダーは言語入力になるためかなり敷居が高い(フリーソフトなので一番手に入れやすいのだけれど...)。基本的にこの3つのどれかを使用し、グラニュラーシンセシスなどのエフェクターを組み上げて音作りを行なっている。他にもDAWで使えるプラグイン(エフェクター)でグラニュラーシンセシスがあったり、サウンドファイルをアップロードするとグリッチサウンドが生成されるものが数多くあったものの、現在ではその大半は OSの関係上使用できなくなってしまっている。

次の回ではグリッチサウンドを中心に、エレクトロニカの主要なミュージシャンを紹介していこうと思う。

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