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エレクトロニカは何を夢みたのか?③/マイクロサウンド、ダブ、クリック

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ジャンルが確立されて行くと次に進むのが細分化で、2000年にリリースされたコンピレーション「クリックス+カッツ」はその細分化の見本市ような一枚となっていた。大雑把に分けるとグリッチ/マイクロサウンド/ダブの3つに分類出来る。
グリッチのひとつのジャンルと言えるマイクロサウンドは、整理され限られた音を使い抑制的で繊細なミニマルな音世界が特徴となっている。ある種建築美に近い構築された世界観は一聴すると地味に感じるかもしれないし、誰でもできるのではないかと感じられるかもしれない。しかし無駄なものは一切足さない禁欲的な表現を貫くのは中々難しい(こんなもの誰でもできるという意見をよく見かけるが簡単には出来ないと思う)。そしてその中心人物が現在も変わらず活動を続けるアルヴァ・ノトことカールステン・ニコライと池田亮司。
ダブはミル・プラトーの姉妹レーベルにダブ専門のベーシックチャンネル/チェイン・リアクションがあるように、2000年当時のドイツのクラブシーンはダブの影響が強かった。エレクトロニカのミュージシャンの中にもダブの影響はあり、スケイプのようなレーベルはダブ色の強いエレクトロニカのアルバムをリリースしていた。モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオに参加していたウラディスラヴ・ディレイのように、エレクトロニカというよりもダブで括った方が良いのではと思われるミュージシャンもいる。
ピタやミカ・ヴァイニオのようにオヴァルやオウテカが開拓していったグリッチでは括りきれないノイズのスタイルをもつ人々もいた。
今回はレーベルごとの特色を交えて紹介していきたい。エレクトロニカ/フォークトロニカの主要レーベルの全体的な総括は、この後の一番最後の回に別途まとめる。

ミル・プラトー Mille Plateaux

V.A/Clicks_+_Cuts 2000年

2000年にドイツのミル・プラトーからリリースされたエレクトロニカの時代を象徴するコンピレーションで、エレクトロニカを知るには避けて通れない一枚。グリッチ/マイクロサウンドのミュージシャンが総結集したアルバムで、マイクロサウンドという点ではアルヴァ・ノトやパンソニック(パナソニック)、ダブ色の強いポールやウラディスラヴ・ディレイなどレーベルの垣根を超えて収録されている。
この辺りからクリックテクノ/ハウスに派生し、後のリカルド・ヴィラロボスらに流れていくが、エレクトロニカから離れてしまうため割愛。

SND/stdio 2000年

Frank Bretschneider/Curve 2001年

Alva Noto/Transform 2001年

Dan Abrams/Stream 2001年

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Vladislav Delay/Anima 2001年

ラスター・ノートン Raster Noton

Noto(Carsten Nicolai)/Empty Garden 1999年

Alva Noto/Prototypes 2000年

Alva Noto + Opiate/Opto File 2001年

Alva Noto & Ryuichi Sakamoto/Vrioon 2002年

Ryoji Ikeda/+/- 1996年

Ryoji Ikeda/0ºC 1998年

Ryoji Ikeda/Matrix  2001年

Ryoji Ikeda/OP 2002年

Ryoji Ikeda/Dataplex 2005年

Taylor Deupree/Polr 2000年

Cyclo/Cyclo 2001年

Nibo/Con.Duct.SPC.TRM 2002年

Senking/Forge 2002年

マイクロサウンドの総本山ドイツのラスター・ノートン。カールステン・ニコライによるユニットであるアルヴァ・ノトは、最近では映画「レヴェナント」のサウンドトラックにも参加していた。カールステン・ニコライは元々ファインアート出身で、音楽のフィールドよりも現代美術に近く、2002年にはワタリウム美術館で個展が行われていた。ミニマルでそぎ落とされた音表現を機械的に繰り返し、感情やドラマ性を一切排除した構築美が築き上げられている。
池田亮司の初期作品はイギリスのタッチレーベルからリリースされていたので、ここに含めるべきではないのかもしれないが、その後ラスター・ノートンからリリースされていた事と、カールステン・ニコライの表現に近い事もありここに収めた。
90年代中盤から早い段階でマイクロサウンドを手がけていた事や、ダムタイプのサウンド面を担っていた事もあり、オリジネイターの一人でもある。池田亮司も現代美術に近い位置にいる人で、2009年に東京都現代美術館で個展が開かれていた。同所にて2019年にはダムタイプ展にも作品が展示されていた。パルス音とホワイトノイズによるサウンドはカールステン・ニコライと双璧をなす存在。

12k

Taylor Deupree & Richard Chartier/Spec. 1999年

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Taylor Deupree/Occur 2001年

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Shuttle358(Dan Abrams)/Frame 2000年

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Sogar/Basal 2001年

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ニューヨークに拠点を置き、現在はポストクラシカルのアルバムもリリースしている12k。レーベルオーナーのテイラー・デュプリーやダン・エイブラムスの初期作などはマイクロサウンド的アプローチのアルバムをリリースしていた。

スケイプ ~Scape

Kit Clayton Nek Sanalet 1999年

Jan Jelinek/Loop Finding Jazz Records 2001年

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Pole/R 2001年

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Deadbeat/Wild Life Documentaries 2002年

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ドイツのスケイプはダブ色の強いエレクトロニカのミュージシャンを排出していて、クリック+カッツにも収録されていたポールもそのひとり。クリックス+カッツにはウラディスラヴ・ディレイやパンソニックのようなダブの影響下にあるものも少なくない。スケイプからリリースされたキット・クレイトンのアルバムもダブ色が強く、デッドビートも同様。
ヤン・イエリネックは基本的にはハウス寄りの人で、グリッチかつクリックハウスの「ループ・ファインディング・ジャズ・レコーズ」はエレクトロニカのアルバムの中でも現在も人気が高い。このアルバムは数年前に別のレーベルからリイシューされていた。このアルバムは古いジャズを原型が分からなくなるほど刻んだサンプリングで構築されている。別名義のグラム(Gramm)はよりストレートなグリッチを使ったクリックハウスとなっている。

メゴ Mego

Fennesz/Hotel Paral​.​lel 1997年

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Pita/Get Out 1999年

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Fenn O'Berg(Fennesz, O'Rourke, Rehberg)/The Magic Sound Of Fenn O'Berg 1999年

エレクトロニカというよりもエクスペリメンタルなノイズレーベルといった方がいいかもしれない。レーベルオーナーのピタのアルバムはどちらかといえばハーシュノイズに近いサウンドで、フェネスとピタ、ジム・オルークのラップトップトリオはジャケットで分かる通り、どこか人を喰ったようなサウンドが印象に残る。(フェネスについては次のフォークトロニカで紹介する)。

タッチ Touch

Mika Vainio/Onko 1997年

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Mika Vainio/Kajo 2000年

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パンソニックのメンバーで2017年に惜しくも亡くなってしまったミカ・ヴァイニオ。サイン波とノイズを使った彼の音楽はマイクロサウンドと言える音楽性ではあるが、ノイズの質が他とは少し異なる。音を聞く限りグリッチというよりもノイズの本質に重きを置いている印象がある。ドラマ性は一切ない。

Oren Ambarchi/Suspension 2000年

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ジム・オルークやフェネスとも共演していたオーレン・アンバーチ。この人もキャリア全体で見るとエレクトロニカよりもノイズ/エクスペリメンタルのフィールドに重きを置いている。その中でもこのアルバムはエレクトロニカに接近したアルバムと言える。
タッチレーベルはこの頃、フェネスや池田亮司、それ以外にもヨハン・ヨハンソンやラファエル・トラルなどもリリースしているが、ポストクラシカルなどの辺りはエレクトロニカから脱線するため割愛。

ここまでエレクトロニカの要となるグリッチ/マイクロサウンドをまとめてきた。2000年代前半に勃興したエレクトロニカの基本的なスタイルはある程度踏襲出来るはずだと思う。それ以外のミュージシャンについては「クリックス+カッツ」に収録されている人々や、各レーベルを追って行くとより深掘り出来ると思うので各々で掘り下げていって欲しい。
この後の回はこれまでのグリッチ/マイクロサウンドを踏まえた上でフォークトロニカとポストロックとポップ/ロックフィールドからエレクトロニカにアプローチしていた人々を動向の振り返りと、グリッチ/マイクロサウンドに収まりきらないものをこの後の⑦でまとめて行く。

次回はフォークトロニカと世界のエレクトロニカ事情を振り返っていきたい。

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