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世界で一番好きな(のかもしれない)音楽④/Lenny Kravitz Mama Said

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「お前の童貞は私が奪ってやる」
毎度思い出話になりつつあるのだけれど、あれは忘れもしない僕が14歳で中学2年の頃。両親が営む居酒屋の常連で、歳が丁度倍離れた女性がいた。今思えば28歳なんてまだまだ若いのだけれど、毛の生え始めた中学生にとっては遥か彼方の存在に見えた。
会うたびに「あんたの童貞は私が奪ってやる」などというので、その頃すけべ心は芽生えていたもののセックスがなんなのかイマイチ分かっていない中学生の股間はそんな台詞に常に縮み上がっていた。セックス出来るかも…なんて淡い期待なんかよりも、毎度そういう事を言われてなんとも返答に困っていたし、彼女はそんな子供心をからかっていたんだと思う。今思えば良いおもちゃ…というと言い方は悪いけれど笑ってしまうほどヒドイ話だ。いたいけな中学生、それも中2に。
その頃僕は、父の影響でビートルズや60’s、70’sのロックを聴き始めたのをきっかけに、日本のポップチャートから所謂洋楽(この言葉は好きじゃないのだけどそれについてはまた改めて)にシフトしていくことになるのだけれど、近年のロックを聴くきっかけがそのお姉さんだった。
お姉さんは以前バンドをやっていたらしく、僕がギターに興味があると話したらトーカイのストラトと、フェルナンデスのテレキャスの二本のギターと一緒にレニー・クラヴィッツの「ママセッド」と「自由への疾走」のCDを渡された。
レニー・クラヴィッツの音楽は中2でもとっつきやすく、その後楽譜を買ってコピーに勤しんだ。ギターはあってもアンプが無かったから、カシオのキーボードの入力端子に蒲田の楽器屋で買った安いオーバードライブを間に挟んでシールドを突っ込み、それっぽい音を出して悦に入っていた。しばらくするとカシオのキーボードのスピーカーが壊れ始めて、そんな様子を見かねたのかお姉さんは小さなヤマハのアンプもくれた。
今思い返すと不思議なくらいお姉さんと音楽の話しをした覚えがない。覚えているのは童貞を弄られた事と、居酒屋の常連客の間で渡り歩いていた飯島愛の裏ビデオをお姉さんが持っていた事を聞きつけて、夜中に借りに行った事くらい。玄関先でちょっと困った表情と、こいつも男なんだなといった顔は忘れられない。裏ビデオの感想はまんま稲中な感じだったので割愛。
その2年後、お姉さんは結婚を機に千葉へ引っ越ししてしまい、会う機会もなくなってしまった。5年に一度会いに来るくらいだったし、会うタイミングも合わなかった。
長いブランクの後、久しぶりに会ったのはそれから15年ほど経った頃。お姉さんの娘がライブを観たいと言って、ついて行った帰りに僕の両親の店に顔を出した時だった。会うなり開口一番「おまえ老けたなあ」と言い放ち、内心お前もな!とは思いながらも声には出さなかった。娘と行ったライブはハウリングしていたり音響が最悪だった事や、昔行ったエリック・クラプトンのライブは最高だったなどと、年長者らしい口ぶりがちょっと微笑ましかったのを覚えている。中学生の頃CDを返すときにお姉さんに貸したレニー・クラヴィッツの「サーカス」は未だに返ってこないままだけど、そんな事を言う暇もなかったし、その時はその存在も忘れてた。

正直レニー・クラヴィッツが好きなんていうのは、あまり声高に言えない気恥ずかしさはあるものの、この2枚のいくつかの曲は今でもたまに聴き返す。ホントにプリンスが好きなんだなって感じる。「What goes around comes around」なんてカーティス・メイフィールドとブラジル音楽っぽさと、スライ・ストーン的な雰囲気があったりして、今聴いてもカッコいいと思う。「My Precious Love」はスライ&ザ・ファミリーストーンの「Time」を感じさせつつソウルマナーな曲だし、「Heaven Help」なんてヴィンテージサウンドを纏ったプリンスみたいだなと。最初の3枚のアルバムに入ってるハードロックな曲以外の曲はやっぱり今聴いても良い。

「サーカス」以降のレニー・クラヴィッツは追ってないけど、バイト先でもらった道頓堀劇場のタダ券で観にいったストリップで流れていたスウィートなソウルナンバーが彼の曲の中で良いなと思った最後の曲かもしれない。一聴して誰だかわかる個性。未だにあれがなんの曲なのか分かってないのだけれど。

お姉さんと最後にあった日は記憶に無いのだけど、骨折したかなにかで入院していたので見舞いに行った覚えがある。後から母に聞かされたところ、当時お姉さんと寝た男がストーカー紛いの状態で、住んでいたアパートの段差から突き落とされたらしい。お姉さんを娘のように可愛がっていた父は激怒してその男をこっぴどく叱ったらしい。酷い話ではあるものの、14歳の頃の僕には知る由もなかった。

多感な時期に触れた音楽を聴くと、余計な記憶と当時の空気が呼び起こされる。好きか否かを通り越して14歳の時のあの空気が肌に纏わり付く。
セックスもドラッグもないロックンロールの記憶。


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