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00年代にリリースされたよく聴いた歌ものアルバム10選

僕は歌が好きだ。
派手さはないけれど、孤独感や神経が剥き出しになったようなひりひりとした感触があるもの、そういった歌に出会えた瞬間は何者にも変えがたい感動や喜びを感じる。
ここであげるアルバムは、いわゆる歴史的なアルバムというわけでもないかもしれないし、何かのランキングに載るようなものでもない。聞き手を圧倒するような表現に触れて心が動く事もあるけれど、派手さはないけれどじんわりと心のひだに触れるような作品の方が感動を覚える事が多い。饒舌とは真逆のどこか舌ったらずな表情というか朴訥としたもので、そういった肌触りのものといったところだろうか。
そういったものは地味だとか暗いといった印象を受ける人が大半だと思うし、がやがやとうるさい場所では絶対に流れる事は無い音楽だと思う。
部屋で静かにひとり、もしくは恋人とふたりで聴くのに程よい歌。言ってみればそれは花瓶に添えられた大輪の花ではなく、道端の雑草の中で咲く小さな花のようなものかもしれない。でも日常にある些細だけれど、ふと心に入り込む感動の瞬間に近い親密な世界が広がる歌がそこにはあると思う。このページに立ち寄ってひとつでもお気に入りを発見できたら幸いかなと。

・Julie Doiron/Dèsormais

カナダのSSWで、かつてEric’s TripというSonic Youthの曲名からとったバンドに在籍していたJulie Doiron。本作Desormaisは大半をフランス語詞で占められていて、カナディアンフレンチのアンニュイな雰囲気が全編に渡って綴られている。あらゆる所で奏でられない休符の部分がこのアルバムの肝で、ざらっとしたコーラスワークとシンプルなギターワークの間にたゆたうボーカルが醸し出す響きは本場フレンチポップとは異なるオルタナ以降のSSWのひとつの形を提示している。アメリカに隣接したカナダという距離感が生み出した珠玉のアルバム。
今やBon IverやMoses Summney、Jamila Woodsらが所属している事で有名になったレーベルJagjaguwarの初期作品でもある。

・Rebecca Gates/Ruby Series

※サブスクにないので収録曲の中で聴けるもの
元The SpinanesのRebecca Gatesの初ソロアルバム。ミニアルバムという形式のせいか時代に埋もれてしまっているけれど、TortoiseのJohn McEntireが全面バックアップしていて、バックもTortoise周辺の面子で固められている。聞いた話によるとミュージシャンの仲間内のRebecca Gatesファンが我も我もと集ったおかげでレコーディングはどんちゃん騒ぎだったという。
ジャズ、フォークを軸にしながらもJohn McEntireによるTR-808の密な打ち込みと、シカゴの宝刀ヴィブラフォンがアレンジに加わりながら、The Spinanesのラストで垣間見えたアンニュイなRebeccaの歌を最大限に活かした内容。この頃にフルアルバムとしてちゃんとリリースされていたらと想像してしまう。

・Maria Rita/ST

母Elis Reginaの影響という重責に苛まれながら、母のその後を存分に感じさせるアルバム。後のブラジルでの大ブレイク後のサンバ以前のMPB/ジャズ路線で、かつて母Elisがブレイクの切っ掛けを作ったMilton Nascimentの元にデビューの相談をした事がこのアルバムの躍進に勝って出ている。Os MutantesのRita Leeと並んで新世代が交差しつつ、ジャズヴォーカル的表現に特化した名盤へと仕上がった一枚。この頃はまだ歌全体に不安な感情が溢れていて、それがより一層サウダーヂを誘う。出来れば突き抜ける一歩手前な状態のこの頃の彼女のライブが観たかった。

・Joanna Newsom/Y’s

アレンジにVan Dyke Parks、録音にSteve Albini、ミックスにJim O’rourkeと最高な状態で挑んだ名盤。90年代から続くアメリカーナの系譜の決定打として高い完成度を築いたアルバムだと思う。幼い頃からアパラチアンフォークに携わりながらも、グランドハープを奏でながら歌うという特異な立ち位置はユニーク。ボーカリストとしてはポストビョーク的な位置でもあると思うけれど、アメリカーナの系譜にある事でバーバンクサウンドの流れも強く感じる。Van Dyke Parksの仕事の中でも屈指の内容。この数年、パートナーであるPaul Thomas Anderson監督によるInhearent Viceの出演とナレーションも印象的。

・Luis Alberto Spinetta/Para Los Arboles

※サブスクに無いのでYoutubeから一曲
長いキャリアの中でも晩年まで高いクオリティを保っていたSpinetta。アルゼンチンの音楽シーンの中で未だに大きな影響をもたらしているけれど、その中でもこのアルバムのメロウさは格別。特にCisne(白鳥)でのノイジーなギターシンセの音色が紡ぎ出す幽玄な世界観は歳を重ねながらも驚異的な瑞々しさを保ってる。晩年の作品はどれも必聴。

・Owen/No Good For No One Now

オープンチューニングのギターのカッティングから始まり、冒頭の「Get out of here」とぶっきらぼうに叫ぶ。ここにある不器用さはAmerican Footballや他のソロ作では見られない。ささくれ立った歌の質感はダイレクトに心に刺さってくる。優しさと暴力的な感情が折り混ざった時代の徒過として記憶するべき一枚。「I’m not going anywhere tonight」のポリリズミックなフレーズの妙など味わい深い。静と動が入り混じる生々しい歌。

・Beth Gibbons & Rustin Man/Out Of Season

Mysteriesの形而上的な世界観は、異世界のなかで仄かに光り輝く空間が広がっているような、コクーンの中で蠢いているような異様な世界が広がっている。Portisheadと似て非なるアコースティックかつジャジーなブリティッシュフォークを更新した名盤。Sand Riverの美しさも筆舌に変えがたい。Rustin Manこと元Talk TalkのPaul Webbが参加と共同というのもポイント。

・Beth Orton/Comfort Of Strangers

Chemical Brothersのアルバムに参加していたり、90年代はアコースティックとエレクトリックな音楽がメインだったものの、今作ではJim O’rourkeをプロデューサーに迎えたSSW作品。Joni MitchellやJudee Sill、Karen Dultonなどの70年代のアメリカのSSWを想起させる。
Heartland TruckstopでのJimのミックスは聴きどころ。Beth Ortonは後に結婚を機にアメリカに移住。Antiからリリースされた次作Sugaring SeasonはNick DrakeやSandy Dennyのようなブリティッシュフォークへ接近していてこちらもおすすめ。

・Hanne Hukkelberg/Little Things

ノルウェーだけではなく、北欧のミュージシャンはアメリカの音楽からの影響が強くカントリーやフォークなどアメリカーナっぽい表現が多い。アイスランドのmumなどフォークトロニカの登場以降ノルウェーでもそういった表現を行う人たちが台頭してきていた。バンジョーやスティールギターに混じってチープなキーボードや自然音のサンプリングなどが所々に配置されている。
Stina Nordenstamと共に聴きたい一枚。次作Rykestraße 68も。

・Susanna/Sonata Mix Dwarf Cosmos

ECMがディストリビューションしているノルウェーのRune GrammofonからリリースされたSusanna Wallumrødのソロアルバム。Susannaの歌とピアノがメインで、テルミンやギター、ベースが静かさの中で彩りを添えている。SFや不条理を感じさせる歌詞が相まって独特な世界観が繰り広げられている。Lilyなどを聴くとJoni Mitchellの影響が色濃く出ている。Joniよりも強い孤独感や淡い色合いを感じさせる。ピアニストである兄Christian WallumrødはECMからアルバムをリリースしている。

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