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Frank Ocean/Blonde コラボレーターから辿る非R&B的側面について

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ブロンドに参加したR&B以外のミュージシャン

ブロンドに参加していた多くのミュージシャンのリストを眺めると、US、UKのR&B以外の人たちが目につく。どちらかといえばポップ/ロックフィールドの人々が多く、このアルバムがもつ一聴して繋がりのある見えにくい音楽性の要因のひとつにこういった人々の参加があるのではと感じられた。
ジョン・ブライオンやジョニー・グリーンウッド、エリオット・スミスのように映画趣味が反映されたと思わしき人選や、一見繋がりの見えないギャング・オブ・フォーやキュアーのようなポストパンクからの影響があったりと一筋縄ではいかないものが混入されている。シャソールやジェイムス・ブレイク、アレックスGのように10年代のミュージシャンも参加していながら、ビートルズやバカラックの引用もある。
このアルバムは声が主役だと思う。クワイエットウェィヴといったチル&Bという評価は、あくまでもフランク・オーシャンの声を主軸に置きながらも、新たな表現のフィールドへと昇華している。
ブラックライブズマター最中の作品ということもあり、諦念感を感じさせる冷ややかな表現がなされながらも、バリー・ジェンキンス監督の映画ムーンライトの世界観とも共振しつつ、10年代を代表するアルバムとして語り継がれるべき一作であることは間違いない。
A24からリリースされるムーンライトの本の前書きにフランク・オーシャンが執筆していることからも繋がっている事がよく分かる。
と言うわけで、雑感に近いものになるもののR&B以外の人選をリストアップし、彼の非R&B的側面を洗い出していきたい。

Austin Feinstein(a.k.a. Austin Anderson) Slow Hollows

Vocal,Arrangement,Guitar
B3.Self Control

ロックバンドのスロウ・ホロウズのフロントマンオースティン・ファインスタイン。今年リリースされたアルバム「Actors」はロック色は退行し、R&B寄りなアプローチの音楽性に変化している。
彼に限らずブロンドに参加したミュージシャンのほとんどに、何かしら変化があるのは興味深い。
アンサンブルはシンプルながらも、声が中心に添えられていて控えめながらも芯の強さを感じる。

Vegyn(Joe Thornalley)

Produce,Drum Programming,Keyboard,
Compose
B5.Nights
C4.Close To You

ブロンドとエンドレスに参加していたサウスロンドン出身のヴェギン(ヴェジン?ヴィーガン?)。11/8にリリースされたアルバム「Only Diamonds Cut Diamonds」はエイフェックス・ツインとエレクトロニカ(というよりフォークトロニカ)の中間のようね奔放なエレクトロニックミュージック。
エンドレスに参加していたアルカはエイフェックス・ツインのグロテスクな部分を引き継いでいたけれど、こちらはユーモラスな部分を引き継いでいると言っていいのでは?個人的には2001年辺りのロシアやフランスのエレクトロニカも思い浮かんだ。90年代から00年代初頭のエレクトロニカと今を繋ぐ一枚とも言える。

Rostam Batmanglij(ex.Vampire Weekend)

Arranger,Producer,Keyboards,Compose
A2.Ivy
D1. Seigfried

ブロンドリリースと同年の2016年に長期活動休止時期のヴァンパイア・ウィークエンドを脱退したロスタム・バトマングリ。ソロ作はヴァンパイア・ウィークエンドに通じるポップさや、イラン系の出自も所々感じさせる。2019年はクレイロのプロデュースも行なっている。

Jon Brion

Arranger,Keybord,Producer
A3.Pink + White
B3.Self Control
C1.Solo (Reprise)
C2.Pretty Sweet
C5.White Ferrari

ジョン・ブラオンといえば、マグノリアやレディバード、アイ・アム・サムなど映画のサントラや、フィオナアップル、エイミー・マンなども手掛けてる人物として知られている。ビートルズフォロワー的な箱庭ポップ的な側面もあるポップマエストロ。

James Blake

Keyboards,Producer,Arranger
B1.Solo
B2.Skyline To
C1.Solo (Reprise)
D2.Godspeed

2011年のポストダブステップの雄としてブレイクし、コンスタントにアルバムをリリースしながらアメリカのミュージシャンとも多岐にわたる交流を持つ。10年代を象徴する超低音を駆使したデビューアルバム以降は、ダブというよりもSSW的な作家性を重んじているように感じられる。

Christophe Chassol(Chassol)

Arranger,Keyboards,Compose
B2.Skyline To

ソランジュのアルバムにも参加しているフランスのシャソール。自然界の音や話し声などポップなミュージックコンクレート的サンプリングを駆使したコンポージングと、エレクトロニクスが交わる摩訶不思議かつ洗練された世界観をもつ。

Alex Giannascoli(Alex G)

Guitar,Arranger
B3.Self Control
C5.White Ferrari

今年リリースされたハウス・オブ・シュガーのアメリカンゴシック的な混沌とした表現は、ドラッギーながらもチルな雰囲気は皆無。ジャケット同様掴み所のない感じや、もともと初期Tレックスにも通じるアシッドフォークな音楽性が、今作ではベースはそのままにアパラチアンフォーク、ニューエイジ、60’sポップなどが混ざり合う。
アニマル・コレクティブのサイケ感やウィルコのもつ不協和音から連なるものが次のステップに向かっているのを感じられる一枚。

Jonny Greenwood(Radiohead)

Arranger
D1.Seigfried

ジョニー・グリーンウッドのレディオヘッドを離れた課外活動は、ライヒなどの現代音楽とサントラのコンポーザーとして開花している。ポール・トーマス・アンダーソンのゼア・ウィル・ビー・ブラッドのサントラを手がけた事がきっかけでオーケストレーションのコンポーズとアレンジという新たな道を歩んでいる。

Elliott Smith

Lyric
D1.Seigfried

「Seigfried」では「A fond farewell」の歌詞が引用されている。ジョン・ブライオンも関わりがある事や、ガス・ヴァンザントの「グッド・ウィル・ハンティング」の挿入歌で注目を集めた事もあり映画好きなフランク・オーシャンの側面が現れているのかもしれない。

B. Bacharach, H. David

Compose
C4.Close To You

「Close to you」のバート・バカラック/ハル・ディヴィッドについては説明すら必要ないと思うけれど、こういった曲が挟まれる事で不思議な雰囲気を醸し出す。ブロンド後にリリースされた「Moon river」のカバーも同じ世界観の上にあると思われる。ボン・イヴェールのようなハーモナイザーがかかったボーカルは原曲からは離れていながらも、曲に含まれるノスタルジーを抽出している。

J. Lennon, P. McCartney

Compose
C5.White Ferrari

こちらも説明不要なポール・マッカートニーによるビートルズの名曲「Here,there and everywhere」の引用。大ネタながらも「Close to you」に通じるノスタルジアを喚起させる。

Andy Gill,Dave Allen,Hugo Burnham,Jon King(Gang of four)

Compose
D3.1 Futura Free

「Futura Free」ではギャング・オブ・フォーの「Love like anthrax」がサンプリングされている。サンプリング許諾の経緯についてはアンディ・ギルが語っている。

The Cure

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ブロンドリリース前にフリーのジンとして配布され自身のレーベル名にも使われている「Boys don’t cry」の元ネタといえばキュアーの初期名曲からの引用。ギャング・オブ・フォーやキュアーなどポストパンクの性急で尖鋭かつ青臭さを好むところがフランク・オーシャンの特異性として浮かんでくる。



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