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街角クラブ〜ミナスサウンド④/カイミ姉弟と街角クラブが関わったアルバム

街角クラブとカイミ姉弟

ドリヴァル・カイミの3人の子供達、特にナナ・カイミはアルバム毎にミルトンや街角クラブの曲を取り上げている。ライブやアルバムなどミルトンとの共演も多く関わり合いも深い。
ダニーロ・カイミはミルトンのソロや街角クラブの面々の多くのアルバムに参加しており、ドリ・カイミはソン・イマジナリオをバックにアルバムを録音している。
この章では1972〜77年までにミルトンと街角クラブの面子が関わったアルバムを取り上げていきたい。

Nana Caymmi ナナ・カイミ

・Nana Caymmi(1975)

ここではミルトンの「Ponta de areia」、トニーニョの「Beijo Partido」が取り上げられている。特に後者はドリ・カイミによる重厚な感じストリングスがミルトンのバージョンとは違った引き出している。

※5/4 アップルミュージックで表示されている2曲目の「Branca」はタイトルと中身が異なる曲「Saudade」になっているということでした。Youtubeのリンクを貼っておきます。(Guiroさん@eight_label ご指摘ありがとうございます。)

・Renascer(1976)

ミルトンの「Bôca a bôca」、ネルソン・アンジェロの「Sacramento」が取り上げられているが、何よりもダニーロ・カイミによる「Codajas」が一番ミナスらしいサウンドに仕上がっている。森の中にいるようなドリ・カイミによる重厚なストリングスアレンジが素晴らしい。ここでのドリ・カイミのアレンジはセルジュ・ゲンズブールのメロディネルソンでアレンジをつとめていたジャン・クロード=ヴァニエと近いものを感じる。

・Nana(1977)

トニーニョ・オルタが劇伴のために作った「Dona  Olimpia」、もともとナナの為に作りクルービ・ダ・エスキーナに収録された「Cais」が取り上げられている。
前2作までは森の中にいるようなミナスサウンド的なサイケ/アシッドフォークな香りがあったものの、今作ではそういった部分が薄れ、より洗練された落ち着いた演奏になっている。

Danilo Caymmi ダニーロ・カイミ

・Cheiro Verde(1977)

冒頭の「Mineiro」というミナスへの憧れを描いた曲から始まり、前述のナナが取り上げていた「Codajas」のセルフカバーなど、派手さは無いが滋味深い曲が並ぶ。
ミルトン、ネルソン・アンジェロ、ノヴェーリらが参加。

Dori Caymmi ドリ・カイミ

・Dori Caymmi(1972)

ソン・イマジナリオを起用したアルバム。この頃ストリングスアレンジはまだ行っておらず、アルバムではガヤが担当している。ガヤはミルトンの69年のアルバムのアレンジも担当していたため、この二枚はどこか近い雰囲気をもっている。

Nana Vasconcelos ナナ・ヴァスコンセロス

・Nana Vasconcelos-Nelson Angelo-Novelli(1975)

※1〜3がAfricadeus、4以降がトリオの2in1。ここではトリオのアルバムについて。
ネルソン・アンジェロとノヴェーリとナナのトリオアルバムで、ピエール・バルーのレーベルSaravahからのリリース。
トリオという事で、ナナの色はソロと比べると薄いものの息のあった演奏が繰り広げられる。特にネルソン・アンジェロのテクニカルなヴィオラォンが炸裂し、畳み掛けるようにナナのパーカッションが鳴り響く。
ノヴェーリ作の「Toshiro」は「Clube da esquina2」で再演される。

Sarah Vaughn サラ・ヴォーン

・I love Brazil!(1977)

1977年にサラ・ヴォーンはブラジルに渡りレコーディングを行う。ミルトンの「Travessia」、「Courage」、「Vera Cruse」なカバーで街角クラブがバッキングで参加している。もともと「O som Brasileiro」のタイトルでリリースされていたものを、パブロからリリースされ直されている。アルバム全体でブラジルのミュージシャンがバックアップしていることもあり、アメリカのミュージシャンのリーダーアルバムとしては最高峰に位置する名盤。サラのヴォーカルも馴染みが良く、聴いているとその声に引き込まれる。

Tenorio Jr テノーリオ・ジュニオール

サンバランソ(ジャズサンバ)の大名盤「Embaro」で知られるテノーリオ・ジュニオール。
ロー・ボルジェスのファースト、ネンソン・アンジェロとジョイスのアルバム、ナナ・カイミなど晩年はミナス勢のアルバムにかかわっていて、目立つ存在ではなかったが、生きていれば後にミナス人脈でソロを作っていたかもしれない。
ミルトンの「Minas」録音の翌年1976年に、演奏するため訪れていたアルゼンチンで、警察に危険人物と間違われ拉致され行方不明になり、その後殺害されてしまう。この時期にリーダー作をリリースしていないが、「Embaro」は素晴らしい内容なので未聴の方は是非聴いてほしい一枚。

Alaide Costa アライーヂ・コスタ

・Corasao(1976)

「Clube da esquina」でゲスト参加していたアライーヂ・コスタ。このアルバムではミルトンがバックアップし、演奏では街角クラブの面々が参加している。ジョアン・ドナートのストリングスアレンジが印象的なミルトンのカバー「Catavento」が白眉。この曲は以前Calmが「Sitting on the beach」でサンプリングしていた。

Taiguara タイグアラ

・Imyra,tayra,ipy,Taiguara(1976)

トニーニョ・オルタ、ノヴェリ、ヴァグネル・チソらが参加したタイグアラによるオーケストラルな一枚。エルメート・パスコアールがアレンジで参加しているせいか、全体にプログレッシヴな印象はあるものの、ミクロで見ると意外とオーソドックスな曲が並ぶ。オーケストラルな曲とリズムが強調された曲が並ぶ唯一無二な内容。ある意味最近のハファエル・マルチーニあたりに通じる音楽性があると言えるかもしれない。

Gal Costa  ガル・コスタ 

・India(1973)

街角クラブの曲は取り上げられてはいないが、トニーニョ・オルタが大半の曲をギターで、ルイス・アウヴェスがベース、ホベルチーニョ・シウヴァがドラムで参加している。二曲でヴァギネル・チソとアルトゥール・ヴェロカイが参加している。トロピカリアとミナスの接点になっているアルバムでもある。
ゴリゴリにファンキーな「Pontos de Luz」が聴きどころ。

Arthur Verocai アルトゥール・ヴェロカイ

・Arthur Verocai(1972)

今ではアメリカ西海岸で絶大な人気を誇り、オリジナルアルバムは10万を超える価格で取引されているレア盤。トニーニョ・オルタがボーカルで参加している。ファンキーかつサイケな内容で、サウダーヂが掛け合わされた稀有なアルバム。ブラジリアンソウルな側面が昨今のヒップホップ界隈での人気に繋がるのかもしれない。
サウダーヂ溢れる穏やかな曲調の「Qui Mapa?」など聴きどころも多い。

Ivan Lins イヴァン・リンス

・Modo Livre(1974)

このアルバムではソン・イマジナリオがバックをつとめ、アルトゥール・ヴェロカイのアレンジが冴え渡る内容となっている。「Essa Maré」でのエレピとフルートのアンサンブルが印象に残る。「Abre Alas」のようにミナスサウンドに近い曲もあり、イヴァン・リンスの楽曲は共通点が感じられる。ミルトン周辺とも繋がりが多い。

Sidney Miller シヂネイ・ミレール

・Línguas de Fogo (1974)

60年代にエレンコからデビューしたシヂネイ・ミレールによる、ソン・イマジナリオが参加したアルバム。ファンキーでサイケなSSW的内容。浮遊感のある歌声と、「Clube da esquina」のロック的な面を集約したような曲が並ぶ。妙にクセになる歌が印象に残る。

Tamba Trio タンバ・トリオ

・Tamba Trio(1975)

ミルトンのファーストに参加していたタンバ・トリオによるブルータンバと言われるアルバム。トニーニョ・オルタが自作曲「Beijo Partido」で参加し、ダニーロ・カイミやイヴァン・リンスの曲が収録されている。

次の章ではClube da esquina2以降の街角クラブの面々のアルバムを辿って行きたい。


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