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街角クラブ〜ミナスサウンド②/クルービ・ダ・エスキーナ

街角クラブのはじまり

ミルトン・ナシメントは無名のロー・ボルジェスと連名で、かつブラジル初の2枚組アルバムを作ろうと計画する。しかし、レーベルは無名のミュージシャンを前面に出すことと、購買の妨げになると思われる2枚組アルバムに対し難色をしめす。そんな最中ガル・コスタが2枚組のライブアルバム「Fatal」をリリースしヒットを飛ばす。ミルトンが狙ったブラジル初という試みの野望は潰えたものの、前例が出来たことでアルバムリリースにこぎ着けることが可能になった。
アルバムはClube da esquina”街角クラブ”と名付けられる。

・Clube da esquina(1972)
 /Milton Nascimento & Lô Borges

肌の色の違う少年が並んで座っている印象的なジャケットは当然ローとミルトンをイメージしているが、アルバムはふたりだけではなく多くの人達を起用している。トニーニョ・オルタ、ベト・ゲヂス、ネルソン・アルジェロ、ルビーニョ、ソン・イマジナリオのヴァギネル・チソ、タヴィート、ホベルチーニョ・シウヴァ、ルイス・アウヴェスらミナス人脈が総動員でレコーディングに挑んでいる。ストリングスのアレンジでデオダート、ゲストボーカルでアライーヂ・コスタも参加している。
全21曲中、ミルトンが12曲とローが8曲(内1曲共作)、カバーが2曲という構成。大半はミルトンがボーカルを担当しながらも、ローが5曲でボーカルを担当している。
アルバムを代表する冒頭曲「Tudo que você podia ser」や、後にエリス・レジーナやトム・ジョビンがカバーする事になる「O trem azul」。コーラスとストリングスが美しい「Estrelas」からミルトンのスキャットが印象的なタイトルナンバーの「Clube da esquina N°2」。サヴァス&サヴァラスもカバーした「Um Girassol da cor do sue cabelo」。ファズギターが炸裂するサイケナンバー「Trem de doido」などローの名曲が並ぶ。
一方ミルトンはナナ・カイミのために作曲した「Cais」。ネルソン・アンジェロのギターがリードをとる5/4拍子の「Saídas E Bandeiras」。カエターノ・ヴェローゾによる土着的なカバーもあるポップな「Cravo E Canela」。ファルセットとフォーキーな曲調の「San Visente」。サージェントペッパーズ症候群ともいえるサイケで妖艶な「Pelo amor de deus」。義母の名前を冠したファルセットがたゆたいながらも鋭いリズムが切り込む「Lilia」。イントロのコード、とポール・マッカートニーライクなベースがビートリッシュな「Nada será como antes」とミルトン節が並ぶ。
このアルバムで街角クラブという門戸を開き、参加したメンバーの活動の足がかりとしてミナスサウンドが切り開かれていく事になる。

Lô Borges ロー・ボルジェス

・Lô Borges(1972)

Clube da esquinaリリースの同年、ロー・ボルジェスはファーストアルバムをリリース。堰を切ったように15曲の自作曲が並ぶ。
クルービ・ダ・エスキーナに収録されていた曲に比べると小粒感は否めないものの、後の活動に繋がるようなきらびやかな曲もありメロディメイカーとしての資質は開花している。
アルバム全体がサイケデリック/アシッドフォークな雰囲気が強く、「Não foo nada」や「Aos Barões」のような捻れたアシッドサイケなナンバーから、「Cansão postal」、「Faça seu jogo」「Como O Machado」、「Eu sou como você e」(後にセルフカバー)あたりのローらしいメロウなナンバーなどが並ぶ。
製作の全面的なバックアップをミルトンが行ない、トニーニョ、ベト、ネルソン、ノヴェーリ、ホベルチーニョ・シウヴァ、フラヴィオ・ヴェントゥリーニらがバックをつとめる。

Nelson Angelo & Joyce
ネルソン・アンジェロ&ジョイス

・Nelson Angelo & Joyce(1972) 

ミルトンの諸作でギタリストとして参加しているネルソン・アンジェロと当時の妻であったジョイスとのアルバム。
曲はほとんどがネルソン・アンジェロによるもので、一曲だけダニーロ・カイミの楽曲が取り上げられている。ジョイスの歌声はすでに完成されているものの、女性は目立った発言をしない当時封建的な音楽業界からジョイスの表現が封じられていた事もあり控えめな印象。ジョイスの才能が開花するのはフェミニーナまで待たなければいけない。
アルバム全体の印象はローと同じくアシッドフォークな雰囲気がある。ブラジル国内でもリイシューされているが、スペインのレーベルからリイシューされているようにこのアルバムもサイケデリック/アシッドフォークといった需要で認知されている。
ジョイスを求めて聴くと肩透かしな部分は否めないものの、穏やかなフォークアルバムとして受け止めると味わい深い内容でもある。

Beto Guedes,Danilo Caymmi,Novelli,Toninho Horta
ベト・ゲヂス、ダニーロ・カイミ、ノヴェーリ、トニーニョ・オルタ

・BETO GUEDES-DANILO CAYMMI-NOVELLI-TONINHO HORTA(1973)

これらのアルバムの中でも一番手に入りにくいアルバムかもしれない。
トニーニョ、ノヴェリ、ダニーロ、ベトの四者による共同アルバム。くぐもった音質とサイケ、プログレが混ざったような内省的な内容で、初期クルービ・ダ・エスキーナの特徴であるオーガニックかつ森の中でなっているような音像。
後にトニーニョがローのボーカルで再録する「Manuel O Audaz」がトニーニョの歌で収録されている。
垢抜けない雰囲気はあるものの、クルービ・ダ・エスキーナが生んだ副産物として貴重な記録である事は間違いない。

この時期のこれらのアルバムは、トロピカリアの諸作と共に欧米での認知が高まっていることもあり、アナログレコードでもリイシューされている。クラブ需要もあるかもしれないが、フリート・フォクシーズのようなバンドがロー・ボルジェスからの影響を公言しているので(ミルトン・ナシメントは聴いたことがないというまさかの答えもあったものの)、いままでと異なる受け取られ方をされているのが昨今の動きなのではないかと思われる。

Som Imaginario ソン・イマジナリオ

ミルトンのバックをつとめているソン・イマジナリオは単独名義のアルバムは3枚リリースされている。メンバーはその後のミルトンのアルバムや、街角クラブのアルバムでも参加しているキーボードのヴァギネル・チソ、ドラムのホベルチーニョ・シウヴァ、ギターのタヴィートとフレデリコ、ベースのルイス・アウヴェスの5人。
ファーストとセカンドはボーカルが入りムタンチスに近いサイケな内容。ロー・ボルジェスとベト・ゲヂスがMPBフェスティバルに応募した「Feira Moderna」はこのファーストで聴くことができる。
続くサードはヴァギネル・チソのピアノとエレピ、オルガンがフューチャーされ、クラシカルかつ、アジムスのようなジャズが展開され、ほぼインストのアルバムになっている。

・Som Imaginario(1970)

・Som Imaginario(1971)

・Matança Do Porco(1973)



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