見出し画像

デヴィッド・ボウイとクラウトロック⑥/ステージ

ボウイとイーノ それぞれの活動

ボウイはベルリンで暮らす中で、タンジェリン・ドリームのエドガー・フローゼやノイ!のミヒャエル・ローターとのプライベートでの出会いはあったものの、彼らを作品に起用するまでは至らずドイツの音楽からの影響はありながらもあからさまに音に反映させることはしなかった。「ダイアモンドの犬」でノイ!を模倣したようなあからさまな表現は、実際のところ「ロウ」や「ヒーローズ」では殆ど聴き取ることが出来ない。クラフトワークやノイ!、カンなどに心酔していたことや、ベルリンのハンザスタジオでのレコーディング、シンセサイザーの使用など表面的なものをなぞれば共通したものがあると言えるかもしれないが、この二作についてはクラウトロックとダイレクトに繋がる内容ではない。「ヤングアメリカンズ」でフィリーソウルを模倣しながらも、シグマスタジオのスタジオミュージシャンを使わなかったように、結局ベルリンでも現地のミュージシャンは殆ど使わず(メッセンジャーズというジャズ/フュージョンバンドのボーカリスト、アントニア・マースが唯一参加したドイツのミュージシャン)。結局の所多くを自前のミュージシャンですべてを作り上げてしまった。ベルリン3部作の中でもクラウトロックからの影響をあからさまに出しているのは「ロジャー」に収録された「レッド・セイルズ」のみであり、その影響下にありながらも単純なマネに終始しなかったというのが真実ではないかと思う。
その一方、イーノはボウイと相反してクラスターとの競演や、アルバム「ビフォア・アフター・サイエンス」でのクラスター、ホルガー・シューカイ、ヤキ・リーベツァイト、コニー・プランクと共にアルバムの制作を進めていたこともあり、ドイツのミュージシャンの面々とつながりを持ちながら、コラボレートし自分の音楽に取り入れている。

・Cluster and Eno

イーノは、クラスターやハルモニアとのコラボレーションから彼らが内包していたエリック・サティの「家具の音楽」に繋がる表現に触れ、以前から暖めていたアンビエントシリーズをスタートさせる。イーノの提唱するアンビエントという概念は、彼が事故で入院した際に部屋で流していた僅かな音量の音楽に対し「気に留めない音楽」という観念に気付いた事が発端となっていて、特にクラスターのミニマルやドローン的表現から大きく感化された先にアンビエント構想があったのではないだろうか。

・Cluster/ClusterⅡ

・Brian Eno/Ambient 1

イーノは同じ頃、トーキングヘッズのプロデュースでニューヨークを訪れた際に、後にコンピレーションアルバム「ノーニューヨーク」としてコンパイルされたノーウェーブシーンの面々と出会い、関わりを持つようになる。

・Talking Heads/More songs about buildings and flood

・V.A/No New York

イーノはセカンドソロアルバム「テイキングタイガーマウンテン」に収録されていた「サードアンクル」のようにニューウェーブを先取りしたような感覚を持ち合わせていて、このシーンと共振しながら関わりあっていたのは自然な流れだったように思える。

この頃、ボウイはフランク・ザッパのバンドにいたエイドリアンブリューを引き抜きワールドツアーへ出る。ヤングアメリカンズから”ヒーローズ”までの曲をメインに、ニューロマンティクスへと直結するシンセサイザーのきらびやかな音色に包まれたサウンドを繰り広げられたライブ「Isoler Ⅱ」を敢行。

クラウトロックからの直接的なつながりは無くなるものの、この時期のライブではドイツ人作曲家クルト・ワイルと作家ベルトルト・ブレヒトによるアメリカの禁酒時代を歌った「アラバマソング」をカバーしている。ベルリンのキャバレー文化にもハマっていただけに、演劇的でキャバレー文化の匂いが立ちこめるこのカバーもやはりベルリンでの生活で培ったものだったのではないだろうか。♭5のコードを多用した独特の曲調は、遺作のブラックスターまで一つの繋がるボウイの一貫した演劇的な嗜好が伺える。

・David Bowie/Alabama Song

「アラバマソング」はスタジオ録音されシングルでリリースされ、その後ブレヒトの曲をカバーしたアルバム「バール」へと至る。

そして同時期に”ヒーローズ”の影響は意外な所から出てくる。ブライアン・イーノはウォーカー・ブラザーズの「ナイト・フライツ」を聴き、自分たちがやりたかった事がここにあると悔しい思いをしたという。明らかに”ヒーローズ”から影響されたと思わしきタイトル曲「ナイト・フライツ」は不安を煽るストリングにパンクバンドのような直線的なドラムが鳴り響き、シンセサイザーのシーケンスとスライドバーを使って滑らかにグリッサントするリードベースが印象的なナンバー。アルバムの冒頭四曲でのスコット・ウォーカーの曲は不協和音の中で黒々とした漆黒の音楽が鳴らされていた。まるでヴェルヴェット・アンダーグラウンドが描いた倒錯的なゴシックな世界のさらに先を、ボウイの音を通して形作られている。もともとスコット・ウォーカーのファンだったボウイもこの音に大きな衝撃を受けている。後にボウイはこの曲をカバーしている。

・The Walker Brothers/Nite Flights

・David Bowie/Nite Flights

恐らくこのアルバムがあったから、ボウイは次作「ロジャー」でゴシックな世界から離れてしまったのではないだろうか。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやスコット・ウォーカーが作り出していたゴシックな世界観は、ボウイの中で常に燻り続けていた。「世界を売った男」、「ダイアモンドの犬」、「ステーション・トゥ・ステーション」、「アウトサイド」、「ブラックスター」はボウイの中のデカダンスを表現したアルバムだったと思う。しかしテーマこそ退廃性を押し出しつつも、方やサウンド面においてはヴェルヴェット・アンダーグラウンドやスコット・ウォーカーのゴシックさまでは至っていなかったように感じる。アンダーグラウンドな資質を持ちながらも、常に開かれた世界へと変化し続けたボウイのサガは常にコンプレックスとしてあり続けたように思う。ボウイが目指した世界は常に後一歩のところで手が届かなかった。遺作「ブラックスター」はそんなボウイが死に直面しながらその境地へとたどり着こうとした軌跡だったと他ならない。

ステージ

「ジギースターダスト」からの5曲を挟みつつ、「ヤング・アメリカン」から「ヒーローズ」までのベスト的な内容のライブアルバムとなっている。現行の2017年版は数曲追加されアナログは二枚組から三枚組へと拡張されている。追加録音や編集はされていると思うが、ギミックだらけだった「ロウ」と「ヒーローズ」の曲はよりストレートな演奏で、この時のバンドの演奏力の高さを味わうことができる。テンポを落としスカアレンジに変わった「ホワット・イン・ザ・ワールド」や、覆い被さるようなシンセサイザーのフレーズが加わった「フェイム」などアレンジは磨き上げられている。エイドリアン・ブリューのギターもストレンジさを程よく加味している。このライブからのポストパンクやニューロマへの影響はかなり大きかったのでは?





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?