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夏、二人で越えていく


みょーさんの新しい企画に参加させて頂きました!


本当に小説って難しい…
組み立てから完成までに凄まじいパワーを使います。痩せたかもしれない(嘘)

ちなみに、この小説は1回全部消して書き直しました。
何かね、迷宮入りしちゃったんです。やっぱり難しい…

でも、ここはチャレンジあるのみです。
ちなみに、iPadで書いたのですが先日smartkeyboardが壊れてしまい、直接オンスクリーンキーボードで書いていたので凄まじい誤字でした。これを機会にsmartkeyboard卒業しよう。
そうすれば持ち歩きも楽になるよ。

それではお目汚し、失礼します。

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「右手でけん玉、左手でヨーヨーをしながら、リフティングを百回する」
一学期最後の日、夏休みの目標を提出した僕は担任の松本に殴られた。

いいんだよ。
僕は本気なんだ。


夏休み初日。僕はいつもの100倍早起きして両親と一緒に電車に乗った。

最寄り駅に着くと、心地良い風が吹いている。


「にいに!」
部屋のドアを開けると同時に声がした。
弟のコウタ。会うのは1ヶ月ぶり。

祖母が「あんたが来るのを毎日待っていたんだよ」と笑った。
「足音だけで分かるなんてさすがだね」
母が目を細めている。

コウタがゆっくりベッドの手すりを確かめるように手を動かす。
ゆっくり足を下ろし、歩き出した。
すぐに父がコウタに寄って手を繋ごうとすると
「お父さん、大丈夫。できるから」
そう言って僕の目の前までやってきた。

僕の頬の両手で触る。


コウタの目が見えなくなってもう1年半になった。
良いお医者さんがいると言われて、今は病院近くの祖父母の家に住みながら治療や訓練を受けている。
部活や試験でなかなか行けなかった僕にとって久々の再会だ。

1年半まで、僕とコウタはどこにでもいる当たり前の兄弟だった。
仲はいいけど、僕たちは別々の道を歩いていた。

サッカーが好きなコウタ。
あと少しでリフティング100回できそうだったのに。

目が見えなくなり、僕の存在を確認するかのように
コウタは僕の頬を触る。
その手が、悲しい。

2人でしばらく話をしながらゆっくり過ごした。
「にいに、またやってよ!」
枕元からけん玉を持ってくる。
ヒョイと玉は上がるが、うまくいかない。
「あ、もう少し!」
「今はハズレだね」
音だけで僕の仕上がりを解説していく。
この日は結局一回も成功しなかった。


コウタの状況は、改善の見込みがない。
夏休み前、父から聞かされていた。
それでも、奇跡を信じたいと思う家族はそのことをコウタに言えないままだ。

久々の家族が揃ったことにコウタは終始笑っていた。

それから毎日、コウタの訓練も兼ねて庭を散歩したり、近くの公園まで行って僕はけん玉、コウタはヨーヨーを練習した。
「ひもが付いてるから無くならない」
という理由らしい。サッカーボールは部屋の隅っこに置いたままだ。

見えないから、感覚だけでやらなければならないヨーヨー。
そしてコウタの生活。
失敗した時に見せる悲しそうな顔は、すぐに笑顔に戻る。

「コウタはな、心も訓練中だ」
祖父が呟いていた。

「にいに!今日も行こうよ!」
明後日には家に帰る。この日も公園へ2人で出かけた。
現地までコウタは車椅子に乗って、僕が押す。
途中で買ったジュースを飲もうとした時、手渡しがうまくいかずジュースは地面に落ちた。

「どうしてかなぁ。サッカーも、けん玉も、ヨーヨーも、全然ダメだ。全然…」
コウタは小さく震えながら涙を押し殺している。

ジュースを拾い、コウタの頬に当てる。

「大丈夫だ!けん玉も、ヨーヨーも、リフティングも、やれないことはできるまで俺が全部やってやる!」
コウタが目を丸くしている
「一人で全部やるなよ…こうやって一緒にどこにだって行けるんだ」
そう言いながら、僕はいつの間にか泣いていた。

「どこにだっていけるのか…」
コウタは笑いながら僕の頬を触る。
「にいに。泣くなよ」
その手は、力強かった。


コウタの目は回復しなかった。
あれから更に訓練を受け、目が見えなくても暮らしやすいようにリフォームした我が家で、コウタは普通の生活を送っている。

ある日
「あのさ、あれからちょっと練習してるんだよ」
とサッカーボールを手に庭でリフティングを始めた。
3回。100回には程遠い。

でも、コウタの一歩は僕の100倍だ。

「後は、けん玉とヨーヨーだね」
イタズラに笑うコウタに
「まかしとけ。先は長いよ」
と僕も笑って答えた。

また夏が来る。
今年は2人でどんな夏にしようか。
また2人で越えていこう。

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