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小さな古墳の頂きから くらまを望む

ついさっき最後のオーダー品を手直しついでに、直接手渡してきた。待ち合わせ場所に少し早く着いてしまったが、程なく息を切らせて全力疾走で駆け寄って来てくださった。その勢いで『娘さんを僕にください!』と言われれば、ノシをつけて差し出してしまいそうな好青年だった。手直しに加え予定より早く到着したおっさんにも関わらず、額の小汗を振り飛ばす勢いで何度もコウベを下げてくれる。本当に申し訳ない。そして"あの奇抜なアイデアはこの好青年が考えたのか"などと、喜びを噛み締める時間でもあった。

趣味の延長から始めた工房が有難いことに、盛夏の節句に泡を吹くようなオーダーを抱え込んでしまった。

ひとえにギターストラップに限らず、本職の方が見たら鼻で一蹴されるようなアイテムを(待ってでも)購入してくださる皆さんのおかげでしかない。本当にありがとうございます。そしてこの工房を立ち上げるキッカケになった小さな古墳の頂きでの出会いとトニーライススタイルストラップ。そのご本家showcase製トニーライスストラップを、正式に輸入販売していらっしゃる"くらま楽器"※のオーナー吉田さんのお耳に届いてしまったようだ。

"怒られるぅぅぅっ!!!"

というか学生の頃から宝塚などステージでもお見掛けしていた第一線のバンジョー奏者なので、丁寧なご挨拶を頂戴した時には正直手が震えた。が、あの笑顔そのままの優しさで、どこの馬の骨かもわからない若輩を労って下さった。楽器をコロコロ変えては好きだけでだらだら続けていたブルーグラス。結局1mmの爪痕も残せず結婚を理由に店仕舞いした私が、当時は想像もしていなかった形で皆さんに手を引かれ戻ってこれた気がしてならない。

 ※くらま楽器さま 

前筆でも触れたように私の青春を鷲掴みにしたままのシンガーソングライター、花岡幸代さんのシグネチャーストラップを作らせて頂いた日が弊工房のピークと疑わなかったので、正直貯めていたアイデアを形にする気力を失い惰性で営業していた。ほら、よくシャッター商店街の隅っこで空いてるのか閉まってるのかわからない電気屋みたいな。おかんに電池を買いに行ってこい!とお遣いを頼まれても、キャンキャン吠える小型犬だけが飛んでくるみたいな。

ところが何の因果かその開店休業状態の店にまとめてオーダーが立て込むんだから、世の中の仕組みはよくわかんない。noteもweb storeの更新もままならない状態で、頂戴したオーダーを死ぬ気でこなす2ヶ月強だったし、本当に楽しく勉強になった。重ねてのお礼になりますが、ありがとうございます。

いつもより簡素ではございますが、頂戴したオーダーなどを時系列でまとめて紹介いたします。


✳︎USヴィンテージスタイルストラップ✳︎


以前オーダー下さった方のストラップをどこかでご覧くださったようで、web storeで立て続けに2本製作致しました。そのうち1本はデザインから提案させて頂きました。とにかく染色されていない無垢の良さを知ってもらいたい!一心でした。またブルーグラス脳からどうしてもドレッドノートを基準に考えてしまっていた為、他のシルエットのギターや女性にも合わせやすいこのデザインはラインナップに加えることに致しました。私のドブロストラップも使っている、サドルレザーの無垢です。経年変化で飴色に育てる醍醐味こそ、ヌメ革の良さに思います(このあと約5分後に全く逆のことをいいます。お楽しみに)


✳︎ストラップ屋さんのキーホルダー/オーダー3種✳︎

アルファベットの打刻オプションを始めて"あああ!打刻!打刻!わしになんぞ打刻させーい!"な気分の時に作った売切り商品。そのサンプルを見て3種まとめてオーダーくださいました。hide好き、KISS好き、エヴァ好きの仲良し3人で使われるそうです。レザークラフトでアンビリカルケーブルを作ったのは私くらいじゃないでしょうか。肝心の売切りはずっと売れずに店先に並んでます。おい!恥ずいぞ!誰かもらってくれい!

✳︎2ピースストラップ✳︎

ギターが大切で大切でヒールにストピンをねじ込めない、優しいお嬢さんから頂戴したオーダーでした。ヘッドからエンドまでを渡す為にweb storeでは初の2ピースストラップになりました。ある程度先にご要望をお伺いしてから、ご予算の範囲を越えないデザインを数種類提案するという今の作業方法は、工程が他より複雑なこの作品で効率よく動けました。桜色のオーダーカラーとオーナーの可愛らしいお人柄から、イメージ通りの作品が出来たかなと自負しています。ちなみにあの古墳の頂きにも居合わせた方。

ヘッド側は2種類の結び方が出来るように。
また将来的にヒールにピンを打つギターを所有した場合も考慮し、ストラップ自体を逆さにも使用できる加工を隠しておきました。

また無垢のヌメ革を基本料金とし、手染めなどオプションで対応する形で"シンプル2ピースストラップ"として40mm幅と50mm幅でラインナップに加えることになりました。

✳︎2ピースストラップ✳︎

前書きでも触れた好青年のオーダー。もう最初にお問い合わせを頂戴した時には、意味がわかんなかった。いや、どう形にすればいいのか見当もつかない色姿。。。

レザークラフトや革細工の世界には"それらしい色味"や"高見えする細工"など昔からセオリーのような概念が共通認識として存在している。例えば"生涯使える"とか"風合いを愉しむ"若しくは"経年変化であなただけのうんたらかんたら"など。例に漏れず私も広告のキャッチに利用しているし、『革の色といえば?いっせーので!』という質問があれば、答えは、私のひいひいひいひいじいちゃんのもっと前から茶色なのだ。ち!ゃ!い!ろ!茶色。

そんなおっさんの概念は彼のプランを前に、まるでユンボでジェンガを蹴散らすかのように吹き飛ばされてしまう。とにかく問屋から同業者から尋ねてまわった。蛍光発色の染料を探し当てど、果たしてベルト材(ストラップ)に耐用しうるのか。そのあと大壁に頭を打ちつけられる陰陽のボリューム問題も含めて、末長く使ってもらいたい⇄デザインにそぐわない素材(加水分解や染料劣化など)を行ったり来たりした。そういえば田舎から出て来たてホヤホヤの頃、阪急梅田で迷い長い長いあの動く歩道を2往復半したがあんな感じ。

もう彼の頭の中を覗いてみたい気持ちでいっぱいになってしまった。

またボリュームを持たせたいというアイデアもあり、ストックのクローム革やヌメ革で染色(厳密にはほぼ顔料の構成なので着色)テストと、思いつく限りの加工方法を試しながら、並行して彼と煮詰めていきました。


そして試行錯誤から4週目に。。。

そうです。あの謎のtwitterプレゼントキャンペーン!
実はボリュームを持たせる工程でカービング(彫刻)が向いてるのではないか?と思い、そんなレザークラフト界の最終到達地点の技法なぞ腕も道具も持っていない私は、一旦遠周り覚悟でカービングの修行に打ち込みます。オッドタクシーを観ながら。
(楽しかったので、これはまた別の機会に)

一朝一夕で習得できるものではない事を承知の上で。カービングの工具は一揃えで車が買えます。ここは申し訳ないのですが、代替工具で賄い何とか形にしてしまいます(本職の方に見られませんように!)。

そして染料のテストは見事クリア!もうこの辺りから週末が待ち遠しくてたまりませんでした。と同時に自分が思い込んでいた"これは良い。だって昔からみんな良いって言ってるもん!"というしょーもない請け売りの意識は、見事どこかに飛んでしまいます。

彼が。あの駆け寄ってきた好青年が、教えてくれたんですよね。お代を払ってまで。1mmも悪くないのに何度も謝りながら。

こんな鮮やかなストラップ、誰が頭の中で描けましょう。

若い頃、あんな頭の固いおっさんには絶対にならんぞ!と思ってたら。いつの間にかなってました。それを気づかせてくれたオーダーたちでした。

工房から大切なお知らせがございます。web storeのラインナップの一部で、オーダー方法が変わりました。
簡単にいうとオーダーストラップは、ヌメ革(サドルレザー/タンロー)の無垢を基本料金と設定いたします。希望のお色は全て、手染め仕上げでオプションにてお伺いいたします。(染色済みの素材20色からの選択は廃盤といたします)。
ついては価格設定を見直しました。安くなるものもあれば若干値上がりをしてしまう物もございます。
更なる品質向上と在庫素材の統一化で、フルオーダーからセミオーダーへと。できれば今後はある程度サイズ分けされたストックを持ちながら、即日発送も可能なストラップを作れたらと思っております。
もちろん今まで通り、素材からデザインまで他所様では困難な完全フルオーダーも安価でお受けいたします。副業と少なくとも色々な楽器に触れてきた経験は、ここでお役に立てるのではと思います。立奏苦手やけども!

詳しくはweb storeをご覧ください。



長々と書きしたためてしまいました。今後とも弊工房をよろしくお願いします。落ち着いてきたし、なんかアホみたいなん作ろかな。

拝 もひかん

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