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僕たちは火薬の匂いを知らない

『匂い立つ』という言葉がある。いつ、そして誰だか忘れたが、ある写真について誰かがコメントしていた。どんな写真だったかも忘れてしまったが、その言葉と写真の内容がぴったりだったのは覚えている。その時僕はとてもいい言葉だなと思って、自分のボキャブラリーの引き出しにしまっておいた。連発するとペラペラになるので、過去に一度使ったきり使っていない。

今日はその二回目を使おうと思う。匂い立つ写真。
Katsu Naito氏はまさに匂い立つ瞬間を切り取る写真家だ。
内藤氏の経歴はこちらを参照願う。
処女作『WEST SIDE RENDEZVOUS』はNYの売春夫に焦点を当てた写真集だ。単にセンセーショナルな写真を撮って世間を煽動しようという浅はかな動機ではないのは明らか。気軽に撮影に応じる被写体ではない。

発砲後の火薬の匂いが漂うアパート。窓から見える路上での発砲の現場。こめかみに当てたピストルが火を吹く瞬間。即死。鳴るサイレン。形式だけの出動をする警察。マシンガンを抱えて出歩く少年。お約束のドラッグ。絵に描いたようなハーレム。

映画の中の出来事ではない。それをまぎれもない現実として体験した内藤氏が切り取ったNYでの日々はまさに匂い立つ写真ばかりだ。

『今日は何本咥えたの?』なんて世間話をしながら被写体との距離を縮める。そんな世間話聞いたことはないが彼女とカツさんの間では、それが世間話であることに間違いはない。カツさん曰く『ちんこでかい』とのこと。
フラットに接していた空気が伝わる。

彼女はなかなか撮影させてくれなかったようだ。確かにそういう表情をしている。カツさんが風の噂で聞いたところによれば、まだ存命らしい車に運び込む前に、サインのインクを乾かすために少し外に出しておいた。この写真が路上にあったら、何が起こるか少し試したくなった。しばらく外に置いてあったが通行人は見て見ないふりをする。タブーに触れるのはみんな怖い。でも気になっちゃうでしょ?そして6枚あった大きなパネルにサインを書きながら当時の話をしていただいた。30年ほど前のことだが、当時の撮影の状況をカツさんは細かく覚えていた。

これらの大きなパネルは、僕が入社する何年も前にネペンテス各店で展示をしたときのものだ。GOO FACTORYで展示をお手伝いさせてもらった縁で、弊社で保管していた。普段はNYで生活する内藤氏が帰国するとの情報をゲットしサインをいただきに伺ったのだ。モノクロームの写真に、シルバーのサインが映えると思ったが、念のため白のペンも用意した。一旦シルバーで書いて、見えづらかったので上から白で書いてもらう。読み通り。2色用意して正解だった。こういう即興に僕は弱い。

弊社が内装を手がけたGoodtune様で取り扱いのあるブランドfilphiesの展示会に合わせた帰国だった。filphiesは内藤氏が手がけるブランドだ。

気になる方はぜひGoodtune様にお問い合わせを。アートを身にまとって街に出てみよう。新しい出会いや発見がきっとあるはず。

内藤氏とは吉田ルイ子氏の著作『ハーレムの熱い日々』の話もすることができた。マルコムXの自伝と合わせて読めば当時黒人が置かれていた状況が見えてくる。熱が冷めないうちにもう一度読んでみよう。

さらにGoodtune様では新しいプロジェクトが進行している。
説明不要のお二方、Mr.nepenthes 清水氏とENGINEERED GARMENTS 鈴木氏が二人で手がけるブランドthe conspiresが始動。こちらも目が離せない。

でも僕は目が離れている。


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