見出し画像

フロッグ・ジョセフ

何について書くのか

ニューオリンズジャズを演奏するトロンボーンプレイヤーとして、好きな奏者やアルバムについて不定期で書いていこうかなと思います。

今回はタイトルの通り、フロッグ・ジョセフ(Waldren “Frog” Joseph)と彼がリーダーのニューオリンズジャズアルバムである“Frog and his Friends at Dixieland Hall”について書いていきます。
“Frog”というあだ名は、演奏するときのほっぺの膨らまし方からそういうあだ名がついたそうです。※記事ラストの動画参照

今回は1番上に貼っているこのアルバムをたくさんの人に聞いてもらうことが目的なので、とりあえず読むより先に聴いてもらえたらめちゃくちゃ嬉しいです。

きっかけ

元々中高で吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたのだが、大学に入っても楽器を続けたいなと思った。

ただ、オケ、吹奏楽、ビッグバンドいずれにしても実力主義の世界だったので、万年銅賞の吹奏楽部出身で1年のブランクがあった自分にとってはあまりにも敷居が高かった。
ゆるく続けられそうなサークルもあったが、恐らくエンジョイ勢の需要が高かったのか抽選制で、自分はあえなく漏れてしまった。

抽選に漏れた時点で他のサークルはほぼ入部締め切りになっていた。全サークルで1番最後まで部員を募集してたことで入部することになったのが「早稲田大学ニューオルリンズジャズクラブ」だった。

最近でこそニューオリンズジャズを楽しんでもらうため、広めるために精力的に活動しているが、きっかけは全くの偶然だった。大学に入るまで地名を聞いたこともなかった。

日本のニューオリンズジャズ界隈はとにかくトロンボーン奏者が少ないが、今思えば入学した時からそんな状況だった。
入部したての1年生は割とどのパートも同じくらいの人数がいたが、クラリネットやトランペットは最上級生が3,4人いるのに、トロンボーンは1人だけだった。

しかし、この唯一の先輩は本当に親切に基本的なことを色々と教えてくれた。
入部時は楽器未経験だったにも関わらず、レギュラーバンドのメンバーとして活躍していて、同期、後輩の誰からも一目置かれている先輩だ。
今考えても、未経験者とはとても信じられないなと思う。

そんな先輩に「トロンボーンがかっこいいアルバムありますか」と聞いて教えてもらったのが冒頭のアルバムだ。

この記事を書くにあたって改めて聴き返したが、自分のニューオリンズジャズのベストアルバムは未だにこれかもしれない、そう思えるくらいに好きなアルバムだ。
今回はタイトルにもなっているフロッグ・ジョセフのすごさとともに、このアルバムの素晴らしさを綴っていこうと思う。

どんなアルバムなのか


ニューオリンズジャズを聴いたことがない人にも、聴き込んでいる・演奏しているという人にも、どちらに向けてもオススメできる間口の広さをもったアルバムだと思う。
特にニューオリンズジャズに興味がある、演奏しているというトロンボ一ン奏者には絶対に聴いて欲しい1枚だ。

ニューオリンズを聴いたことがない人向けのいいところ

明るい

ニューオリンズジャズの強みは
・明るいこと
・シンプルなこと
この2点が大きいと思っているが、その2点が素直に表現されている。
ただでさえ明るいニューオリンズジャズだが、このアルバムはスローなブルースは1曲のみで、明るく陽気な感じが前面に出ている。
よく「テーマパーク(ディズニーランド)で流れる音楽」と紹介されるが、まさにそんな感じだ。
明るくてシンプル=誰でも楽しめるというのがニューオリンズジャズの素晴らしさだと考えているので、そういう面からもこのアルバムに対する思い入れは深かったりする。

短い

9曲で28分という長さ。
1,2曲ちょっとお試し、くらいな感じでも5分くらいで楽しめちゃう。

上手い

上手いからこそ、スッと懐に入り込んでくるという感じだろうか。
「ヘタウマ」という言葉があるように、いい音楽が必ずしも技術に左右されるわけではない。が、「技術面の低さがノイズになる」という心配がないので、万人に勧めやすいように思う。

ニューオリンズジャズトロンボーン奏者向けのいいところ

ニューオリンズトロンボーンプレイヤーが演奏中何をすればいいかが分かる

ニューオリンズ系のトロンボーンプレイヤーとして、フロッグは歴代きっての技巧派プレイヤーだと思う。No.1と言ってもいいかもしれない。
このアルバムの短い収録時間の中にも随所に技術が散りばめられている。
フラッターを利かせたグリッサンドで荒々しくアンサンブルにアクセントを加えたと思えば、次の周はスタッカートによる小刻みなフレーズでコミカルさを演出する。
“wabash blues”や“over the waves”におけるプランジャーミュートの使い方も素晴らしい。

そしてなにより、これだけ難しいフレーズを吹いているにも関わらず、リズムが全然ブレないのが1番すごいかもしれない。

その引き出しの多さは必ず演奏する上でのヒントを与えてくれると思う。

トロンボーンの音がしっかり聴こえる

フロッグの音量云々というよりは、レコーディング環境の問題だと思うが、とても明瞭に聞こえる。
古い音源だと音質・音量バランスが悪くて何吹いてるか分からないなんてことがあってフレーズをコピーする上で難儀するものだが、そうしたストレスは感じなくていいし、なによりフロッグの演奏を余すことなく楽しめる。

トロンボーンフィーチャー曲がある

“lassus trombone”、“slide, frog, slide”、“wabash blues”と3曲も入っている。
このうち“wabash blues”はワンホーン(途中クラリネットソロはある)での演奏で、“slide, frog, slide”はフロッグ自身をテーマに作られた曲だ。
ニューオリンズジャズ界隈におけるトロンボーンフィーチャーの録音はあまり数多く残ってないだけに、トロンボーンの魅力に焦点をおいた録音が聴けるのはとても嬉しいことだ。

サイドメン(共演者)も素晴らしい

この時代のフロッグは大体以下のメンバーと一緒に演奏していることが多いが、いずれも名手ばかりだ。今回のアルバムもそうしたお馴染みのメンバーとの絡みを楽しめる。
いずれも技術的なレベルが高いからか、軽快でありつつもテンポがぶれない演奏が多いように感じる。

louis cottrell(cl)
lester santiago(pf)
placide adams(ba)
paul barbarin(dr)

自分はトロンボーン奏者だが、ルイ・コットレルのハモリをはじめとするフレーズの流麗さと、ポール・バーバリンの展開の作り方にはいつも惚れ惚れとしてしまう。
トランペットは録音ごとに流動的であることが多い。トランペッターが曲の進め方のイニシアチブを握ることが多い中で珍しいケースだと思う。

ニューオリンズトロンボーンプレイヤー向けの難点

コピーが難しい

このアルバムを聴けばフロッグが素晴らしいプレイヤーなのは瞭然なことで、「こうなりたい」と思うのも自然なことなのだが、軽い気持ちでフレーズを真似してみても全然それっぽさがでない。
要因はシンプルに言えば、「フロッグが上手すぎる」ということに尽きると思う。

キッド・オリーやジム・ロビンソンのようなシンプルな代名詞的なフレーズを使い回す訳ではないので、コピーしたとてセッションの中でフレーズを思い浮かべて取り入れるところに辿り着けない。
頑張ってフレーズを染み込ませても、そうした複雑なフレーズをタイム感狂わず差し込むのにまたハードルがあるのだ。

上記の時点で難易度が高すぎるのだが、個人的には「数多くの引き出しの中から、セッションの状況に合わせて正しいチョイスをする」というのが1番難しい気がする。

フレーズが一辺倒なプレイヤーですら、曲の展開に合わせて音量や強弱を変えていくのに、フロッグの場合は周毎に別人になったかのようにキャラクターがガラッと切り替わる。
フロッグをアイドルプレイヤーとして徹底的に真似しようとすれば、徹底的な頭と表現の切り替えを瞬時に行わなければならないというのが大きな壁になりそうだ。

おわりに

長くなってしまったし、マニアックな内容になってしまったが、書き切って一旦は清々しい気持ちになった。
(また後日書き足すかもしれないけど)

実は去年の秋から自分のバンドでフロッグのプレイをコピーすべく毎回のライブごとにずーっと特定の曲をセットリストにねじ込んでいた。

結局、全然自分が納得出来る域までは行けなかったのだが(←お金をとって演奏しているのに公の場でこういうことを言うのは本当はダメだけど)、やればやるほど奥深さが分かっていったし、学生の頃よりは解像度が上がって何が足りないのかも分析できるようになったので、つい筆が乗ってしまったのだった。

「きっかけ」のくだりで、日本のニューオリンズジャズのトロンボーン奏者が少ないと書いたけど、それは多分

①ニューオリンズジャズのトロンボーンの楽しさが伝わりにくいので奏者が増えない
②他パートの人が求めるレベルのトロンボーン奏者がいない
③そもそも他パートの人にトロンボーンの役割や重要性があまり伝わってない

の3点にあるのかなと思う。

一奏者としては②の部分を克服すべく精進していきたいと思う一方、①と③についてはこうした発信を通して少しでも状況が前向きになるようにトライしていければと思う。

なので、またそのうち別のプレイヤーについて書いてみようと思います。
時間かかるので本当に気まぐれなペースになるかと思いますが、読んでもらえたら嬉しいです。

文章はともかく、今回紹介したアルバムが1人でも多くの人に聴いてもらえたら嬉しいです。
(サブスクにないのが惜しい)
(CD持っているのでご希望の方は個別でご連絡ください)


おまけ
フロッグの演奏している映像🐸

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?